37. 一週間後
キュウを仲間に迎えてから一週間が経過した。
その間もそれぞれ討伐クエストやお手伝いクエストをこなしていき、一日も休むことなく稼ぎに稼ぎまくった。
当然それだけ働いていれば疲れたり怪我をしたりするが、クレリックであるキュウのおかげで体力も怪我も簡単に回復させてもらえる。
そのおかげか
しかし、
「――ねえヘージ」
「ん? どうした、ナノ」
「私たち、一週間は働いたわよね?」
「ああ、そうだな。一日たりとも休まず働いた地獄の一週間だったな」
今日も今日とてクエストをガンガンこなそうとギルドのいつもの席から掲示板に向かおうと席を立ったとき、ふとナノが話しかけてきた。
「借金返済期限の来月まであと四日よね? 私たち今いくら持ってる?」
「――さーて、今日も働きに出かけるか〜」
「逃げようとしたわよね?! 今完全に逃げようとしたわよね?!」
おいおい、人聞きの悪いことを言うなよ。せっかく俺が仕事に対してやる気を出しているというのに。
ニートは一度やる気を削がれたら二度と立ち上がらない生き物なんだぞ?
しかし、俺を見つめるナノの目はかなり真剣なもので流石に無視するわけにもいかず、とりあえず一度席に着いた。
「いい、もう一度聞くわよ? 私たち今いくら持ってる?」
「……エレナ言ってやれ」
「キュウ殿、お願いします」
「ナノさん、どうぞ」
「五十万ルピカよ! なんで私が言わなきゃいけないのよ!!」
「今のだいぶ良い連携だったぞ? この調子で頑張っていこう。それじゃあレッツゴー」
「待ちなさい。誰がレッツゴーして良いって言った?」
目の前の問題を直視しないようにさっさと仕事に向かおうとしたが、ナノに肩を掴まれ強制的に座らされる。
「どう考えたって間に合わないでしょ?! 一週間頑張ってやっと半分だったのに、あと四日でもう半分を稼ぐのは無理よ!」
ナノは机を思いっきり叩いて思いの丈をぶちまけた。
いつになく感情的で荒々しいな。まあ、気持ちはわからなくもないが。
「――ナノ。諦めたらそこで試合終了だぞ?」
「だから終了しないように話し合おうとしてるのよ! むしろ終了させようとしてるのあんたでしょ?! さっきからずっと事あるごとに逃げようとしてるじゃない」
「――ナノ。時には諦めも肝心だぞ?」
「さっきと言ってることが真逆! どうやったらそんな短時間で矛盾を引き起こせるのよ!」
どうやって? 簡単な話だ。発言に責任を持たなければいくらでも矛盾を引き起こせる。
だが、実際ナノの言うことは物凄くわかる。
俺も薄々感じてはいた。果たしてこのペースで借金返済金額の百万ルピカに届くのかと。
そして、特に何も考えずがむしゃらに働きまくった結果がこれだ。今でも最大効率で働いているのにこの稼ぎじゃ、どうあがいても返済期限に間に合うビジョンが見えない。
「やっぱ一発で大金を稼げるクエストじゃないと間に合わないよな~」
「しかしヘージ殿。このギルドの高報酬クエストは、自分があらかたクリアしたのでもう残ってないですよ?」
「お前今さらっとすごいこと言いやがったな?」
やっぱこいつ人間じゃねえだろ。
どうやったら一週間でギルドの高難易度かつ高報酬のクエストを一人で全部こなせるんだ?
エレナの人間離れした実力には、毎度驚かされてばかりだ。
「あ! 僕思いつきました! この際、他の誰かから借りればいいんじゃないですか?」
「おお! キュウ殿、それはナイスアイデアです!」
「キュウ。多分それ一番やっちゃいけないやつだ……」
「えぇ、そうなんですか?!」
借金を返済するために他の場所から借金してくるのは、どう考えても一番悪手だ。
最悪、借金を借金で返す負のループにはまりかねない。
「そもそも、うちのパーティーに金を貸してくれるとこなんてないだろ?」
「それは……うぅ」
「せめてフォローは入れてくれない? 悲しさがあふれて来るだろ」
うちのパーティーはただでさえ不運で有名なナノがいるのだ。それに加えて、なぜか評判最悪の俺がいるとなると、パーティー全体の信用度はゼロに近い。
そんなパーティーに金を貸してくれる奴は、きっとこの国中探してもいないだろう。
「っていうか、この中で一番稼いでないのはナノだぞ! それなのによく俺に対してどうこう言えるよな!」
うちのパーティーで稼いでいる順番を上げると、一番上からエレナ、キュウ、俺、ナノの順だ。
今まで高難易度高報酬のクエストばかりしてきたエレナは言わずもがな、次いで体力のあるキュウも重労働で高報酬のお手伝いクエストをこなしており、今まで稼いだ額の殆どはこの二人の物と言っても過言ではなかった。
対して俺とナノは体力もパワーも絶望的なまでに無い。
それに加えてナノは持ち前の不運をフルに活用して仕事に臨み、時には報酬を受け取れないレベルの失敗をやらかして泣く泣く帰ってきたときもあった。
「し、仕方ないでしょ! それに私だってどうにかしようと思ってるから、こうやって案を出そうと……」
「それで、肝心の案とやらは浮かんだのか?」
「それは……まだだけど」
ナノがナノなりに努力しているのはもちろん知ってる。
稼いだ額は俺の方が上だが、お手伝いクエストを受けた数ならナノの方がはるかに上だ。
そんな彼女に向って責任を追及しようとすること自体が鬼畜の所業なのだろう。
努力には結果が伴わないこともある。それでも頑張ったこと自体が無駄になる訳じゃない。だが、今回は結果が伴ってもらわないと困るのだ。
「――はぁ……どうしたもんか」
八方塞がりの状況を前に、事態が好転する兆しは一切無い。
痛いところを突かれたナノは責任感じて俯いてるし、エレナとキュウは頭を抱えながら唸っている。この様子じゃ、絶対に良案は出ないだろう。
窓の外は青空が雲で一面覆い隠された曇天。まるで俺たちの行く末を暗示しているようだった。
そのとき、
「皆さーん! 掲示板に新しいクエストが追加されましたよー!」
受付のお姉さんの大声が、ギルド全体の騒がしい空気と俺たちの重苦しい空気を同時に伝っていった。
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