ラストバトル!

 友人の刃を受け止め、ボクはホルストに呼びかけた。


「ボクだよ、サヴだ!」

「サヴ!」


 ホルストが、剣を収める。


「なにい!? バカな!、オレ様の催眠は完璧だ! なのにどうして?」

「愛するサヴを、斬ることはできん!」

「くそう! 勇者の信念を甘く見ていた。魔族の魔術を消し飛ばすほど、ぞっこんだったとは!」


 結果的には、催眠が解けてよかった。そのはずなんだけど、釈然としない。なんだかモヤモヤする。


「モロクに負けて魔力の大半を失い、ようやく知略で追い詰める予定だったのに!」


 魔王との勝負で負けたせいで、マンモンはモロク打倒の策を立てていたという。


 その一環が、配下のゲーアノートを勇者パーティに入れること。


 ボクたちが仲間割れを起こしている間に、邪竜や魔神を仲間に引き入れることだった。

 頭がいいのか悪いのか、かなりヤバいところまでボクらは追い込まれていたのである。


 ヨートゥンヴァインに立ち寄っていなかったら、世界は滅んでいたかも知れない。


「へ、へへへえ」


 マンモンが、不敵に笑う。負け惜しみのようには見えない。まだ何か、切り札があるのか?


「ギャハハハーッ! まだオレ様は負けていない! ニンジャ、貴様はすでにオレ様の呪いにかかっている。ゲーアノートを介してな! わからなかったのか?」

「呪いだって?」

「そうよ! 身体が徐々に女に見えてくるという、遅効性の呪いだ! 男どもは、お前を女としか見なくなる。絶世の美少女に移るのだ。すべての男がお前を取り合うだろう!」


 なんて厄介で、いやらしい呪いなんだ!


「この呪いは、永遠に消えぬ! モロクの寵愛を受けるか、ソーマでも飲まぬ限りな!」



 あ。



「ソーマなら、飲ませた」


 キュアノが、ボクを抱き寄せる。


「なぁにいいいいいいいいっ!? ばかな! ソーマは、エルフが口移しで飲ませないと、効果を発揮しない!」

「口移し……うん」


 ボクとのキスを思い出しているのか、キュアノが唇に指を当てた。


 確かに、ボクは口移しでソーマを飲ませてもらったっけ。


「な、なんなんだお前らは! オレ様の計画を、ことごとく潰しやがって! ご都合主義にも程があるだろっ!」


 もやはマンモンは、涙目になっていた。


「やはり、からめ手で世界制覇をしようとしたのが間違いだったのだ! たとえモロクに勝てずとも、貴様らを全滅させることはできよう!」


 そうである。まだコイツは、それだけの強さを有していた。ボクたちが束になって、勝てるかどうか。


「そうはいくか! みんな!」


 ホルストとカミラ、ベネットさんが、三人がかりでマンモンと戦闘になる。


 三対一という有利な状況でさえ、マンモンは涼しげだ。


 魔法使いさんは、ボクたちに防護魔法をかける。


「あなたは?」

「オレはオイゲン。君がエイダの恋敵だって聞いてね、魔法使いだと偽って旅していた」


 オイゲンさんは国王の弟で、エイダ姫のおじさんらしい。


「これでいいかな、お嬢さん?」


 オイゲンさんは、ルティアの肩に手を置く。「オレの魔法では、マンモンを撃ち抜けないのでね」と。


「ああ。エネルギー充填完了だ」

『気力満タンなのです!』


 魔神を倒して疲弊していたルティアに、オイゲンさんは魔力をチャージしてくれたようだ。


「じゃあ、頼んだよ!」


 オイゲンさんは、バリアに集中した。


『ハイパー・バスター・ストームです』

「くらいやがれ!」


 独特のポーズとともに、雷撃のブレスが展開される。


 前衛三人が、慌てて飛び退く。


 直後、マンモンが雷撃をまともに浴びた。


 雷撃は屋敷を吹き飛ばし、木々を薙ぎ払う。山の地形をも変えた。



 土煙が晴れだしたが、マンモンを倒せたかは確認できない。



「やったか?」


 オイゲンさんは希望的観測をするが、ボクは首を振る。


「まだです!」


 マンモンが吹っ飛ばされた場所から、ハルバートが生き物のように伸びてきた。


「キュアノ!」


 ボクを抱きしめていたキュアノを、手で突き飛ばす。


「あああっ!」


 脇腹に、強烈な一撃が突き刺さった。


「サヴ!」

「来ないで、キュアノ!」


 ボクはそのまま、土煙の中に飲み込まれる。


 煙が晴れて、マンモンが姿を表した。全身黒焦げで、雷撃のダメージが蓄積されているのがわかる。皮膚が焼けただれ、傷口が痛々しく泡立っていた。


「よくもよくも! こうなったら、貴様らと刺し違えてでも、野望を実践する!」


 ボクを刺していたハルバートを抜き、ホルストたちへ向ける。


 黙ってやられるボクじゃない。マンモンの首に組み付いた。


「な、このガキぃ!」


 片手で引き剥がそうとしてもムダだ。

 ホルストたちに向けているハルバートを手放して、両手を使わないと。


「ホルスト今だ! ボクごと斬れ!」

「そんなことをしたら、お前まで殺してしまう!」

「ボクに構うな! 今はボクの命を気にしている状態じゃない!」

「ダメだサヴ、離れろ!」


 ホルストの顔を、ボクは正面から見据える。


「ボクを……信じろ!」


 未だにためらうホルストの横に、キュアノが立つ。


「私はこんなときでも、サヴを信じる」


 キュアノが、光のサーベルを展開した。 


 それでいいんだ、キュアノ!

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