黒幕デーモンの最期

「まさかキュアノは、サヴごとあの悪魔を斬るつもりか?」


 迷うホルストとは対照的に、キュアノにためらいはない。


「信じてと言った。私は、サヴの言葉に従う!」


 光のサーベルを突き出しながら、キュアノはマンモンに飛びかかった。


「ホルストも戦うべき。あなたなら、サヴの意図がわかるはず」

「いいんじゃない? サヴくんを信じようよ」


 オイゲンさんも、後を押してくれる。


「臆病者に、チビ助を犠牲になんてできるものかよ!」


 マンモンが強引に、爪でボクの身体を切り裂こうとした。


「サヴ! おのれマンモン!」


 ホルストも、マンモンに切りかかる。


 この瞬間を待っていた。もちろん、キュアノにはわかっている。


 ボクは足の指に挟んでいた手裏剣を、「ホルストに向けて」放った。


「くっ!」


 大剣の腹で、ホルストが手裏剣を受け止める。


 跳ね返った手裏剣が、マンモンの目を狙う。


「ちいいい、小賢しいマネを!」


 首だけをひねって、マンモンが手裏剣をかわす。


 そのスキに、ボクは首四の字でマンモンを締め付けようとする。


「ボクの首四の字は、クセになるそうだよ!」

「離せ、気持ち悪い!」


 マンモンは、ボクを振りほどこうとした。


 ボクは、マンモンの鼻っ柱にヒザを食らわせる。


 キックの反動で、マンモンの頭が大きくのけぞった。


「今だよ二人とも!」


 二人に呼びかけて、ボクもマンモンの身体を足で拘束する。


 すっかりボクへ視線を奪われたマンモンへ、キュアノとホルストがクロスで切りつけた。ほぼ初めてパーティを組むにも関わらず、絶妙なコンビネーションである。


「ぬうおおおおおおお!」


 胸から大量に出血をして、マンモンが断末魔の叫びを上げた。


「やろおお!」


 首に巻き付いているボクを、マンモンが槍で突き刺そうとする。


 ボクは逃げられない。


「往生際が悪いのよ!」


 カミラが、マンモンの槍に向かって大盾を投げつけた。


 槍の棒ごと、マンモンがくの字になる。


 ボクは、マンモンの身体から飛び退いた。


「オレは最強の魔族、だったはずなのにいいいいい!」


 すべての黒幕だった魔族が、今度こそ破裂する。


「お前は誰がどう見ても、ダメな魔族だったよ」


 マンモンが爆発した跡を見つめながら、ボクは息を整えた。


「とうとうやったな。お前のおかげだ。サヴ」


 ホルストが、剣を収める。


「でも、まだモロクが残っているよ」


 モロクと一騎打ちして勝たないと、世界がヤツのものになってしまう。


「ああ、オレの大事なサヴを守るために、戦ってくる」

「え、ちょっと待って……」


 あれ、なんか様子がおかしい。


 たしか、ホルストはマンモンから「ボクを好きになる呪い」をかけられていたんだよね? そのマンモンが死んだんだから、呪いは解除されているはず。なのに、なんでホルストはボクを「メスを見るような目つき」で見ているのかな?


「ホルスト、マンモンは倒したよ? 呪いが解けたんじゃないの?」

「オレは、呪いが掛かる前からお前が好きだったんだ」


 そんな衝撃の告白、このタイミングでする!?


「いやいや、冗談やめてよ。勘弁!」

「サヴ、好きだ」

「いや、エイダ姫様のことを好きになってあげて!」


 だが、このやりとりを見て、黙っていない人物がいた。姫の親戚であるオイゲンさんだ。


「やはりそうだったのか。妹の心を弄ぶとは! たとえ勝ち目がなかろうと、君だけは!」

「おおっと! オイゲンさん、術式を解いて! ボクがなんとかするので!」


 オイゲンさんをどうにかなだめて、ボクはホルストを説得する。


「あのねホルスト。ボクは好きな人がいるんだ! 交際なんてできないよ」


 ボクはキュアノと手をつなぎ、ホルストの申し出を断った。


「サヴ」


 キュアノの方も、手を握り返す。


「身を引いて、ホルスト。サヴは渡さない」


 ボクの前に立ち、キュアノが決意を表明する。


「そうか。ならば仕方がない。キュアノが相手なら安心だ。お前の幸せこそ、オレの幸せだ」


 なぜか、ホルストがあっさり引き下がった。


 ホルストはモロクのいる城まで、単身で向かうという。


「一人で行くの?」

「アイツは堂々としたヤツだからな。姑息なマネはせんだろう」


 むしろモロクは、ホルストを一対一で倒して、自身の存在を他の魔族に知らしめることを好む。


「モロクを倒せたら、また会おう」


 カミラすら残して、ホルストは剣一本でモロクと一騎打ちへ。


「バカなやつ」


 付き合ってられないとばかりに、カミラは吐き捨てる。


「そうだな。彼は大バカだ。しかし、憎みきれない」


 呆れながらも、オイゲンさんは笑った。


「ちょっとうらやましいな」

『そうなのです』


 ルティアとシュータも、互いに思い合っている。だから、ホルストの気持ちが余計にわかるのだろう。


「彼なりに、ケジメをつけたかったんですよ」

「不器用だね。そこに、妹は惚れたんだろうけれどね」


 オイゲンさんが、術式を組む。


「どうなさるんです?」

「見に行くだけならいいだろう? 加勢はしない」


 モロクの城まで、一気にワープするという。


「ホルストに座標を合わせていれば、我が王モロクの城までたどり着けるだろう。我がナビゲートする」


 ベネットさんが、オイゲンさんの補助に回る。


「お願いします」

「しっかり、つかまっているんだよ」


 オイゲンさんが術を発動させた。

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