第四章 男の娘ニンジャ、邪竜と激突!

黒竜族と、白竜族

 一夜明けて、ボクはみんなのために朝食を作った。せっかく泊めてもらったんだもの。それくらいはやらないとね。


 メニューは、パンケーキだ。メイドさんにも手伝ってもらって、料理を振る舞う。メープルシロップなど定番の他にも、ベーコンやツナサラダで召し上がれ。


「おいしい。こんなの食べたことない」


 キュアノが、バターとメープルシロップで食べる。


「店売りよりうめえ! サヴ、お前ってなんでもできるんだな!」


 ルティアはジャムを付けて食べる。


「ありがとう。そういってもらえるとうれしいよ」


 みんなから絶賛されて、ボクも楽しくなっちゃう。


「生きていてよかったです。こうしてまた、サヴさんのパンケーキにありつけるのですから」


 自慢のツナと合わせながら、ダンセイニ卿が幸せそうな顔をする。


「ダンセイニ卿、家にお邪魔させていただいて、ありがとうございます」

「いえいえ」例を言うのはこちらです。こんな素晴らしい朝食は初めてだ。やはりサヴさんの作る料理に間違いはございませんな」


 卿の視線が、なぜかボクを舐め回す。


「それにしても、またメイド服を着てくださるとは」

「へ?」


 ボクは、鏡で自分の衣装を確認する。


 メイド服じゃん! なんで? また「思考が女性化する」呪いか? もう勘弁してよぉ!


 慌てて部屋に戻って、男物の服に着替える。


 冗談を言っている場合じゃない。ルティアの身柄引き渡しの時間がやってきた。


「本当に、行かなきゃダメなの?」


 ボクは引き止めるが、ルティアの意思は固い。


「色々世話になった。みんな、ありがとうよ!」


 玄関に、ドレイクの騎士がゾロゾロとやってきた。


「あなたがクラーケンを退治してくれたと、目撃情報があった。感謝する!」

「はえ?」


 ということは?


「海賊容疑は、不問とします!」


 ドレイク族の船長が、サムズアップをルティアに向ける。


「やったーっ!」


 聞けば、クラーケンが倒されたことによって、漁業や貿易の需要が拡大しているそうな。さらに、クラーケンを倒したことでその肉が高値で取引されているという。


「あ、そういえば、新しいイカ缶を開発するのに、分けてもらったな」


 白々しく弁解しているが、ダンセイニ卿のはからいに違いない。夕食の直後、どこかへ出かけていたからね。きっと、口添えをしてくれたんだろう。


「これで、黒竜族の姫君も、見つかるといいのですが」

「黒竜族の、姫君?」

「エルネスティーヌ・デュー王女ですよ。アナンターシャの襲撃を受けて、行方不明なのです」


 聞くところによると、ドレイク族には黒竜族と白竜族がいるという。二大勢力は、長い期間対立していた。しかし、魔王の侵攻に備えて和平の道を進んでいたらしい。


「それを妨害したのが、邪竜となったアナンターシャなのです」


 アナンターシャは、両勢力の有力者を殺害、姫も亡き者にしようとしていた。


 しかし、死んだのは白竜の王子「ギュスターヴ・グエン」だったという。


 黒竜族の王家も、今やエルネスティーヌだけ。他はすべて、アナンターシャ派しか生き残っていない。


 ドレイクの王族と、ボクは面識がない。なので、王女の名前すら知らなかった。


 船長や騎士たちは、白竜族だという。


「我々はなんとか、ギュスターヴ王子の仇を討たんと準備を進めていたのですが、いよいよ悲願が叶うときかと!」


 ドレイクの船長さんは、息巻いている。


「して、お嬢さん。あなたは、その姫君に心当たりは……」

「知らないね。アタシはケチな海賊崩れさ」

「そうか。何かあったらご報告を。勇気ある者よ」

「ありがとうよ」


 ドレイクの船長が去っていく。


 玄関に立ち尽くしたまま、ルティアがずっとうつむいている。


「ルティア、シュータ、ちょっといいかな?」


 ボクは、ルティアの肩に手を置く。


「村の家族が救い出されて、アナンターシャをやっつけたら、海賊行為はなくなるんだね?」

『おそらく、大丈夫なのです』


 ルティアはうなずき、シュータが予測を立てる。


「よし。アナンターシャ退治は任せて。ダンセイニ卿には、街の復興をお願いできますか?」

「お安い御用です! 邪竜の邪魔さえなくなれば、貴族も協力的になってくれますぞ」


 ダンセイニ卿が、胸を叩く。


 安心させるつもりで言ったんだけれど、シュータは首を振った。


「お前らを巻き込むわけには、いかねえよ」

「何を言ってるの? もう巻き込まれているよ」


 ここまで来たんだ。最後まで面倒を見る。 


「乗りかかった船とも言うじゃないか。海賊だけにさ」


 シュータが、点滅する。


『知恵をお借りするのです、ルティア。一人で抱えていても、仕方ないのです』 

「だな。悪いが、世話になる」


 悲しげだったルティアの顔に、光が戻った。


「そうだ、伯爵。冒険者さんに聞いたんですが、寄付を横流ししている貴族がいるって」

「きっとエチスン男爵の仕業です! 吾輩の政敵ですぞ!」


 海賊を裏で操り、ダークサイドのギルドと繋がっているらしい。


「エチスン男爵はここ最近になって、漁業を牛耳り始めた貴族です。商業ギルドにしゃしゃり出て、魚介類の値段をコントロールしています。国家も彼の所業を承知しているのですが、証拠がなく」

「証拠があれば、いいんですね?」


 ボクは、メイド服のかかったハンガーを手に取る。

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