男の娘 対 海のドレイク

 素人海賊たちは、ベテラン冒険者たちによって捕縛される。護衛船の人たちも救出された。


 とはいっても、どうやって戦うか。


 案外やるのか、キュアノの攻撃を半魚人は槍で受け止め続ける。反撃に、槍の先から雷撃まで放ってきた。


「思っていたより手強い」


 槍からの雷撃をかわしながら、キュアノが戦力分析を改める。


「我らが女王、邪竜アナンターシャ様からもらい受けたこの力、思い知るがよい!」


 聞き捨てならない言葉が、耳に入ってくる。邪竜だって? 邪神はボクとホルストで退治したはずだ。


「邪竜とやらから手に入れた力のせいで、ブサイクになった?」

「んだと?」

「聞けば、邪神の信者はみんな醜いという」

「言わせておけばぁ!」


 怒りに任せて、半魚人が槍を振るう。


 キュアノのサーベルが、半魚人の頬をかすめた。


 半魚人の顔から、青い血が流れる。


「ああ、元からだった」

「てめえ、絶対に殺してやる!」


 キュアノの挑発に、半魚人はさらに怒り狂った。


「悪いけど眠ってもらうよ」


 ボクも負けてはいられない。海賊のときみたいに、首元を刀で狙う。


「おっと。その手には乗らねえよ」


 しかし、ルティアはその見た目に反して素早く反応した。銃身でたやすく防御されてしまう。腐ってもドラゴンか、戦闘能力が高い。


「やるじゃねえか。アタシはルティアだ」


 ルティアは、戦闘を面白がっている。友達とじゃれているかのように


「ボクはサヴ。どうして、こんなひどいことをするんだ? キミは、そんなことをする子には見えないけれど?」

「うるせえな。こっちには事情があるんだよ!」


 幼女が腰を落とす。


「悪いがこちらも仕事なんでね。消えてもらうぜ!」

「まずい!」


 あの電撃を、至近距離で撃たれる! しかしよけたら、後ろのキュアのに当たってしまう!


「よし来い!」


 ボクは、刀で騎銃の筒を抑え込んだ。撃てば、両者とも爆風で無事では済まなくなる。


「構うな、撃っちまえ!」


 半魚人が、ルティアを煽った。


 ルティアの目に、ためらいが浮かぶ。やはり、本心で戦っているわけではないようだ。


「テメエ、こんな距離で撃ったら死ぬぜ!」

「ボクは死なない、絶対!」

「コイツ、死ぬのが怖くねえのかよ!?」


 死ぬのは怖い。けれど、キュアノが傷つくほうが嫌だ。


「来い!」


 ボクの決意に、ルティアは目に見えて気圧されていた。


「殺し合いをやってんだぞ! 相手が死んだって構うもんか!」


 なおも、半魚人はルティアに怒鳴る。


「てめえ、お友達がどうなっても知らねえぞ!」 


 半魚人に脅される形で、ルティアが引き金に手をかけた。


 これでは、彼女も被弾する。ボクはやや後ろに下がった。ゼロ距離で放たれた雷撃を、ボクはまともに浴びてしまう。


 全身が焼けるように熱い! 砕けそうだ。血管の中を電気が駆け巡り、神経の中にまでダメージを与えていく。


 普通の人なら、即死レベルの攻撃だろう。


 しかし、ボクだって多くの強敵の魔法を受け続けてきた。このくらい!


「わあああああ! まだまだ!」


 刀を斜めに構えて、どうにか雷撃の威力を削ぐ。


「アタシのバスターストームを、受け止めただと!?」


 雷撃を撃ちながら、ルティアが驚愕する。


 ボクは、小型レッドドラゴンのブレスだって防いだことだってあるんだ。これくらい!


「こんのおおおおおお!」


 刀で防ぎ切った雷撃を、上空へと逃した。

 標的を失った雷が、青空に霧散する。


「この野郎、アタシのバスター・ストームをそらしやがった!?」


 母の刀だったから、為せる技だった。もし自分の刀だったら、ボクもろとも蒸発していただろう。今回は、母に助けられた。


 しかし、これが限界か。


「サヴ!」


 気を失いかけたが、キュアノの声で覚醒する。


「よかった、無事だね」


 刀を杖代わりにして、なんとか踏んばった。


「なにをボケてやがる! 今のうちに殺せっ! さっさとやっちまうんだよ!」


 半魚人が、幼女に檄を飛ばす。


「どうしてそこまでやるです?」


 初めて幼女は、見た目相応の反応を示した。


「仲間を犠牲にするくらいなら! ボクは! 自分が傷つくことを選ぶ!」


 世界を見られないのは残念だけれど、キュアノを死なせてまで叶えたくない。母さんだって、同じことをしたはずだ。


 ルティアは、騎銃を落とす。 


「何をためらってやがるんだ、テメエ!」


 半魚人が、槍でルティアを殴る。


「はやく騎銃を持ってぶっ殺しちまえよ! テメエ一人が死ぬくらい、どうってことねえんだ!」


 まったく悪びれず、半魚人はわめき散らした。


「どうってことないのは、お前の方」

「なあ!?」


 半魚人の肩を、光るサーベルが貫く。


「手加減されていることに、気が付かなかった?」


 キュアノが、半魚人からサーベルを抜いた。


「ヤロウ、ふざけやがって! こうなったら!」


 半魚人が、首に下げた角笛を吹き出す。


 耳障りな音とともに、波が荒れ出した。


 海賊船のすぐ横に渦が巻き上がり、中央から触腕が伸びてくる。触腕は、複数の海賊船を叩き潰した。


「クラーケン、出てこいやぁ!」


 イカの怪物が、海から顔を半分覗かせる。

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