激突、クラーケン!

 ギョロギョロっと、クラーケンの暗い瞳がボクたちを捉えた。


 あの角笛は、クラーケンを呼び寄せる道具だったのか。


「ギャハハハ! オレ様は、逃げさせてもらうぜ」


 肩の傷を押さえながら、半魚人はヨロヨロと後ろへ下がる。


「こ、これで勝ったと思うなよ! ヨートゥンヴァインはもうおしまいだ。邪竜女王アナンターシャ様の前では、貴様らなど!」


 海に背を向けたままで、半魚人は船の先端に。


「後ろ」


 半魚人の背後を、キュアノが指差す。


「ああ? その手に乗るか。どうせ逃げる間に、不意打ちを浴びせる気だろう? オレの後ろに何があるってえええええ!?」


 キュアノの忠告も虚しく、クラーケンの触腕が半魚人に絡みつく。


「あばばば! よせオレはエサじゃね――」


 半魚人は、クラーケンのごちそうとなった。

 

「だからよけろと言ったのに」


 しかし、この怪物を野放しにはできない。


 今にも、クラーケンは船を壊そうと触手を伸ばしてくる。


 ボクとキュアノが二手に分かれて、触手を切断した。


「キュアノ、いけそう?」

「ノロいから、対処はしやすい。しかし、攻撃する手段がない」


 しかも、触手を切ってもまた切り口から再生しているではないか。これでは、キリがない。



「海の化け物には電気が効果的だって、相場が決まってるぜ!」


 ルティアが船の先に立った。独特のポーズを取る。


「くらえ、バスター・ストーム!」


 海に向かって、ルティアが雷撃を放つ。


 確かに、雷撃はイカの化け物に命中した。

 しかし、何かゼラチン状の表皮に覆われて威力が半減しているみたいだ。


「なんだ、電撃が効かねえ!」


「ゼラチンの皮膚が、攻撃を阻んでいるんだ!」


 キュアノは、クラーケンが伸ばしてくる触手を切り刻むのに大忙しだ。

 

「ちくしょう、どうすれば……」


 ルティアは、雷撃を触手切断の手段へと切り替えた。

 

「聞いていい、キュアノ? 大型魔法を唱えたりできない?」


 嵐の魔法を唱えて、触手を一網打尽にできないだろうか。


 しかし、その思惑はキュアノによって否定される。


「可能だが、今はムリ。そんなことをすれば、船が壊れる」


 キュアノも、同じことを考えていたらしい。


 そうか、だったら奥の手だ。


「ルティア、もう一回、ボクに向かって電撃を放つんだ!」


「はあ!? テメエ、何考えてんだ!」


「ボクに考えがある。お願い信じて!」


 半信半疑の様子だったが、ルティアはうなずく。


「……わかったぜ。死ぬなよ!」


 こんなところで、命を落としてたまるか。

 ボクはまだ、世界の半分も見ていないんだ!


 キュアノに走路を確保してもらいながら、船を駆け抜ける。


「合図する! 構えて!」

「おう!」


 ルティアが反転し、ボクのいる方角へ構え直す。


 ボクは、クラーケンのいる方角へジャンプした。


「今だ! ボクの刀に向かって撃って」


「バスター・ストーム!」


 黄金の雷撃が、ボクの忍者刀に直撃する。

 凄まじい威力だが、どうにかコントロールできそうだ。


 クラーケンが、大口を開けた。


 やはりコイツは、ダメージを負っている相手を優先して捕食するみたいである。


 触手が、船に絡みついた。船ごとボクたちを海へ引きずり込む気だ。


 急がないと!


 触手の一つが、ボクの足に絡みつこうとする。


「とろいんだよ!」


 足で触手を蹴って、ボクは刀を大きく振りかぶった。


「これでも喰らえ!」


 渾身の力で、ボクは忍者刀をクラーケンの口へ投げ込んだ。雷撃の勢いそのままに。


 雷魔法を帯びた忍者刀が、クラーケンのノドへと吸い込まれていく。


 外側は表皮で覆われているが、内臓はどうだ?


 透明な器官が、くっきりと胃袋を映し出す。


 忍者刀はキレイに、化け物の胃に穴を開けていた。


「ボオオオオオオオオオ!」


 汽笛のような鳴き声を発しながら、クラーケンが悶絶しはじめた。巨体を揺らし、波しぶきを建てる。

 

「もっとだルティア! 最大パワーで行け!」

「よっしゃあ! たーんと食いな!」 


 雷撃の火力が、更に増す。


 激しくケイレンしながら、クラーケンは身悶える。



 腰に巻きつけていた分銅を、ボクは船に投げつけた。鎖を手繰り寄せ、船へと近づく。


 しかし、最後の力を振り絞って、クラーケンの触手がボクの足首にまとわりついた。


 そのとき、ボクの側を細い何かがよぎった。クラーケンの目に、鋭い槍状の物体が突き刺さる。


 キュアノが、自分のサーベルを投げつけたのだ。ボクが投げた分銅の鎖を引っ張ってくれている。


「ダメ押しの、バスター・ストーム!」

 

 ルティアの雷撃が、今度はクラーケンの目に刺さったサーベルへと軌道を変えた。


 クラーケンは胃袋だけでなく、頭部まで感電を起こす。

 目から脳へ直接ダメージが及んだのか、今度こそクラーケンは息絶える。


 とうとう、クラーケンは黒焦げになった。美味しそうな匂いを放ちながら、海に浮いている。巨大な口が、ようやく忍者刀を吐き出した。


「はあ、よかったぁ。一時はどうなるかと」


 忍者刀とサーベルを分銅で回収し、ボクは一息つく。


 床に寝転びそうになったところを、キュアノに抱きとめられる。


「ありがと、キュア――」


 ボクは、キュアノに唇を奪われた。

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