雷のドレイク、ルティア

 ボクは帆柱を駆け上がり、状況を確認した。


「けっこう大部隊だね」


 六隻はあるだろうか。どれもこれもボロ船だ。弓兵が、こちらに矢の先を向けている。海賊の人種は、人族だけではない。人狼、猫又などの獣人や、トカゲ族などで構成されていた。


 こちらは武装していない。囲まれれば一発アウトである。


「護衛艦がいたはずでは?」

「一隻、沈められた!」


 見ると、武装した護衛艦が煙を上げていた。船員たちは、海に落ちている。負傷者は多数だが、死者がいないだけマシか。


 一番大きい船に、ボスらしき人物が乗っていた。アンコウみたいな顔で、体中に魔族を象徴するペイントをしていた。見た目からして、魚人族らしい。アンコウ頭は、首に角笛を吊り下げていた。


「あの半魚人みたいなのが、船をやったの?」

「違う。やったのは、あのゴスロリだ!」


 角を生やした幼女が、ボスの横にいる。砲身が太い騎銃を肩に担いで、足を横に伸ばしながらしゃがんでいた。深い藍紫色らんししょくのゴスロリ服を装備している。


 騎銃の先から、白い煙が上がっていた。あれで、護衛艦を破壊したらしい。


 幼女が、立ち上がった。ボリュームのある銀色のツインテールが、潮風に揺れる。貝殻か動物の角だろうか、有機的な装飾品でツインテールを結んでいた。


「サヴ、あの子は」


 キュアノの視線の先を追う。


 幼女のツインテールに巻き付いているのは、装飾品ではない。あれは、頭から生えている。もしかして。


「うん。ドレイクだ」


 希少種族の、ドレイクである。竜と人が交わって生まれる。ごく少数の種族だ。


「しかもあの子、シードラゴンだね」


 ドラゴンの服はウロコなのだと、聞いたことがある。元の姿になると、服が破れてしまうからだ。なので、ドラゴンは服を表皮に取り込んで、ウロコへと変換するのだと。


 ボクも、実物のシードレイクを見るのは初めてだ。


 見た目は幼いが、そのポテンシャルは計り知れない。


「なんでテメエはいつもいつも、ぶっ殺さねえんだ? 人間なんて木っ端微塵にすればいいんだよ! 指示通り、護衛艦くらい跡形もなく吹きとばせ! 面倒だろうが!」


 デブの魔族が、幼女の足元にムチを打つ。


「うるせえな。アタシはお前の手下じゃねえんだよ」


 うっとうしそうに、幼女が舌打ちした。


「んだぁ、その反抗的な目は? 村民共がどうなってもいいのか?」


 下卑た笑みを、デブ魔族が浮かべる。


 幼女は怯むことなく、騎銃を揺らす。ジャキン、と金属音が。再び幼女が、足を伸ばしながらしゃがむ。その方角は、半魚人に向けられていた。


 半魚人の背中ギリギリをかすめて、騎銃から黄金色の雷撃が発動する。


 真っ直ぐに伸びた雷撃が、もう一隻の護衛艦を海に沈めた。船底をかすめただけで、船は簡単に海の藻屑となる。


「危ねえだろうが、ルティアッ!」


 ルティアと呼ばれた幼女が、半魚人を睨む。


「はあ? テメエのデブ巨体が邪魔なんだよ。射線に立つなって、いつも言ってるだろうがよ」


 悪びれることもなく、ルティアは再度立ち上がった。


「それとも、船と一緒にふっ飛ばされてえか?」

「ひっ!」


 相手をビビらせて満足したのか、幼女はニヤリと笑う。


 あれは、わざとだ。相手が背を向けたのを確認して、あえてあの位置をかすめて撃った。嫌がらせで撃ったんだろう。


「あん?」


 しかし、こちらに視線を向けてくる。


 この位置がバレた? あんなところからも、こっちの動きが見えるのか。


「サヴ!」


 キュアノが、ボクに警告する。


 そのおかげで、素早く反応できた。


 煙を上げて、何かが飛んでくる。さっきの雷撃だ。それも、火力を最大限に圧縮したタイプの。


 ボクのいた場所が、跡形もなく消滅した。あんな攻撃をまともにくらったら。


「しまった、帆が!」


 帆を支える柱が、ルティアの雷撃で折れてしまった。


「まだ、なんかいやがるな。やっちまえ!」

「言われなくても」


 半魚人とルティアが、こちらの存在に気づく。


「仕方ない。手助けしよう。キュアノ、何分掛かりそう?」

「三分あれば」


 上等だ。


「二手に別れよう」


 ボクが右を、キュアノは左の海賊船を蹴散らしていく。


 みねうちを繰り出し、ボクは海賊たちを無力化していった。


 キュアノも同様で、鞘に収めたままのサーベルを海賊たちの首元へ打ち込む。


 一分もしないうちに、すべての海賊が倒された。


「残りは、お前だけだけど?」

「ふ、ふざけやがって! だが!」


 デブの半魚人は、まだ攻撃を続けるようだ。


「おい、やっちまえ! 村民がどうなってもいいのか?」


 どうも、その言葉でルティアを操っているらしい。


「テメエでピンチになっといて、オレに助けを乞うなよ」


 騎銃を担ぎながら、ルティアは半魚人を無視する。


「お前は、戦わないの?」と、キュアノは半魚人を挑発する。

「へっ、だったら相手になってやらあ!」


 デブ半魚人は、三叉の槍を手の平から召喚した。


 ルティアをボクが、半魚人をキュアノが担当することに。


「みなさんは、海賊を縛り上げて!」


 冒険者と船員にそう告げて、ボクは船の上で戦闘をする。


「加勢は必要か?」

「結構です!」


 かなり強めに、応援はいらないと告げた。

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