第36話 <extra edition2 希望>

 あの後も年に何人かの男性からお誘いを受けたが、食事することも、連絡先を交換することも全て断った。セックスを許さなければ男は薄情だし、身体を許しても私には入らない。男から言い寄ってきても、セックスが出来ないと分かるや否や男は他の女を作って去っていく。おまけに私が顔を近づけて愛を囁いたり、キスをすると臭くて気持ちが冷めるらしいのだ。

 この口が臭いという点には納得がいかず、後日歯医者に行って診察を受けた。きっと下衆の虚言で気にすることは無いと思っていたが、診察によると確かに正常ではないらしい。歯石除去や歯のクリーニングをした上で、「口が乾きやすい傾向がある。こまめに水分を摂るように」、「疲れがたまっていたり、体調が悪い時は特に気を付けてください」、あと「肉や油物ばかりの食生活も改善した方が良いかもしれませんね」との診断だった。要するに、私の口は本当に臭かったのだ。医者にまでこんな事を言われて、自分から男と恋愛する気になれなかった。ただ、男だけではなく、仕事の人間関係にも影響があるので、言われたとおりこまめに水分補給をするようにし、食生活も改めた。

 食生活の他にも、不摂生を改め、部屋の掃除に整理整頓、乾燥機を購入して夜洗濯してもしっかりと服が乾くようにした。また、できるだけ運動をするようにし、ベタつかない良い汗をかくようした。体型を整えるためにジムの会員になり、身綺麗になるために脱毛サロンにも通った。社会人2年目夏からの私は男に絶望し、オシャレやコスメ等いわゆる女子力アップに繋がる何かをするのではなく、健康と体力を向上させる努力をするようになった。


 癪だがヤツらとの経験で学んだことがもう1つある。一人エッチだ。鬼沢や竹荘が私の割れ目を撫で、クリトリスを刺激し、いわゆる“感じる”経験をした。悔しいがあの感覚が忘れられず、夜な夜な自分の指で自分のクリを触るようになった。大学時代の彼氏とはセックスをしたり、裸になったりすることはなかったものの、確かに彼らも私の股間に手を伸ばしてきたものだ。クリが気持ち良いと分かり、今頃になってやっと彼らの行動の意味が分かった。

 

 入社7年目、28歳。これまで鈴木先輩とのペアで数々のコンペを勝ち抜いてきて、私は『美声のプレゼン女王』と呼ばれ、社内はもちろん同業他社にも一目置かれるようになった。私達の業績と比例して会社の売上も伸び、中堅と言えるレベルまで会社が大きくなった功績が認められ、私は20代でチーフ職に任ぜられ、我が社初の20代チーフとなった。惨めな男性経験の後、それを忘れるように仕事に燃えた結果だ。

 この年は私の人生の大きな転換点で、チーフになっただけではなく、運命の出会いもした。将来の夫、刈谷ユウジが新卒入社してきて、私の部下になった。男女2人ずつ新卒を採用し、その内の一人がユウジ君だった。新社員が仮採用の間に3つの部を回って経験する時に企画設計部でも1人ずつ預かり一緒に仕事したが、ユウジ君は仕事面で特に印象が残ることが無く、ユウジ君よりもむしろ若狭君の方が仕事勘が良いように感じた。ただ、ユウジ君からは、上手く表現できないが漠然と“いい匂い”がした。石鹸やデオドラントではない、体臭というか他の男性からは感じなかった「男のいい匂い」がした。

 社内で誰がどの新入社員を引き取るか会議した時に、私は新米チーフだったため、一番に新入社員の誰を選ぶか指名することができ、ユウジ君を指名した。ユウジ君の明るく元気なキャラクターを営業部の竹田チーフが気に入り、「営業に来い。お前は営業向きだ。」とユウジ君を誘い、ユウジ君も営業部を希望したようだが、人事異動は企画設計部で、私、半田チーフがユウジ君を部下にして指導・育成することになった。


 ユウジ君とは上手く仕事を進めることができた。明るく元気で親しみやすく、誠実で信頼できる部下だ。私にしっかりと意見するが、話し合って決めたことは守ってくれるし、私が細かい事にこだわりだしてもしっかりと付いて来てくれる。そして私達ペアの仕事が順調であることは、コンペ勝率が我が社でトップであることが物語っている。

 ただ、私は今でもユウジ君に言えない少し残酷な事もした。彼は入社当初、大学時代から続いている彼女がいて、10月に私の部下になるまでは関係が続いていた。昼休憩の時に楽しそうにメールをしていたり、19時を過ぎた頃に電話で何やら話し込んでいたのだ。私は、自分の入社当初がそうであったように、彼にも仕事を覚えてもらい、スキルアップしてもらうため1年目から容赦なく残業をさせたし、出張にも連れ出した。このせいかクリスマスまでにはユウジ君がメールや電話をしているのを見かけることが少なくなった。彼女と別れたのだろう。

 この後も何度かユウジ君に彼女ができたと思われる形跡があった。彼もモテるのだ。私は当時、ユウジ君を恋愛対象として考えていなかったが、せっかく仕事で良いコンビになれて成績が伸びているのに、他の女と楽しそうに連絡を取り合っているのが目障りで仕方なかった。だから私はユウジ君に彼女ができそうな雰囲気があれば意識的に残業を増やし、長期出張を組むようにした。さらに出張先では一緒に食事をとり、私が泊っているホテルの部屋にユウジ君を呼びつけて深夜まで目の前で作業をさせた。電話で彼女と話す時間なんて無かっただろうし、体力的精神的にも疲れて恋愛どころではなかっただろう。数か月もすると他の女の形跡は消えた。長期間彼氏がいなかった私の僻みと言われれば「そのとおり」だが、ユウジ君は私の指示に従ってくれた。

 学生時代の友達や知り合いの結婚ラッシュを横目に、私は男への侮蔑と反抗心とを持ちながら、仕事で実績を残し、地位や金銭を得ることで満足していた。地元の妹から「お姉ちゃん博多に戻って転職や結婚する気はない?」と聞かれたが、「無い」と即答した。


 ユウジ君と一緒に仕事をするようになって2年目(私の入社8年目)。出張中に私のホテルの部屋に呼びつけるのも、当初は襲われないかと不安だったが、全くそんなそぶりもなく。むしろソファーからテーブルに足を放り出して書類を読んでいる私を見て「色気ねぇー」と冗談を言われたぐらいだ。良いのか悪いのか分からなかったが、ユウジ君は恋愛を抜きに親しくできる初めての男性で、まるで弟ができたような感じがした。ただユウジ君の“いい匂い”は健在だ。決して女が発することできない男の匂い。電車や新幹線で隣に座った時や、荷物や書類の受け渡しで至近距離に入った時にフワッと香る。

 

 この年の年末年始。私は29歳で、約3か月後の4月にはいよいよ30歳になる。この年も博多の実家に帰省したが、ここで大きな出来事があった。妹ミオの結婚である。しかも妊娠していると言うではないか。相手は父が社長を務める管工事会社の社員で、若いながらよく働き、職人としての腕も良かった。男の子供に恵まれなかった父が、自分の会社の後継ぎにこの男性をするために妹と結託し、ミオが美貌を武器に男性に近づき、誘惑し、妊娠し、結婚に至ったらしい。相手の男性には当時他の彼女がいたらしいが、ミオも短大を卒業後に父の会社で事務手伝いをしており、事務職のミオが職人の彼に積極的アプローチをし、男性は社長の娘を無下に扱うこともできず、2人の女性と並行して付き合って、これからの関係に悩んでいる時にミオの妊娠が分かって、ミオとの結婚に踏み切ることになったとのことだ。家業を続けるため、父親と妹が相当の覚悟を持って仕組んだ結婚であった。

 私はこの話を両親から聞かされた後、「ナオもいつまでも仕事、仕事と言っていないで、いい人を見つけて落ち着け」と言われ、婚活を意識することになる。私だって良い人がいれば、恋愛関係が続けば、結婚がしたい。しかし、「今は仕事の方が楽しい」という月並みな理由の他に、私には彼氏ができないコンプレックスがある。臭いらしいし、チンチンが入らないのだ。


 30歳を前に「結婚や出産に焦りが無いか?」と問われれば、「ある」と答えざるを得ないだろう。女性として生まれた以上、出産や子育てを経験してみたい。しかし、それには相手が必要だし、その相手も誰でも良いというわけにはいかない。今の私にはその相手の背中も影も見えていないのだ。30近くになり男性からのお誘いが極端に減ったことも危機感に拍車をかけた。私はモテるというのも過去の話になりつつある。

 このため婚活サイトや婚活サービスで、お互いのスペックや条件を出し合って、パッと条件結婚ができるならそれでも良いかもしれないと思いはじめた。時間をかけて腹の探り合いや駆け引きする恋愛は非効率だし、それに私は恋愛経験が少ないから騙されるだけかもしれないのだ。しかし、例えそうだとしても時間の長短はあれ、お付き合いする期間は必要だし、子供を作るにはセックスが必要だ。私の口やアソコが臭かったり、チンチンが入らないでは話にならない。


 突然だが私の一人エッチする習慣は続いている。約7年前の覚えたての頃は、何気なしに思い出した時にするぐらいだったが、ユウジ君を部下に迎えてからは明らかに回数が増えた。漠然とリアリティがない男性ではなく、現実に毎日会話しているユウジ君の事を思い浮かべるようになり、彼のいい匂いを思い出しては興奮し、アソコがムズムズした。それこそ私のホテルの部屋にユウジ君を呼びつけて、私が命令して“あれやこれや”させる想像を何度もした。想像の中の彼は、私の指示でキスしろと言えばするし、跪いて私のクリを気持ちよくしろと言えばする。まだ現実ではちゃんとしたセックスをしたことが無く分からないが、とにかくチンチンが私の身体に入ったら男は気持ち良いのだろうと考え、想像の中のユウジ君が私を優しく抱きしめながら射精することも想像した。

 次第にクリを指でいじるだけではなく、アソコに指を入れるようにもなった。相手がいないくせにコンドームをネットで購入し、それを指に着けて自分のアソコに入れる。最初はチンチンと一緒で穴に入れることができず痛いだけだったが、クリで気持ち良くなった後に何度も試している内に、ゆっくり少しずつ指が中に入るようになった。慣れるまで数週間は動かしやすい人差し指を使っていたが、奥まで入る中指を使うようになる頃には指の出し入れもスムーズになっていた。リアルの男性経験が乏しいので女性誌のセックス特集や、いわゆる「大人の保健室」的なサイトで知識を得て、一人エッチの想像を膨らませ、気持ち良いとされる技もテキスト上で学んだ。アソコに指を入れることも、Gスポットもこれらで学んだ。


 私はまだ男性を射精させたことがないし、私の身体で男性が満足したことも無い。臭いし入らないではこの先男性と関係を深めることができないし、条件結婚すら危ぶまれる。妊娠も言うまでもない。したがって、ユウジ君には申し訳ないが私のエッチの練習台になってもらおうと考え始めた。もちろん私もコンプレックスに関する対策が必要だし、これまで築いてきた仕事のキャリアや人間関係を全て壊すリスクもある。それでも今、何かしなければ私は女としてダメになる、手遅れになると危機感と焦りがあった。

 まずアソコに関しては既に脱毛サロンで綺麗に整えている。匂いもウェットシートで拭けば気にならないはずだ。一人エッチをした自分の指の匂いで分かるので、よほど体調が悪かったり、疲れていない限り大丈夫だ。

 チンチンが入るかに関しては、一人エッチで指がスムーズに入るようになったとは言え、実戦ではどうなるか分からない。マイルールを課して大事にし過ぎた私の貞操は、今や重い枷になっている。私の指より男のチンチンの方が長くて太かったような気がするが、ユウジ君のチンチンの大きさも太さも分からない以上、出たとこ勝負で彼に委ねるしかない。

 最も心配なのが口だ。今までユウジ君と会話している時に彼が顔を背けたりすることは無かった。こまめに水分補給をするなど、歯医者の診察で言われたアドバイスを守っているが、元彼に「えげつない」とまで言われたのだ。部下だから我慢しているとか、優しいユウジ君が気を遣って言わないだけという事もあり得る。まずはキスをしてユウジ君の反応を見よう。もしキスを嫌がられるようであれば、いくら私が脱いで小さな胸で誘惑しているつもりでも彼は乗ってこないだろうから「冗談だから忘れて」と適当に誤魔化すしかない。

 そして、いつどうやってユウジ君を誘惑するか?出張先のホテルが一番無難だろう。部屋に彼を呼んで二人きりになったことは、これまでも何度もある。タイミングは緊張しているプレゼンの前よりも後の方が良いだろう。できたらプレゼンが遅い時間でその日は出張先に宿泊し、次の日は東京へ帰るだけの時が良い。部屋に呼ぶ理由は、プレゼンの打ち上げや労いだと言えば不自然ではない。

 いざ二人きりになってどう誘惑するか?これが問題だ。男に言われるがまま寝転んでいただけで、私には男を誘惑したことが無い。サイトの記事や経験者の書き込みによると、「キスをして彼の手を引いてベッドへいざなう」、「男は女から誘えば、よほど嫌いじゃない限り乗ってくる」、「お酒の力も借りてみよう」等とあるが、いきなり思いがけない相手からキスされて、男は気分が盛り上がるものなのか?。異性の部下を誘惑するのだ。キスをしてユウジ君が何も言わずに私を押し倒してくれたら“御の字”で、後は男の性欲に任せたら良い。だが、「くっせー」とか、「何すんだババア」とか言われた日には、私は今までのキャリアを棒に振ってクビになるしかない。しかし、他に試せる、練習できそうな男性が他にはいない。私が一番仲のいい男性はユウジ君だし、一番信頼できる男性もユウジ君だ。食事に誘ってくるような関係の浅い男性で冒険をして、遊ばれたり傷つくのはもうごめんだ。ユウジ君でやるしかない。


 K市出張。いよいよ遅い時間のプレゼンで、東京から日帰りが難しい出張が組めた。まずはしっかりとプレゼンの仕事をこなす。ユウジ君を私の部屋に缶詰めにして資料作りやロープレもしっかりとした。

 プレゼンを終えた夜。スーパーでお酒と総菜を買って「打ち上げをしよう」とユウジ君を誘った。少しでも口臭を紛らわすため普段飲むようなワインではなく、炭酸と匂いが強いビールを買いこんだ。汗臭くないようにフレグランスも朝から振ってあるし、自分の鞄のポーチの中にはコンドームも用意してある。買い物の後、二人で部屋に戻ってすぐにジャケットとコートをハンガーに掛けてトイレへ入り、ストッキングを脱いで、アソコをウェットシートで念入りに拭いた。トイレからでると、ユウジ君も上着を脱いでネクタイを外していた。


 私はベッドに腰かけ、彼はライティングデスクの椅子に座っている。

 「先輩珍しいですね。食事は地元のレストランや居酒屋とかですることが多いのに。」

 「プレゼンで気を張ってて、なんか疲れたの。外の方が良かった?」

 「いいえ。俺も疲れたし、疲れた時は静かな場所の方が良いです。」

 「あんがとね。」どういう会話の流れで誘うか考えつかず、落ち着かない。

 「何がです?」

 「う~ん、いろいろ。私の無茶振り聞いてくれたり、細かい事気になって回り道するのも、ユウジ君は付いて来てくれる。信頼できる後輩をもって私は幸せだ。」

 「大袈裟ですよ。」とユウジ君が笑っている。この笑顔といい匂いを思い浮かべながら、これまで何度も自分を慰めてきた。このままだと飲み物も食べ物も無くなり、彼を部屋に留める口実が無くなる。仕掛けるなら今しかない。ベッドから立ち上がり、座っているユウジ君を見つめる。会話をするのは今日で最後になるかもしれない。

 「トイレですか?」酔いでふらつく私を支えようとユウジ君も立ち上がり、肩を支えてくれた。私も背伸びして彼にもたれかかる。

 「もう一つ、秘密を増やそっか…。」ユウジ君が褒めてくれる、余所行きの少し高めの声で囁いてみた。これで顔を背けられたり逃げられたら終わりだが、酔っていたのもあるかもしれない。彼が何か言おうとしたのも構わず口づけをして舌を入れた。……どうだ?

 彼の舌が私の舌と絡まった後、私の口の中に入ってきて素早く舐めまわしてくれた。やった。やったぞ。少なくともユウジ君は私のキスから顔を背けなかった。私は背伸びから戻り自分でシャツを脱ぎ始めた。彼は一気に自分のシャツと下着を脱ぎ、上半身裸で私をベッドに押し倒して胸を触ってきた。

 「ちょっと、待った。」上に乗っているユウジ君の身体を力いっぱい押し戻す。

 「えー、今更気が変わったなんて無しですよ。」

 「分かってるって。あんたも、ベルトの金具チャラチャラ言わせてないで脱ぎなさいよ。」スーツのシワや下着の匂いを気にせず、エッチに集中したい。自分でスカートやシャツ、キャミソールとブラを脱いだ。脱いだ物をデスクに投げて乗せていったがブラだけは届かなかった。ユウジ君はその間、素早く全裸になり、鞄からゴムを取り出していた。

 ブラを外し終わった私をユウジ君がもう一度ベッドに押し倒し、身体を重ねてきて、今度は彼からキスをしてくれた。彼は私の頬、鎖骨、首筋にキスや舌を這わせながら、胸を揉んでくる。その後は乳首を舐められ、もう片方を指で摘ままれた時には思わず声が漏れてしまった。汗臭くないだろうか、汗をかいてベタつかないだろうかと心配しながらユウジ君に身体を委ねていたが、大丈夫のようだ。左右交互に私の乳首を舐めながら私の表情を伺っている彼とふと目が合い「エッロ」と笑わってしまった。


 ユウジ君の両手がショーツに伸びてきた。いよいよ脱がされる。この日のために用意したレモン色の上下セットで、フリルの装飾が付いた可愛い目のショーツだ。私はサイトで予習したように少し腰を浮かせて、ユウジ君がショーツを脱がせやすいようにし、最後は自分でショーツから足を抜いた。今のところ私がほぼ処女だということはバレていない。

 「着けてよね。」ユウジ君が服を脱いだ後、鞄からゴムを用意していたのを思い出した。なぜ彼はゴムを持っていたのだろう?。男は常に鞄にコンドームを入れて持ち歩いているのか。それとも私が近々ユウジ君を誘惑するのを勘づかれていたのか。分からなかったが、とにかくユウジ君はゴムを持っていて、サイドテーブルに用意していた。

 「もちろんです。」ユウジ君はゴムを手早くつけて、私の割れ目に沿って上下にこすりつけてくる。

 「あんま見ないで。」恥ずかしくて顔を横に背けた。ユウジ君は入れようと圧力を強めたが、先っぽで引っ掛かかった。私は痛くて顔をしかめ、枕を掴んだ。

 「痛かったですか。すいません。」

 「大丈夫、謝んなくていいから。ちょっと久しぶりなだけで、大丈夫。…続けて。」自分の中指ならスルスル入るくらいに慣れている。ユウジ君のモノの方が大きいみたいだが大丈夫なはずだ。ユウジ君が角度を変えながら何度か出し入れしている内に徐々にモノが入り、ついに奥まで全部モノが入った。我慢できないほどではないが、痛い。しかし、ユウジ君は竹荘とは違い、私の呼吸が落ち着くのを、私の身体にユウジ君のモノが馴染むのを動かずに待ってくれた。体重がかからないように優しく抱きしめてくれるユウジ君からは、男のいい匂いとエロい唾液の匂いがした。


 「サンキュ。ユウジ君のに身体が慣れてきたよ。たぶん動いても大丈夫。…それにしても、女慣れしてるなー。」私の率直な感想だ。ユウジ君は伊達にモテていないし、私のように不慣れな女性とも何度もエッチをしたことがあるのだろう。

 「そんなことないですよ。こっちも久しぶりですし。」ユウジ君は私が痛がらないか表情を確かめながらゆっくり正常位で動いてくれた。私は痛いだけで気持ち良いとは思えなかったが、今日のところは『ユウジ君を誘惑してセックスをする』という目標を達成して満足だ。ユウジ君の二の腕をふわりと掴み、背と顎を上に反らせ、力んで足をピンと伸ばしたり、脱力したりしながら、サイトで予習した所謂“イったふり”を試してみた。私が拙い演技をしている間もユウジ君は一生懸命モノを出し入れし、ついに彼は射精に至ったようだ。動きが激しくなり、急に奥までモノを突き刺さしたまま動かなくなった。男の射精を初めて身体で受け止めた感想は、「痛くて苦しい」だった。

 

 事後、嬉し恥ずかしい興奮が冷めやらぬまま、私が先にシャワーを浴びた。ついに男性とエッチができた。しかも男性は私の身体で満足して射精したのだ。これで私も普通の女性として結婚も妊娠もできる。興奮に震える手でシャワーヘッドを掴み、身体を洗い流す。アソコがまだズキズキ痛い。まだ何か刺さっているようにも感じるが、血は出ていないようだ。やはり屈辱の夜に膜は破られてしまっていて今回は出血しなかったのだ。しかし逆に、私は初めてだとバレずに済んだとも思える。5つ年下の部下を誘惑したが、こちらは実は処女でしたでは格好がつかない。まだユウジ君がシャワーを浴びずに待っている事を思い出し、唾液の匂いがする胸や首筋をボディーソープで洗い流してバスルームを後にした。

 髪を乾かした後、行為の最中にベッドから床に落ちたスカートを拾い上げ、皺にならないように上着と一緒にハンガーに吊した。バスローブのままダブルのベッドに横になった。まだドキドキする。エッチ達成の喜びの次は、部下と肉体関係を持ってしまったという自責の念と、彼がこの秘密を守ってくれるかという不安が襲ってきた。クビ覚悟で仕掛けたが、このままペアで仕事を続けたいという欲も出てきた。でも、エッチも今回きりではなく、またやりたいという思いもある。色々な不安や希望が頭の中を駆け巡る。どうすれば良い?ユウジ君がシャワーから出てきたら話し合うべきか?…ダメだ。酔いもあって考えがまとまらない。ズルいとは思うが寝たふりをしてこの夜をやり過ごした。ユウジ君も色々思うところはあるかもしれないが、寝たふりをしている私を起こさないように、そっと隣で添い寝してくれた。


 翌朝、トイレに行きたくて目を覚まし、トイレを済ませた後、すぐに水を飲んで水分補給をした。寝起きで口が臭いなどと言われたら昨日の努力が台無しである。私が昨日の下着や服を集めたり部屋をバタバタ歩き回っている時にユウジ君も目を覚ます。ユウジ君は目で私を追うだけで無言だ。

 「部屋片づけて、帰ろっか。」できるだけ自然な笑顔でユウジ君に言った。ユウジ君も昨晩何事も無かったように帰り支度を始める。


 荷物を纏め終えて部屋を出ようとするユウジ君を呼び止め、サイドテーブルに残っていたゴムを渡す。

 「ちょっと待ってー、忘れ物。…2回するつもりだったの?」

 「あ、いや。その、たまたま2個持ってたから、2個とも出しときました。」ユウジ君が言い淀む。何か怪しいが問い詰めても仕方ない。私の今回の目的は達成できたのだ。

 「そっか。次に取きなよ。」この今朝の一連の対応でユウジ君は私の意図を察してくれただろうか。仕事ではこれまでどおり上司部下のペアの関係で、昨晩の事は秘密にしてほしい。しかし、肉体関係は今後も続けるつもりがある。

 「次って…」とユウジ君が何か言いかけたが、私は部屋の奥に戻った。私が“次”を示唆した時のユウジ君の嬉しそうな顔が可愛くて、私は部屋でにやけながら帰り支度を続けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る