第29話 2回できるなんて仕様は聞いてなかったけど。

 昨日両家の顔合わせを終えた日曜日の朝。7時から専用ラウンジで朝食をいただける。和洋のビュッフェで朝から充実の品揃えだ。席に着くとまず熱いほうじ茶がサーブされ、それを目覚ましがてらちびちび飲んでいると、それぞれの両親もバラバラとラウンジに来て自由に朝食をとっていった。どれも美味しかったが、陽気なシェフが一人一人のオーダーを聞いて作ってくれる卵料理が特に美味しかった。俺もナオさんもオムレツをオーダーしたが、フワフワのオムレツを一つずつ作り、プレートに乗せて席まで運んできてくれた。

 朝食後、それぞれの親が示し合わせたかのように9時前後の近い時間にチェックアウトした。それぞれの両親を23階エントランスで見送り、無事に顔合わせ終了である。うちの父親からは去り際に「取っておきなさい」封筒を渡され、部屋に戻って中身を見ると15万円が入っていた。「実はうちも…」とナオさんも昨晩親からお金を包んでもらっていたらしい。「これから何かと入り用だろうから」とのことだ。ありがたい。


 「さあユウジ君。こっちへいらっしゃい。」ナオさんに手を引かれてベッドへ押し倒され、ナオさんが上に倒れ込んできた。

 「昨日の夜は途中で中止になったし、ムラムラしているんじゃない?昨日のお昼のお詫びもしなきゃ。」

 「ははは。ムラムラしてます。」正直に答えた。

 「素直でよろしい。もう邪魔が入ることは無いわよ。しよ。」ナオさんはいきなり舌を入れてきてディープキスになった。その後俺の首や胸に顔を埋め、匂いを嗅ぎながら俺のシャツのボタンを外して行き、Tシャツをまくり上げて胸や脇の匂いを嗅いだ後に乳首をペロペロ舐めだした。

 「ユウジ君も脱いで。」ナオさんは俺から降りて、自分でライトブルーのブラウスとグレーのプリーツスカートを脱ぎだした。俺もスーツとシャツと順に脱いで、急いで全裸になり、コンドームを箱ごとサイドテーブルに置いた。

 「あれ?自分で剥いちゃったの、楽しみにしていたのに。まあいいわ。ゴムを着けてあげる。」全裸のナオさんが笑いながらゴムを装着させてくれた。明るい中で女性にコンドームを着けてもらうのは、やはり嬉し恥ずかしい。

 「ナオさんの必殺技でお願いします。」

 「へへへ、必殺技か。今日もユウジ君を先にイカせちゃうかもね。」ナオさんはまんざらでもなさそうに騎乗位になって自分で俺のモノを差し込み、前後上下に腰を動かし始めた。その間、指で俺の乳首を弾いたり摘まんだりすることも忘れない。ナオさんから誘ってきただけあって既に中はトロトロで気持ち良く、今回も10分ほどお互いに感じ合い、俺はナオさんより先にイクことが出来た。ナオさんが騎乗位かフェラをしてくれた時は意識的に早くイクようにしている。ナオさんはドヤ顔で俺を見下ろし、「気持ちよかった?」と感想を聞きながらゆっくり身体を離し、ゴムを外して、ティッシュでモノを優しく拭いてくれた。

 いつもならここで終わり、俺は数分前が嘘のように冷静さを取り戻し、ナオさんは自分のお股を拭いた後シャワーを浴びに行くところだが、今回は違う。ゴムとティッシュをゴミ箱に捨てたナオさんの二の腕を掴んでベッドに引き戻し、今度は俺が上になって、ナオさんにキスをして美乳を楽しませてもらう。褐色の硬くなった乳首が舌や指で弾くたびにプルプル揺れて愛おしい。

 「あはは、ユウジ君ありがとう。でも、私はイかなくても大丈夫だよ。私も気持ちよかったし、満足したよ。」と胸に吸い付く俺の頭を撫でてくれる。

 「ナオさんも、もっと気持ちよくなって。」胸や腰骨、脇腹をゆっくり舐めまわし、手はクリや割れ目を優しくなぞる。俺の勃起が治まらない。しばらくナオさんを愛撫していると硬さも戻って来た。体を起こしてサイドテーブルの箱からもう一つゴムを取り出し、自分で装着する。

 「ナオさん、入れますよ。」2回連続はナオさんとは初めてなので、一応伝えておく。

 「え?1回出して縮んだんじゃないの?無理してない?」愛撫で夢見心地のナオさんが弱々しい声で心配してくれたが、「大丈夫です」と言って正常位で入れた。

 「あれ、本当に入って来た。…ちゃんと大きいし、硬い。なんで?」目を見開き驚いている。1回エッチでイかせたはずの俺がおおよそ5分後にまた勃起し、入れてきたことが不思議なようだ。

 「ナオさんが綺麗で、ナオさんにも気持ちよくなってほしいからです。」徐々に出し入れの速度を上げていく。

 「すごい。…何だか初めてで怖いよ。私の身体壊れないかな。」

 「大丈夫です。いつも愛し合っているのが2回連続なだけですよ。痛いですか?」

 「ううん、痛くない。気持ちいいよ。…気持ち良いのがもう1回できて、得した気分。」ナオさんは感じ入って目を閉じ、「はぁ、はぁ」と呼吸とも喘ぎとも分からない小さな声を出していたが、「イクッ」とはっきりと聞こえる声をあげた後、少し身体を反り、腰を浮かせて、硬いままの俺のモノを体内で数度締め付け、力が抜けた。


 俺は身体を一旦離して、ナオさんの横に寝そべる。

 「すごかったわよ。」乱れていた呼吸が少し落ち着いた頃、ナオさんがゆっくり話し始めた。

 「喜んでもらえて良かったです。」俺は2回目をイケていないが、ナオさんを横から抱き寄せ、頭や汗ばんだ背中をゆっくり撫でてあげる。

 「2回できるなんて仕様は聞いてなかったけど。」ナオさんの目つきが少し厳しい。

 「すいません。報告していませんでした。」

 「今まで私に手加減してくれてたってこと?」

 「そんなことないです。2日間お預けだった上に、昨日のお昼や夜は勃つとこまで行ってたのに途中で止まって、余計に溜まっていたからです。」

 「ああ、そっかぁ。金曜夜も新幹線に乗り遅れたら嫌だから、お預けにしたもんね。」

 「普段はほぼ毎日しているから連続が無理だっただけで、インターバルが長く空けば連続もできますよ。俺はいつも手加減無しで一生懸命です。」

 「そういうことか。…気持ち良いし嬉しいけど、また腰が立たなくなったわ。」

 「ははは、ゆっくり横になってもらいたいところですが、チェックアウト11時でしたよね。フロントにチェックアウト延長の電話しておきましょうか。」

 「大丈夫。実はこの部屋だけレイトチェックアウトのプランで予約したから13時まで使えるの。」

 「ナオさんさすがですね。予約の時からその気だったんじゃないですか。」

 「顔合わせでトラブルがあった場合の保険でプランを選んだだけ。たまたまだよ。」

 「へえー。でも朝エッチは想定内だったでしょ?」

 「そうね。まさか連続エッチで起き上がれなくなるとは思わなかったけど。へへへ。」

 「せっかく頑張ってくれたのに悪いけど、ユウジ君の2回目は手で良いかな?エッチやフェラは勘弁して。私の身体がもたないよ。」

 「はい。イカせてくれるだけでも嬉しいです。じゃあゴム外しますね。」

 「うん。」

 「あの、…もう一度ナオさんの胸に甘えても良いですか。」ゴムを外した後、モノを右手で握ってくれたナオさんに聞いてみる。

 「ははは。いいよ。おいで。」

 「やった。」ナオさんの乳首を軽く吸い始めたところでナオさんの右手も動き出した。

 「硬いままだね。強く握っても痛くない?」

 「竿は大丈夫ですけど亀頭部分は1回目より敏感だから、手が当たるとちょっと痛いです。」

 「OK、気を付けるね。」ナオさんがゆっくりとモノをシコシコしてくれる。

 「若い彼氏で嬉しい反面、もし私も同じ歳くらいだったら何度でもエッチして一緒にイケたのかなって思うと申し訳なくなる。ゴメンね。」

 「年齢なんて関係ないよ。俺のが元気なのはナオとの相性が良いからだよ。…チンチン握られながら言ってもカッコつかないですけど。」

 「ははは。ホントだ。…しかも赤ちゃんみたいに私の胸を吸って。」


 「そろそろヤバイです。」

 「いいわよ。私の可愛い甘えん坊さん。」ナオさんのモノを握る力がより強く、そして動きが速くなり、気持ちよく果てることができた。

 しばらくベッドで横になってまったりした後、順番にシャワーを浴び、無事に13時までにチェックアウトすることができた。

 

 3月のS市出張以降も俺達は残業もしているし出張もしているが、プロポーズ以降は結婚に向けた諸々の手配や準備でも忙しく、俺もナオさんもどちらかというと、今は仕事よりも結婚に向けた作業の方が関心が高い。かつては出張の時に身体を重ねる事が一大事であったが、今は家でも出張先でも二人の日常生活の中に組み込まれている。

 学生が夏休みになり、通勤電車に制服姿が少なくなった頃、次は結婚指輪である。

婚約指輪と同じように伊予丹のティファニーでお世話になることにした。婚約指輪の時も色々見せてもらったが、結局はナオさんが好きなティファニーにしたこともあり、今回は始めからティファニーのHPで商品を見比べ、店頭でよっぽどイメージと違わなければ即決するつもりだ。

 一応、婚約指輪の時にお世話になったアヤさんに筋を通す意味で電話をしたが、今回は他の商談が有り立ち会えないということで、アテンダントの杉本さんに話を通しておくとのことだった。

 例によって土曜日の夕方、二人で伊予丹4階ジュエリーアテンダントカウンターを訪れた。いつものように杉本さんが「いらっしゃいませ」と上品に対応してくださり、今回は結婚指輪だが既に目ぼしい商品を決めていることを伝えた。

 「アテンダント杉本。ティファニーさん、結婚指輪でクラシックのバンドリングをご希望のお客様をお連れします。ご準備お願いします。」とインカムで連絡した後、ティファニーのテナントに案内された。

 俺は3回目である。婚約指輪を購入した時の店員さんが対応してくださって、俺達の事を覚えていたのか「婚約指輪は問題なくお使いいただけていますか?」と気遣ってくれた。さっそくお目当ての「クラシックバンドリング」を見せてもらったが、男性用女性用とも思ったとおりシンプルで上品だ。ナオさんは昔から目を着けていたのかもしれない、現物に触れることなくOKを出した。リングサイズは、ナオさんはエンゲージと変わらず8号で、俺は17号だった。「刻印はいかがされますか?」と杉本さんに聞かれ、婚姻届の提出予定日とイニシャルで『20xx.1.1 y&n』でお願いした(もちろんxx部分は実際の年です)。指輪のお渡しは3週間前後かかるようで、後日連絡するとのことだった。

 「結婚のご準備は順調に進んでおられるようですね。」手続きを待つ間、杉本さんがにこやかに話してくれる。

 「ありがとうございます。両家の挨拶と顔合わせは終わりましたし、式場も押さえましたので、後は新婚旅行と新居です。」

 「色々と気を遣って大変かもしれませんが、ワクワクしますね。」

 「そうなんです。二人で色々と決めて、形にしていくのが楽しいです。あー、でも職場への報告が一番億劫だなぁ。」俺がぼやいていると

 「大丈夫、大丈夫。まず私から部長に報告するから。」ナオさんは隣で自信ありげに笑っている。


 せっかく百貨店に来たので総菜を買って帰ることにした。ぶらぶら服や季節用品を見て回りながら地下に降りていく途中、ふいに声をかけられた。

 「あの、刈谷さん。覚えていますか?鳥羽です。」背が低い店員さんが笑顔で立っている。去年の夏にアヤさん達と一緒に山に登った女性の一人だ。

 「はい。服装が違うから一瞬分からなかったですけど、思い出しました。」去年の夏は山登りのウェアで、11月のお茶会の時は着物だった。デパートの制服姿は初めて見た。

 「こちらは去年の夏に竹田先輩や若狭達と一緒に山登りした方で、鳥羽さんです。」ナオさんが変な勘繰りをしないうちに鳥羽さんを紹介する。

 「で、こちらが同じ職場の半田先輩。婚約者。」と手短に鳥羽さんへもナオさんを紹介する。

 「初めまして。鳥羽ハツネと申します。刈谷さんや若狭さんに仲良くしていただいています。」相変わらず折り目正しい子だ。俺より年下なのに品がある。

 「ええそのようね。うちの人は仲がいい女性が色々な所にいて、ドキドキしちゃうわ。これからも刈谷をよろしくお願いします。」

 「では、仕事の続きがありますので失礼します。ごゆっくりお買い物をお楽しみください。」鳥羽さんが笑顔を残して立ち去ると

 「今晩、去年の夏の報告を聞かせてもらうわ。」とナオさんに低い声で言われた。

 報告も何もカイト先輩とアヤさんは付き合っていて、コウジと鳥羽さんも付き合っていた。そして俺は彼女がいないと思われていて、カイト先輩とアヤさんのご厚意で百貨店店員の鞍馬ヤヨイさんを山登りがてら紹介されたのだが、俺はすでに他に好きな人がいた。つまり、ナオさんに気を引かれていた。というのが概要だ。

 ナオさんはカイト先輩とアヤさんの事は既に知っているので、「内緒ですよ」と念を押して、鳥羽さんが若狭の彼女であることを教えた。つまり俺は“白”である。

 「本当ね。」ナオさんが念を押してくる。

 「本当です。カイト先輩と若狭が時々『小さなお姫様』って言っているのを聞いたことありませんか?あれが鳥羽さんの事です。」

 「ああ、確かに聞いたことがある。あいつ、声大きいもんね。」ナオさんも合点がいったようだ。

 「で、もう一人の鞍馬って子とも何もないのね。」

 「ありません。」やましい事はしていない。しかもまだナオさんと付き合う前の話だ。

 「よろしい。最初はユウジ君達が山でいやらしい女遊びでもしてきたのかと思ったけど、安心したわ。」

 ナオさんの浮気への嫌悪と過剰な警戒が時々鬱陶しい。

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