12.その一撃ですべてを壊して

 メタルヨロイの瞳が燃え上がるような赤色に染まり、全身から蒸気が噴出する! 内部ストレージに収容されていたエグゼキューターは強制放出された!


『危ないから離れてろ……!』


 ズシン、ズシンと一歩ずつ血死川ちしかわに歩み寄る巨人兵! だが最強の殺し屋はこれを不遜ふそんわらう!


「無駄なことを! おれは不死、ゆえに最強だと言うのが分からんか!」


『……思い出したんだ。自己再生、自己修復、自己進化。三年くらい前に、そんなうたい文句のナノマシンをエグゼキューターが作ってたっけなぁ。ようやく、、と考えればなにも不思議なことは無い』


 血死川ちしかわの表情が固まる。


『生の全てを理解している、故に不死、だったか? 中々それっぽく言ったけどな、いいか、人間は死ぬんだよ! お前も! 俺も! いつか死ぬ、絶対死ぬ! そいつを思い出しゃあ戦争なんて馬鹿なことも考えなくなるだろうよ……!』


「……餓鬼ガキが! 知ったような口を!」


 血死川ちしかわは出血するほどに両手を強く握りしめるッッ!! 腕の筋肉が膨張し、大きく、大きく、大きく!! 振りかぶって力を込めるッッ!!


「この血死川ちしかわ雑魚寝ざこねこそ地上最強!! 貴様という最後の試練を調伏ちょうぶくし、世界の頂点に君臨してやるわァァァァァ!!!」


『知るかァァァァァ!! 戦争が起こったら誰がエグゼキューターを守りに行くと思ってんだァァァァァッッッ!!』


 DOOOOOOOOOOOSH!! メタルヨロイの両肘から突出したスチーム・バンカー総計十九本が、一斉に天井を目掛けて噴出したッッ!!


 そして――メタルヨロイは両腕を眼前へと突き出すッッ!!


!! ブチ壊わせェェェェェェ!!!』


 刹那、血死川の常人離れした眼光が捉えたのは虹色の光! 時速280,000キロにも及ぶ光速の一撃、空気中のプラズマすら破壊する衝撃の嵐によって、大気が発光しているのだ! だが、そんなことは血死川に知る由もない!


 ――あるのは眼前に迫る、凄まじい破壊の嵐と恐怖のみッッ!


(――死ッッッ!!!)


 脳裏を過ぎった直感が、本能的に回避を命じる! 逃げろ! だが足は動かぬ――! 恐怖に縛られたか!?


 否ッッ!! なんと、全身血に塗れた社長が、彼の両足首を万力の如く握りしめているのだッッ!!


「おいおい……地上最強に、回避の二文字はナンセンスだぜ?」


ジジイィィィィィィィィィ!! ウオォォォォォォォォォォォ!!!」


 地上最強の胴体を、巨大な拳が突貫ッッ!! 一瞬にして血死川ちしかわの体が弾け飛び、柱へ激突ッ! DOOOOOWN!! それでも衝撃は止まらず、次の柱に激突ッッ!! DOOOOOWN!! それでも止まらぬ――止まらぬ!! 凄まじい勢いで柱を破壊しながら吹き飛ばされる血死川ちしかわ雑魚寝ざこねッッ!!


「その程度で……おれを殺したつもりかァァァァァ!」


 だが地上最強の男は終わらないッッ!! たとえ生首だけになろうとも、まだ喋り続けている!! な――なんと、弾け飛んだはずの上半身が、すでに半分ほど再生しつつあるではないか!? 死を冒涜したかの如き凄まじい再生力であるッッ!!


おれは不死! 故に無敵……!!」


『バカが! 最初からお前を殺せるなんて思ってねぇよ……!』


 メタルヨロイは手近な支柱を殴ってヘシ折ると、別な柱へと投擲とうてきッッ!! DOOOOU!! ストライク! 柱は真っ二つに折れたッッ!


 その瞬間、建物が激しく揺れる……ッ!!


「き――貴様ァァァァァ!! まさか!!」


 そう――その通りだ! 皆さんの中に、まだ当初の目的を覚えている方はどれだけいらっしゃるだろうか!?

 そう、為すべきは首魁しゅかい血死川ちしかわ雑魚寝ざこねの撃破ではなく――株主総会の阻止であるッッ!!


! お前は! 生きて! 罪を償いやがれッッ!!』


「やめろォォォォッッッッ!!!」


 メタルヨロイは全力疾走でその場から撤退! エグゼキューターはすでに社長を背負って先行している! 


 二人が外に出たと同時に、ニシタマ・大ホールは倒壊を始めた……! 主要株主たちの悲鳴も聞こえたが、ガレキは何もかもを埋め尽くしてゆくのだった……!


「へへっ。なんだ、やればできるじゃんメタルヨロイ」


『勘弁してくれ。あんな奴の相手は二度とゴメンだよ……』


 メタルヨロイは全身から凄まじい蒸気を発していた。オーバーロードによって全身が異常な高熱を持っているのだ。出力解放百パーセントなんて無茶をするせいで、メタルヨロイの脳内では赤信号レッドアラートが鳴っている。


『さて。あとはガレキの山から、血死川ちしかわを見つけて捕獲するだけ……』


「その心配には……及ばん……!!」


 な、なんと……!? 血死川ちしかわが巨大コンクリートを破壊しながら、毅然きぜんと立ち上がったではないか!? しかもダメージなど一切感じさせぬ! 完璧な再生を果たしているのだッッ!!


「株主総会については、おれの敗北を認めよう……! だがケジメはつけさせてもらう! ここで貴様らを殺し! 一から計画を練り直し! またいつの日か世界を戦争の渦に叩き落とすのだァァァァァッッ!!」


「メタルヨロイッッ!!」


 エグゼキューターの叫びに応えようとして、合成電子音にノイズが混じる。メタルヨロイはもう、声すらも発せられないほどに消耗している。


 ――流石に、無茶しすぎたか。

 でも、護らないと。

 だってこんなに近くで、助けを求める声が聞こえてるんだから。

 自分が立たなくてどうする? 誰があの無茶苦茶な女を守ってやれる?

 だから――


「森羅万象! 死に尽くせェェェェェェ!!」


 血死川ちしかわ雑魚寝ざこねの正拳突きが、エグゼキューターの細い体へと吸い込まれてゆく――


 ――その瞬間だったッッ!!


「フハハハハハッッ!! 待たせたなァァァァァ!!!」


 突如、上空から飛来する巨大な人影ッッ!! 雲の合間を駆けてゆくのは軍事用SEIRANではないか!? 自衛隊が解体された今、伝説の機体を所属する団体はたった一つ!!


 そう――内閣府・首相官邸であるッッッッ!!!


「ば――バカなッッ!?」


 血死川ちしかわは彼の姿を認めた途端、ガタガタ震え出したッッ!! まるで虎を前にした、生まれたての小鹿が如くッ!!


おれは……! 貴様を殺すためだけに、一万人の暗殺者を首相官邸に送ったのだぞッッ!? なのに何故、貴様は生きていられるというのだ!?」


「フン、笑わせる! 雑魚がいくら集まったところで、余の足元にも及ばぬわァァァァァ!」


 そのおとこは音もなく着地すると、手にした酒の大瓶を一挙に飲み干したッ!! デカいッ!! 三メートルに迫る身長もさることながら、酒瓶とて優に十リットル分はあるだろう! しかし、男はそれを三秒で飲み干したのであるッッ!!


「やっと来たか、依頼主サマが……! 遅いんだよ……!」


 血まみれの社長を見下し、かの漢は呵呵大笑ッッ!!


「そう言うな! 余が来たからには万事解決だッッッ!!」


「ひ、ひィィィィッッッ!?」


 血死川は必死で逃げようとするも、すでに頭部を鷲掴みにされている!! 神速はやいッッッ!!? なんという目にも止まらぬ神域スピードか!?


「しゃ、社長……? あの化物は一体……」


 あのエグゼキューターですら恐る恐ると言った調子で尋ねる! すると社長は、待っていましたと言わんばかりに得意げな笑みを浮かべた!


「最初に言ったでしょ? この作戦の首謀者、総理大臣だって」


「え……。ってことは、つまり……」


「フハハハハハハハ!! その通りであるッッッ!!!」


 恐怖のあまり失神した血死川ちしかわをブンブンと振り回しながら、漢は高らかに笑ったッッッ!!


「余こそが内閣総理大臣――御神酒坂蛮儀おみきざかばんぎであるッッッ!!」

 


 





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