第14話 夢望帝国(むぼうていこく)より「3等闘士ハルイ~高らかに鳴る胸の(仮)」

 カン、カン、カン--

 朝を告げる鐘がまるで、昨日の戦いを告げるそれに聞こえて、ハルイは寝床から転がり落ちた。とてもその様子は、かつての「朝寝坊をした女子高生」にはみえなかった。


 頭は打っていないようだ。

 短く切ったざらざらの髪をつかむ。

 この時間帯、以前なら丁寧に丁寧に、長かった髪をケアしながらゆるい三つ編みを作っていた頃か。--には正確な時計は無かった。


 水飲み場、さらに暑くなってくれば男達が頭から水を被る行水場へ向かうと、だらだらと頭を洗うな男闘士たちの中に、大柄のサムワン=ローギスはいた。

「おはようハルイ、眠れたか?」

「ぜんぜん」

 その男が投げてよこされた手桶に、同僚の闘士が汲み上げた井戸水をざっと入れて、同じように頭から被る。

「おっ」

 他の闘士たちは上半身をむき出しにしているが、ハルイはそうはいかない。濡れても透けにくい、濃い色の麻編みの上下に、水が染み、より濃い肩口の色になる。

「なあハルイ、パンくれよ」

「美味しくなかったらね」


 どかどかと闘士たちは食堂の木の床を踏み、給士から適当に配られたパンと木の椀--これはスープが注がれている--、それらを手に、空いた席についてめいめいに食べ尽くす。ハルイは隣にいるサムワン=ローギスにもらったパンのひとつを渡した。固い、こぶし大のパンを、3つも食べる気にはならなかった。


「さすがにきょうもにはならないだろうな」

 誰かからもらった5つめのパンも食べきった彼は、ふたつ向こうのテーブルにいる、に手をふる。

「おおいテトラミルカ、狩りに行こうぜ」

 声をかけられた『弓射る二等女狩人アーチャー』のテトラと、『鉄弾銃の二等女狩人ガンナー』ミルカは、またかといった風にあきれ顔で返事する。


「狩りといっても」

「あなたは鳥ひとつ打てず」


「「野牛にも蹴飛ばされ」」


「二人同時に言うな!!」


「あはははは」

 ハルイより大きな声で笑ったのは、二等占い師の少年、アレル=アリエル。ハルイやテトラ、ミルカたちといると、同じ少女に見間違えるほどのさらさらの金髪に青い瞳、小柄でその服も女性がまとう色合いに近い。

「おもしろすぎる!」

「くっそガキが!」


 毒づくサムワン=ローギスや、まったく反省せず笑うアリエル、クスクスと笑うテトラとミルカ--やっと出会えた、で見つけた仲間たちを--ハルイは、恋人へのそれとはまた違った、いとおしさで見つめた。


 サムワンはああ言ったが、またいつ嵐が来て、『異形の侵入者』が迫るとも限らない。昨日の戦いでは、さいわいに大ケガをした者はいなかったが、ハルイがはじめて参戦したやらは--何人と。この地、夢望帝国むぼうていこくに流れ着く前の暮らしでは想像もつかない、読経も火葬も行わない、誰かのおえつすら無い見送りに、ぼう然とした。


 たった今は。


 たった今は、この一瞬を大事にしたい。そして生き抜いて、あの日手を離してしまった恋人ユウマに、生きて会いたいと。


 3等闘士ハルイは願った。


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