第3章 赤髪の少年! アラン
第1話 国を盗る
大陸最南端の港町バルクリを出た俺たちは遭難し、船に拾われた。新たな船の旅は、気がつけばティリア海を越えて西方の海へと差し掛かっていた――
船室では、先の戦いでの負担がよほど大きかったのか、エリスが未だに眠り続けている。その様子を見に行っていたマリア=モンタニアが戻って来た。
「エリスはどうだった?」
「まだ……」
「そうか」
そう言って俺は甲板の上から辺りを見回す。目に映るのは果てしなく続く水平線だけ。
「早く、どこかの町に着かないと食糧も心許ないな」
――あいつが起きたら船ごと喰らいかねんからな。ある意味、クラーケンなんかより恐ろしいのは回復期のエリスの食欲だ。
「なあ、この船はどこに向かってるんだ?」
俺の問いかけに、赤毛の少年は、孔雀緑色のズボンを入れた黒のブーツで船のへりを何度か蹴る。なにかを思案している様子だ。
「ヴェネレだ」
「ヴェネレか」
「……」
「その町? は、大きいのか?」
そう言えば、『国を
「本当に、記憶喪失なんだな」
アランの言葉に俺は「へ?」と思わずまぬけな声を出してまった。それを聞いて、俺の横にいたマリアが、どこかすまなそうに言ってくる。
「……ヴェネレは、エンティア王国の都ですわ」
「へ?」
「
「へえ」
つまり、
「お前なあ……」
「悪く思うなよ、剣士」
アランは『剣士』という言葉をわざとゆっくり発音してくる。
「あ、お前、それを根に持ってやがるのか」
「ふん。クラーケンを倒したなんて
「剣を刺したのは本当だよ!」
思わず前のめりになった俺の前に、赤いバンダナの巨漢が立ちはだかる。威圧感に俺は後ずさると、巨漢の後ろからアランが
「テオ」
「……しかし」
「大丈夫だ」
赤いバンダナの男――テオは、アランをチラッと見てから一歩下がる。
船のへりに座ったまま、アランは続ける。
「とどめとなったのは、やっぱり魔術なんだろう?」
「……なんで魔術にこだわる?」
「西方には、呪術師や占い師ならいるが、魔術を使える人間はいない。国を盗るんだ。少しでも戦力は大いに越したことはない」
「『国を盗る』、か」
俺は顎を親指で擦った。マリアの話からするとアランが盗りたいのは、おそらく七王国のうちのひとつなんだろうが、エンティア王国の騎士を入れてもこの船で戦えるのは両の手で足りるくらいしかいない。その国に、仲間がいるなら別だが。
「簡単に言っているが、国を盗るには圧倒的に戦力が足らないと思わないか? そんな状況で、事情も分からずに俺たちが協力すると思うのか?」
「海のど真ん中から助けてやっただろう」
「その借りなら、この船を奪ったので返したと思うがな」
「役に立ったのはマリアさんだけだがな」
俺の横でマリアが照れたように微笑む。俺は、言葉に詰まる。事実だ。剣も魔法もろくに使えない俺は戦力にもならないだろう。結局、モンスターのことがちょっと分かるだけの、ただのイケメンということなのだろうか。
「アラン様」
マリアが沈黙した俺に代わって口を開く。
「レクス様は、灯台のワイバーンを倒したエンティア王国の正式な冒険者です。クラーケンを倒すことができたのも彼のお陰ですわ」
「冒険者? こいつが?」
アランが少し感心したように俺を見る。『エンティア王国の冒険者』ってわりと有名で、地位の高い感じだったのだろうか。
「そうか、命知らずがここにいたか」
長い
「いいだろう、事情を説明してやるよ」
青く澄んだ空から風が吹く。アランの赤い髪がそよぎ、風が言葉を運ぶ。
「まずは二十七年前の話をしよう――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます