第51話 〜お兄ちゃんは作戦を開始したようです〜

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「うぉ〜……あっぶねぇ〜、マジで死ぬかと思った……」


 俺こと、ヤヒロは路地裏にある建物の中に隠れていた。


 今は誰も住んで居ないのか……。元々、路地裏ということもあって日当たりは悪く、日が落ちてきたこともあってか、部屋の中は薄暗い。窓はヒビ割れており、時折隙間風が入ってくる。床も所々腐っているのか、底が抜けて穴が空いている。残されていたベッドやカーテンは、布切れのようにボロボロだ。

 空の酒瓶や食べ残しのパンなどを見れば、多分チンピラたちのたまり場になっているのだろう。


 倒れたテーブルに寄りかかり、体を縮めて息を殺す。


 何故このようなところに、俺は隠れているのか……。




 それは全て『まうぃつど一発大作戦』のためである。




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 ――――――遡ること、三十分ほど前……。――――――




「それじゃあ、作戦の内容を説明するぞ」


 胡座をかいて座った俺は、二人に作戦の内容を説明する。


「まずセージ。お前は結界の『穴』の探索、および修復だ。場所はさっき、俺が絞った所を重点的に探してくれ。そして『穴』を見つけ次第、新たに結界を結び直し、外からの魔獣の侵入を食い止める。……いいな?」

「はい!」

「大変な作業だが、お前なら出来るはずだ。頼んだぞ、セージ」

「お任せ下さい!」


 セージは力強く頷くと、地図をじっと見つめる。俺とロキが導き出した、正門への最短ルートを頭に叩き込むためだ。

 俺はその姿を見て頷くと、ロキの方へと振り返って指示を出す。


「そしてロキ、お前は途中までセージの誘導と援護を。もし魔獣に見つかった時は、出来る限り魔獣を引き付けた後に、手当たり次第に殲滅してくれ」

「分かった」


 ロキは頷く。しかし、すぐに疑問を抱いて俺に問いかける。


「でもそれだと、お前の守りはどうするんだ? あの道化師ヤローだっている。いつ邪魔が入るか分からない。それに僕が途中までとはいえ、セージの援護や魔獣を相手していたら、お前を道化師ヤローから守るなんて、普通に考えて無理だぞ?」


 その言葉に、俺は頷く。なんせ、ロキの意見は最もだからだ。


「そうだ。だからこそ、お前には魔獣を頼む。そして道化師ヤローのことは、


 俺の言葉に、ロキが驚いた顔をする。そして間髪入れずに、怒声が響く。


「はぁ!? お前、馬鹿なのか!? 生身の人間のお前が、あんなクソ道化師を相手に、勝てるわけねーだろ!」


 ロキが声を荒らげる。俺だって別に、何も考えていない訳では無い。だからこそ「そこでだ」と、人差し指を立てて、俺はこの作戦の鍵を伝える。


「俺があの道化師ヤローの、。その間にセージは結界、ロキは魔獣を頼む」

「そんなの無謀すぎますよ!」


 今度はセージの制止が入る。だが俺は「まぁ、聞けって」と、話を続ける。


 あの道化師ヤローは先程、俺にこう言った。『特にそこの黒髪のアナタ! ……アナタは遅かれ早かれ、我が主の脅威になる!』と。


「道化師の主がどんなヤツかは分からない……。それに、なぜ俺が今後、その主の脅威になるのかも分からない。だが、これだけは分かる。あの道化師にとって『』ってことはな」

「『だから自分が囮になる』、と?」


 ロキの言葉に、俺は頷く。


「あぁ、コレは俺の長年のオタク知識と勘ではあるが……。俺なりに、短時間でアイツの言動を見て分析した限り、ヤツは計算高くて、プライドも高い。この騒動だって、長期にわたって、かなり年密な計画を立てた上でのことだろう。しかし、それ故に失敗したり、計画に支障が出れば癇癪を起こす。一度癇癪を起こすと、手に負えなくなると見た。そして必ずその原因を排除するまで、徹底的に潰しにかかるタイプだ。その間は多分……いや、ほとんど周りが見えない。だからこそ俺が囮になることで、裏でお前らが動きやすくなるはずだ」


 そう予想した俺の仮説や推理に、ロキが間髪入れずに口を開く。


「それはそうだろうが、もし違ったらどうする? 今、この時間でヤツが冷静さを取り戻していたら?」


 確かにそうだ。俺たちは先程、一悶着起こした。それは大幅に、時間のロスに繋がっている。その間に、ヤツが冷静さを取り戻している可能性だって、大いにありえる。


「なーに、その時は俺が今までネットで培ってきた『煽りスキル』で、再度ヤツをブチ切れさせてやるさ!!」


 俺は親指をグッと立てて、片目を閉じて歯をきらめかせた。

 しかし、そんなことで二人が納得するはずもないく、終始無言だった。


 二人の反応は予想出来ていた。あまりにも無茶で、無謀な作戦だ。それは 俺にも分かっている。

 俺は片眉を上げて苦笑いすると、少し俯いて本心を口にする。


「……ぶっちゃけ、俺は何の力も持たない、ただの人間だ……。それは俺だって、自覚してる。元の世界でだって、特に取り柄もなく、ただ毎日を社畜のように働いてた。だから正直、俺自身がどこまでやれるか分からない。囮にだって、なりきれるかも分からない。……もしかしたら、鉢合ってすぐ、逃げるまもなく速攻で殺されるかもしれない」


『死ぬかもしれない』。そう、全てが悪い方のifへと変換される。


(だが、だからと言って。ここで怖気付いていたって、何も進まない。何も始まらない……!)


「俺はまだ、こんなところで死ねない。立ち止まれない」


 俺は膝に手を乗せ、頭を下げる。




「だからこそ、お前らの力を借りたい。頼む……!!」




 ……一分ほど、そうしていただろうか。俺が顔を上げた時、二人の表情はかなり曇っていた。考え込むように口元に手を当て、確認するように俺へ問い返す。




「ヤヒロさん……。その、本当によろしいのですか?」

「……お前、下手したら死ぬぞ?」




 二人は俺を心配し、反対もした。

 だが、最後には了承してくれた。




 ――――――これが『まうぃつど一発大作戦!』の、一連の流れである。――――――




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 だから俺は、作戦を成功させるためにも、煽るような発言をした。そしてこうして身を潜めながらも、道化師ヤローの目をに引きつけた。


「ぶっちゃけ、俺のあの低レベルな煽りスキルで、あんなにもブチギレてくれるなんて……超ラッキーだな」


 本職の煽り手相手だったら、どうなってんだよ。絶対に簡単に釣れるだろうな、アイツ。


(あれだけボロくそ言ったんだ。本当にアイツのプライドが高ければ、魔獣は使ってこないはずだ……!)


 ロキと別れる際、『匂い消しの薬』なる液体を飲まされた。

 見た目の色も味もまぁ、最悪だった……。正直、「不味い! もう一杯!」とか言って飲むのは、某健康にいい青い汁のCMの真似だけで十分だ。が、ロキいわく。飲んで数時間は効果があるらしく、あの程度の魔獣たち相手なら匂いで追われることはないとの事。


 これは魔獣などが多く生息する山岳地帯などで、魔獣などから一時的に身を隠したり、狩りをする際に匂いでバレないためにと、重宝されているものらしい。所謂、調合薬ポーションの一種だそうだ。


 そんな不味い調合薬を飲んだ俺は、一先ず魔獣への心配はなくなった。それだけでも、大分気は楽になった。


「……ん?」


 ふと視界の隅に、拳より少し小さいくらいの石を見つける。俺は手を伸ばして、その石を掴む。

 ……よく見れば、それは『発光石』のようだった。


「……まぁ、使えるかどうかは別として……。手札の数は、あるに越したことはないよな」


 俺はチンピラたちが使っているのであろう『発光石』を拝借し、ズボンのポケットへと入れる。

 そして深呼吸をして、気分を落ち着かせる。




「捕まったら、即ゲームオーバー。リアル鬼ごっこと行こうぜ、道化師サマよ……!!」

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