第47話 〜お兄ちゃんは導き出すようです〜

「え?」

「なっ……!?」


 予想外の人物……もとい、セージからの言葉に、俺とロキは驚く。


「機能していない『対・魔晶石』を見つけられる自信も、絶対に上手くいくという確証も、僕には何も無いです……。だからこれは、一つの賭けでしかない。……だけど、これ以上この街や人々が危険に晒されるところを、僕は見たくありません」

「何言ってるんだよ、セージ!? お前にとって、この街や領主なんて、どうだっていいだろ!? あんなヤツらを、守る価値なんて! お前が危険に晒される方が……!!」

「ロキ」


 セージは今までに見たことの無いほど、真剣な顔つきと声でロキの名を呼ぶ。その真っ直ぐな瞳に、ロキはたじろいでは、逸らすように瞼を伏せる。そんなロキをセージは、困り顔混じりに笑って見つめる。


「……お前がやらなくたって、別の誰かがする。だから、だからお前は……!」

「ロキ。ロキの気持ちは分かります」

「だったら……!」


 今にも泣き出しそうなほど、ロキは辛そうに声を上げる。それでも、セージは決して折れることはなかった。


「それでも、僕はやります。僕は、この街の人々が好きです。でもそれ以上に、ロキのことが大好きです。そんな大好きなロキが、一度でも傷ついて、守ろうとしたこの街を、僕は守りたい。僕は、ロキの助けになりたいんです」


 まるで幼子を諭すように。しかし、どこか芯のある言葉と声色に、ロキはそれ以上何も言わなかった。そして小さく「お前の……好きにしろ」とだけ呟く。その言葉に、セージは小さく笑って「ありがとうございます」と、礼を言った。


「……でも、無理だと思ったら直ぐに逃げろ。そうじゃなければ、僕はこの街を犠牲にしてでも、お前を優先する」

「そうならないように、気をつけます」


 そう言って、二人は互いに笑い合う。よく分からないが、和解したようだ。


「そんじゃ、話は終わったみたいだし。改めて作戦でも立てるか!」


 俺は空気を変えるためにも、きわめて明るく手を叩く。そんな俺を、ロキはゴミムシでも見るかのような目つきで、睨んできた。


「なんだお前、まだ居たのかよ。さっさと魔獣の群れにでも突っ込んで、少しはアイツらの腹の足しにでもなってこいよ」


 さっきまでの、しおらしかったロキなど初めから居なかったかのように。一瞬にして、いつも通り毒舌で辛辣なロキに戻った。


「おい。『なんかよくわかんないけど。とりまいい雰囲気だったから、黙って空気になっておこう』と、見守っていたお兄さんに対して、失礼じゃないかな!?」

「もー、ダメだよロキ。ヤヒロさん一人じゃあの数の魔獣たちのお腹は膨れないよ!」

「君もさぁ! サラッと俺が食べられる前提で、話をしないでくれるかな!?」


 俺のツッコミに、セージは「すみません!」と慌てて謝罪をする。そんな光景を見ていたロキは、大きなため息をつくと「うるさい!」と一言怒鳴って終わらせる。


「時間もないんだ、さっさとしろバカ兄貴」

「俺が悪いのか!?」


 色々と言いたいことはあるが、たしかに時間が無い。クールで大人な俺は、あえて噛みつかず、黙って言葉を飲み込むことにする。


「結界の方は……セージ。本当に、お前に任せていいんだよな?」

「はい! 精一杯、頑張らしていただきます!」


 俺は頷くと、ロキを見る。ロキは俺たちにとって、貴重な戦力だ。今までの言動を見る限り、ロキにとってセージという人物はとても大切な存在。もし、セージの身に何かあれば――――――。先程の言葉通り、この街を犠牲にしてでもセージを守ろうとするのだろう。


 つまり、この二人を生かすも殺すも、これから立てる作戦次第だ。


「一先ず、あの道化師を倒すことは置いておこう。俺たちが第一に優先するのは、この街の結界の張り直しだ」

「はい」

「おう」


 二人の返事を聞き、俺は頷く。まずはこの状況を整理するために必要なモノ……。


「なぁロキ、試しに聞くんだが……この街の地図とか、持ってたりしないか?」

「はぁ? 僕を一体なんだと思ってるんだよ」

「口や手足の癖は悪いが……かなり用心深く、用意周到なヤツ?」


 ロキは大きく舌打ちすると、魔法鞄の中に手を入れる。


「そんなの……あるに決まってるだろ!」

「でかした!」


 俺たちは、地面に地図を広げる。そして現在地と、粗方の地形の特徴を確認する。


「僕たちが今いるのは、大体この辺りだ」


 ロキが地図を指さす。地図上での俺たちの位置は、西側に位置した。

 この街の出入りできる正門は東西南東、四方に四つ。そして『対・魔晶石』は一定の距離間隔で、全てで24つあるとの事。


「セージ。俺たちが昨日、この街には入った門はどこだ?」

「東門です」

「この街の中心を軸にして、宿の位置は?」

「やや西側のココです」

「教会は?」

「街の中心だ」

「図書館の位置は?」

「中心より西側のココだ」

「ロキ、お前が初めに見た魔獣の場所は?」

「この辺り。南西付近だな」


 俺はロキからペンを借り、二人から聞き出した場所に、次々と印を書き込む。


「なら、東側は大丈夫だ」


 俺の言葉に、ロキが「その根拠はなんだ?」問いかける。


「キミーだ」

「キミー様?」


 首を傾げるセージに、俺は頷く。


「昨日俺たちがこの街に入る時、キミーは結界に弾かれた。


 そして「それに、これは俺の予想だが……」と付け加えるように推測を述べる。


「もし、この『対・魔晶石』の結界の外壁が編み物のように、石どうしで幾重にも編まれて作られるものなら……。一定の距離間隔で配置されている、東側の周辺の結界も緩むはずだ。それにもし東側の門の『対・魔晶石』が、昨日以前から結界の機能を失っているなら、キミーが入れてもおかしくない。でも、キミーは入れなかった」


 俺はザックリと……、上から下へと、街を左右二つに分けるように地図に線を引く。


「そして俺たちがいるのはココ、西。この街を西と東で、大きく二つに割って考える。図書館のある方角から、俺たちは西側へとヒナを探しに移動してきた。それに、『魔獣は』と、逃げる人の一人が言った。もし、東側を中心に結界が生きていて、西側のどこかが機能を失っていると考えるなら……」


 そこまで話せば、あとは勘のいいロキは気づく。


「仮に、西側の結界が弱っていたとして。あの道化師が現れた事と、魔獣を召喚した事にも頷ける……!」


 さらに俺は、線を引いて地図を細かく割っていく。『対・魔晶石』が機能していない場所を中心に、円状に魔獣が広がって潜伏していたのなら。先程つけた印の場所を繋げ、俺の導き出した答え――――――!!


「この辺りだ……!」


 俺は四箇所に場所を絞り、印をつけて指差す。


「こんな短時間で……」


 ポツリと、ロキが呟く。


「これは賭けでしかないが……セージ、この四箇所を探せ! そうすれば街に入り込む魔獣は、止められるずだ!」

「はい!」

「ならセージを守るために僕も……」

「いや、ロキ。それはダメだ」


 ロキの言葉を、即座に俺は遮る。「なんで!?」と、ロキが俺の胸ぐらを掴んで睨んでくるが、怯まずに静かに見下ろす。


「お前には、やってもらうことがある」

「こんな危ない橋、セージを守る以外に何があるんだよ!?」


 余程、心配で余裕がないのか。脅しのために、今にもズボンの下に隠しているナイフに、手をかけようとしている。

 俺は掴んでいるロキの手を上から握り、そして深呼吸してできるだけ落ち着いた声を出す。




「いいかロキ。――――――俺を

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