第28話 〜妹ちゃんは起きたようです〜

 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁






「………………」


 ふと、目が覚めた。


 なんの前触れもなく、ただただ目が覚めた。


「………………」


 真っ暗な部屋の中、大の字に広げた手足を動かさずに、大きく目を開いてジッと宙を見つめる。次第に視界が慣れ始めたのか、ぼんやりと天井が見えた。


「………………」


 陽菜子はムクリと上半身を起こすと、左右を確認する。そこには規則正しい寝息を立てた、兄と幼なじみの姿があった。


「……あり? いつの間に寝ちゃったんだろう……?」


 腕を組みながら、額に指を当てて考える。本の文字を解読しようとしていた二人の姿を見ながら、ウトウトし始めてそれから――――――……。


 ………………。


 …………………………。


 考えても仕方ないと言う考えに達したのか、陽菜子は考えることを辞めた。


 ふと、窓の外を見る。薄いカーテンの隙間から月明かりが差し込んでいる。そして窓の上の方からこちらを覗き込む人影が見えた。

 陽菜子は数回、自身の目を擦ると、ジッと窓の向こうの人影を見つめる。人影はしばらくこちらの様子を伺うように部屋の中を見てると、スッと上の方へと消える。


 この場合、陽菜子がきっと、突然の出来事で恐怖やパニックを起こしていただろう。

 しかし残念なことに、陽菜子は普通の少女とは少し違った。寧ろ、陽菜子の好奇心をくすぐるには、


 陽菜子は瞳を輝かせると、窓の方へと足を向ける。その際足元がよく見えなくて、盛大にベットから転げ落ち、廊下まで響く程の物凄い物音を立てる。が、その音に八尋はおろか、伊織も全く起きる気配はなかった。




 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁




 丸く大きな青白い月が、街を照らしている。その綺麗な月を背に、ロキは屋根の上で考え込むように腕を組んで座っている。


「……? なんでアイツ起きてんだ……? 確かに魔法は発動してるし、効いてるはずなのに……」

「『魔法』って、なんの魔法ですか?」

「うわぁ!?」


 突然の後ろからの、予想外の声に驚いたロキは屋根から滑り落ちかける。が、何とか踏ん張って耐えた。


「……だ、誰だ!?」


 ロキはすぐに距離を取ってズボンの下からナイフを取り出すと、声の主の方へと向けて構える。


「あ、ごめんなさい。驚かせるつもりじゃなかったんですけど……」


 声の主……陽菜子は両手を胸元まで上げて、武器や敵意がないことを示す。

 ロキは警戒体勢を続けながらも、相手に聞こえないよう小さく息を吐く。


「……お前、一体何者だ? 普通の人間じゃないな? ……なんで僕の……?」

「魔法? 何の話ですか?」

「と、とぼけるな! そもそもどうやってここまで上がってきた!?」

「いや、ロキさんさっき窓から覗いてたでしょ? だからてきました!」

「……はぁ? お前女だろ? 女がそんな簡単に登れるわけねーだろ?」


 ロキの一言に陽菜子はプクッと頬を膨らませると、「それー!」と叫びながらロキを指さす。


「『』とか『』とか! 私すっごい嫌いな言葉! 女でもいいじゃん! やってもできてもさ! 別に誰かに迷惑かけてるわけじゃないんだから!! できるならいいじゃん! 男でもできないことあったり、できたらいいじゃん! それで世の中回るんだったらさ! 回せばいいじゃんか!! グ〜ルグル〜って!!」


 何を伝えたいのか、ちんぷんかんぷんだが……。陽菜子の怒りの勢いに押されたロキは、戸惑いながらも思わず「お、おう……?」と相槌をつく。


「なんかさ、『女は愛嬌。男は度胸』って言うけど、男にも愛嬌あってもいいし、女でも度胸で突き進んでもいいと思うんだよね! 私は!!」

「いや……、知らないけど……」

「あってもいいと思うの! 私は!!」

「あ、はい。そうですね」


 陽菜子にズイっと詰め寄られて、慌てて同調する。すると『ビシッ!』とロキは鼻の前に指を突き出され、「だからね!」と続けられる。そして何故か面と向かった状態で座らされ、陽菜子の自論を数分聞くことになった。


 正直言うと、陽菜子の話を聞きながらロキの内心は「面倒臭いのに絡まれてしまった……」と言う後悔と、「何故こうなった……?」と言う謎でいっぱいだった。


「……ってことで。ロキさん聞いてる!?」

「ちゃんと聞いてるよ。で? 『女子力』ってのがなんだって?」

「そーなの! 最近流行りなのか、ことある事に『女子力』、『女子力』って……女子力って一体何なのさ!?」

「僕はそういうのよく分からないけど、要は『理想的な女の子』の事じゃね?」

「だからってのが、私はいまいち分からないんだよ!」

「お前が分からないなら、僕が分かるわけないだろ……」

「だからこうして、議論してるんじゃないですか!」


 ロキは口調や態度こそ荒々しいが、根は真面目だった。

 なんたかんだ言っても、陽菜子の話を真面目に聞いては、適度に相槌を入れ、時には自身の意見や疑問をぶつけて議論もしてくれたのだった。




 こうしてロキは、数十分間。陽菜子の持論に、付き合ってくれたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る