第27話 〜妹ちゃんはキミーについて教えるそうです〜

 ▼前回のあらすじ!


 ▼いつの間にか、妹が、居なくなっていた!(油断した!)


 ▼八尋は伊織と共に、途方に暮れた!


 〜妹の捜索をしますか?〜

 ┌──────┐

 │▷はい   │

 │▶いいえ  │

 └──────┘



 ▼………………。


 ▼………………………………。



【八尋の選択】

 ┌──────┐

 │▶はい   │ピッ!!

 │▷いいえ  │

 └──────┘




「……クソぅ! 探すぞ伊織! セージ!!」

「……っ! はい!」

「分かりました!」




 俺と伊織、セージの三人は、妹の捜索を開始した。




 ▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁▷▶︎◀︎◁






 この街……正式には『シルフジブリン』と呼ばれる街には、大きな噴水のある広場がある。噴水の中心には、ウィングベルグのとも言える、『風の精霊:シルフ』を象った像が建っている。

 それを見渡せる背の高い屋根の上に、ロキは座っていた。


 噴水の近くには母に連れられる子どもの姿や、近くのベンチに腰をかける老人の姿。また恋人と待ち合わせをしてるのか、ソワソワとしている男の姿や、噴水の水ではしゃぐ子供など、様々な人々の姿がチラホラと見てとれる。


 それを胡座をかいてついた肘の腕に顎を乗せて、つまらなそうに眺めているロキの姿は、どこか寂しそうである。


「……アホみたいに笑ってやがる……。ほんと……」

「『ほんと』、何?」

「うわぁ!?」


 突然、背後から耳元で問われ、驚いたロキは思わず前のめりに立ち上がりかけ、バランスを崩す。屋根から落ちそうになったところで、反射的に手を伸ばすと、その手を慌てて掴んで引き寄せられた。その反動でロキのフードが脱げ、赤毛と白髪の入り交じった細く長い三つ編みが宙を舞う。


 危うく屋根から落ちかけたが、何とか落ちずに済んだことで、互いにホッと息をつく。


「はぁ、マジで死ぬかと思った……」

「いや、本当に落ちるかと思って慌てちゃったよ……」

「誰のせいだと思ってんだよ、……!!」


 落ちかけたことにより、バクバクと鳴り響く心音を抑えながら、ロキは陽菜子を睨みつける。陽菜子は頬を掻きながら、「いや〜、ごめんごめん」とブカブカのTシャツの袖で、冷汗を軽く拭いた。


「まさかあんなに驚かれるとは、思わなくてですねぇ〜」

「あんなに気配消されてたら、さすがに驚くわ!」

「あれ? そんなに気配なかった? まぁ、昔から人の背後に回るのは得意だったからね。思わず『自分の前世は、忍者だったんじゃないかな!?』って、一時期本気で考えたくらいだよ!!」

「に、『』……?」


 陽菜子の謎の単語に、ロキの頭の中はちんぷんかんぷんだった。


「あ、『忍者』が分からない? ん〜そうだな……ジャパニーズ、スパイ? あ、日本とかジャパニーズとか言っても分からないよね。う〜ん」

「スパイって……要は刺客とか怪盗みたいなもん?」

「そーだね。その二つを足して割った感じだよ〜」


 だいぶ違うとは思うが……。陽菜子はおにぎりを握るようにグイグイと手を動かすと、ピースして笑う。ロキは眉間にシワを寄せて「いや、全然分かんねぇーよ……」と、呆れ混じりにため息をついた。


「……つか、どうやってここまで追ってきた? 僕は屋根を伝って来たはずだけど? お前どう見ても普通のヒョロい人間だし、昨日の話を聞いた限りじゃ、魔物とか魔法とかとは無縁な世界だったんだろ?」

「そうだよ! いやー、キミーと初めて会った時は、本当にビビったよね! 枝折っちゃって怒らして大変だったし……」

「いや、『キミー』って誰だよ」


 ロキの的確なツッコミだった。

 一方、『その言葉を待ってました!』と言わんばかりに、陽菜子は瞳を輝かせ始めた。


「キミーはね! すっごい大きな木の魔物なの! 最初は見た目や怒らしちゃって、怖いイメージだったんだけどね。本当は気が弱くて、すっごく優しい子だったんだよ!!」


 陽菜子はロキの隣に腰を下ろすと、両手を広げながら説明する。一方のロキはジト目で少しでも、何とか陽菜子の説明を理解しようと必死に頭を働かせる。


「ここらで『大きな木の魔物』って……! まさか『』か!?」

「え? 木の盾が何だって?」

「ちげーよ! 『』!! 通称『森の守森人まもりびと』!! ……ガイアナアース領ではそんなに珍しくはねーけど、ここらの森にもいるんだな……」

「『ガイアナアース領』って『地を司る』っていう、すっごい偉いお家の人のところ?」

「そーだよ」


 ロキが感慨深そうな表情で「そうか……ウッドマンは、ここら辺にも居たのか……」と、ブツブツと呟きながら顎に手を当てる。陽菜子はキミーとの出会いや、その後仲良くなったことなどを説明したあとに、ふと首をかしげる。


「キミーがいると、なにかいい事あるの?」

「そりゃあウッドマンか住み着くってことは、森が豊かな証拠だ。ここら一帯は粗方、人の手が入ってるからな。そのせいで居ねーと思ってたけど……。実はひっそりといたんだな」

「ふーん……。ロキロキは物知りだね!」


 陽菜子の言葉にロキはニヤリと笑うと、指を立てて自慢げな顔をする。


「そりゃあ、お前らより何十年……いや、も生きてるからな!」


 陽菜子は「ええっ!?」っと驚くと、ゴクリと喉を鳴らして真剣な顔をする。


「ロキロキって……実はお年寄り結構歳いってるんだね……」

「オイ、なんか悪意を感じるぞ?」

「キットキノセイダヨー」


 陽菜子の不自然な顔と物言いに、ロキは陽菜子のほっぺたを掴んで引っ張る。陽菜子は「ロキロキ〜! いひゃいよ〜!!」と、ロキの手を叩いて反撃した。

 ロキはちょっと楽しくなったのか、その反応をひとしきり笑って楽しんだら、パッと手を離した。


「うぅ〜、ロキロキ酷いよぉ〜……」


 少し赤くなった頬を擦りながら、口を尖らせて陽菜子が文句を口にする。ロキは「わりー、あまりにも変顔すぎて。調子乗ったわ」と、全く悪びれた様子もなく笑っていた。


「……で? 話を戻すけど。まさかお前……、そのウッドマンと、契約なんてしてねーよな?」


 ロキは悪い顔をすると、ひそひそ話をする様に陽菜子の耳元で……。口元を第三者に見られないように、隠して問う。陽菜子もロキに習って同じように悪い顔をすると「ふっふっふっ……」と意味深に笑う。そして……。


「もちのろんで契約したよ! 見てこのミサンガ! めっちゃ可愛くない!?」

「ちょっ! お前マジか! チョーウケんだけど!!」


『ドヤァ!』とドヤ顔しながら、手首のミサンガを見せる。ロキはそれを見て、大笑いしながら指を差した。


「お前、マジで何者だよ! 規格外すぎて逆に笑えるわ!!」

「いやいや、私だってまさか出来るとは思わなくて、結構驚いたよ? あの時のヒロくんの顔、めっちゃロキロキに見せたかったよ!」

「クッソ〜。なんで昨日に限って、セージの馬鹿を見失っちまったかな〜……。そんなおもしれーこと起きてんだったら、俺も見たかったわ」


 本当に悔しそうに、手足をばたつかせて空を仰ぐロキが面白くて、陽菜子は声を出して笑った。


「ロキロキって、長く生きれるって言う割には、子供っぽいよね」

「当たり前だろ。どうせ長い命なら僕は楽しく生きたいね!」


 ロキは無邪気に笑う。その笑顔には数百年と生きている面影はなく、外見と相応の子供に見える。


「……どうせなら、笑うさ。それしか僕の人生を呪えないからね」




 ロキの真ん中から左右に別れたが風に揺れ、金と赤眼の瞳が少し潤んだ。

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