第20話 〜お兄ちゃんは一日目を終えるようです〜

「イオ。もう遅いし、今日はここまでにしよう」


 俺は伊織の肩に手を置いて、読めない文字で書かれた本を伊織から取り上げると、机の上に置く。


「そうですね。今日は色々なことがありましたし……。休みましょう」


 伊織は頷きながら立ち上がると、ベッドへと視線を向ける。そして眉間にシワを寄せながら「しかし、ヤヒロさん……」と呆れ混じりに三つ並んだベッドの真ん中を見る。


「神崎家の教育方針について、外部の私がとやかく言うつもりはありませんが……。何とかならないんですか?」

「スマン。俺も流石にこれからの事を考えると、心配にはなってくるんだが……。なんせ本人が、全くもって自覚ないからな」


 俺は額に手を当てながら、本日何度目かの大きなため息をつく。

 俺達の視線の先……。そこにはスヤスヤと気持ち良さそうな、規則的な寝息を立て、猫のように丸まって眠る我が妹様の姿があった。


「どうかヒナに女性としての意識と、危機感を持たせてください!!」

「精進します……」


 真っ赤になった顔を手で覆って隠す伊織に、俺は妹に毛布替わりの布をかけては、申し訳ない気持ちになりながらそう答える。


 そして伊織と話し合った結果。出入口の扉側に俺、真ん中に妹、窓側に伊織と言うことでベッドの場所は決まった。


「灯り消すぞ?」

「はい」


 伊織がベッドに入るのを確認すると、俺は軽く息を吹きかけて灯りを消す。


 この世界、本当にファンタジーな異世界のようで。

発光石はっこうせき』という、軽く叩くと蝋燭の灯りのようにほんのりと温かく光る石が、夜や暗闇で行動する際は大変重宝されている。いわゆる生活必需品らしい。元々が消耗品らしく、この石は叩く力や石の大きさで灯りの明るさが変わるが、明るいほどその分、消耗も激しいらしい。


 暗くなった部屋を、俺は手探りでベッドへと向かうと、布を被って横になる。

 すると緊張の糸が切れたように強い眠気に襲われ、体や瞼が一気に重くなる。


(今日は本当に色々あったな……)


 俺はウトウトとしながら、今日のことを思い返す。謎の少女Aに渡された箱。突然現れた魔法陣に、この世界。言葉は通じるのに、文字が全く読めない。普通の人間や、白亜の民。まだまだ分からないことがたくさんだ。


「そう言えばセージの手紙の件、森から出るのに必死でちょっと忘れかけてたな。明日手伝わないと」などと考えながらも、眠気もあって上手く思考が回らない。


 眠気に負けた重い瞼を閉じた時、ふと頭をよぎったのは元の世界の家の……ここに来る前に、頭の中に流れてきた悲しげな少女の横顔だった。


(あの子は一体、誰なのだろうか……)


 どこかで見たことがある気がする。が、どうしてだか思い出せない。




 ――――――――――勇者も異世界民も、この世界の人間も……皆大っ嫌いだ!!――――――――――




 眠気に完全に負けた時、何故かロキの言葉が耳に残っていた。

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