第36話、流れの正義の味方のごとく、姿が見えないけれど



「……これから、人探しをします。レンさんたちです」



結構しどろもどろなベリィちゃんの言葉を、君は臆面通りに受け取ったらしい。

戸惑いよりも、自分に対する好奇心という言葉に、どこか嬉しそうに。



好奇心、猫をも殺すなんて物騒極まりない言葉があるが。

君にはそれは当てはまらない。

まさしくおれっちたちの出会いは、好奇心の果てにあるものだったから。

何か裏が……目的があって、君のことをつけていたなどとは、考えもしないのだろう。

あるいは、むしろそれならそれでいいと思っているのかもしれないが。



「人探し? それって……」


興味深げなベリィちゃん。

世話焼きっぽい部分が表に出てきたらしい。

たどたどしくも、君がそれを説明すると。



「あたしもついていっていいかしら?」


案の定返ってきたのはそんな言葉。

君は少しだけ考える素振りをして見せた後、一つ頷き、再び連れ立って元来た道を引き返すこととなる。

何でもベリィちゃんの実家も、同じ高級住宅街にあるとのことで。


おお、お金持ちのお嬢様なんだね、なんて思いつつもおおっぴらに会話に参加できないので、傍から見ると道中はベリィちゃんが一方的に喋っているように見えただろう。

まぁ、それでもお互いそれで楽しげであったから、良かったんだけど。




「こんにちは……」


辿り着いたラウネちゃんの家、と言うかイアットと呼ばれる貴族さまのお屋敷。

獣王の形をした鉄轡を鳴らすと、侍女さんが現れて。

最早どっちが当事者なのか分からなくなってくるほどに、ベリィちゃんが事情を話し、おれっちたちは客間へと案内される。

しばらくして現れたのは、ラウネちゃんとその両親らしき人たち。



「これはこれは、この度は娘を助けてくださって、ありがとうございます!」

「あたしはただの付き添いだから。助けたのは彼女よ」


ラウネちゃんの親父さんらしき人の最初の反応は、おれっちたちでなく、ベリィちゃんに対する驚きであった。

どこか恐縮している主人に対し、尊大と言うか、口調も態度もあまり変わらないベリィちゃん。


うむ、やはりウェルノさんを初め、ベリィちゃんも結構上の立場にいる人っぽい。

まだ若いのにねぇ。



「本当に……ありがとうございます。是非にもお礼がしたかったのですが、申し訳ありません、こんな形でお呼び立てしてしまって」

「ありがとっ、おねえちゃん」


一方、奥さんは冷静な感じだった。

しっかりと君に向き合い、深く頭を下げる。

それに主人も、ラウネちゃんも続いて。


「あ、あの。それは私より、レンさん、キィエさん、ジストナさんに……」


そもそも、君と間違われて攫われたのだから、君にしてみれば罪悪感があったのだろう。

故にお礼なんてもっての外、少し慌ててぶんぶんと首を振る。


「そ、それに、ラウネさんが攫われたのは、私のせいで……」


そして、そのまま言い直すみたいに、君はそんな事を口にする。

おそらく、その事を伝えるつもりで、ここに来たというのもあったのだろう。

おれっちはなんとなく予想できていたし、やれやれ、ほんと可愛すぎるくらい正直ものだよと、苦笑するにとどまっていたが。

何故か蚊帳の外のはずのべリィちゃんは、口をあんぐりと開けるような勢いで、固まっていた。


「と、言うと?」


不思議そうと言うか、さすがに訝しげな顔をする主人に、君は再度ラウネちゃんにあったことを説明した。

人攫いに攫われたラウネちゃん。

だがそれは、人攫いではなく。

攫ったと言うより、君の家に仕える使い魔(ステアさん)が、君と勘違いしたのが始まりで。


勘違いし、保護し、捜索願が出されるまで森の中にある別荘で匿っていたのだと。

しかし、似ている部分があるとはいえ、十は年の離れた少女と間違えるものだろうか。

当然そう言う疑問はあるだろう。

おれっちも、そこはどう説明するのかなって思ってたんだけど。


「私がこの世界からいなくなったのは、十年前だったんです。それで……帰ってきたのは最近だったから」

「まさか、神隠しに? それはそれは。ご苦労されたことでしょう」

「え? ティカ、神隠しにあってたんだ……」


またしても、どこまでもぶっちゃける君。

異世界からやってきた(帰ってきた)云々は、流石にまずいのではと思ったが、意外と受け入れられているようだ。


どうやら、世界間移動は意図するしないに関わらず、こちらにも『神隠し』として存在しているらしい。

ちなみに、ユーライジアでは、世界間移動する人のことを『虹泉の迷い子』と言う呼び方をする。



「成る程。事情は分かりました。しかしそれでも、礼を言うべきはこちらです。こうして娘は元気でいられるのですから」


ちなみに、当のラウネちゃんは今現在おれっちと戯れ合い中。

きゃっきゃと声あげながら、おもちゃのねずみを振り回し、それに振り回されるおれっち。


「あ、あの。ですから、その依頼を受けたのはレンさんたちで……」

「あ、そうなのっ。きいて、ティカおねえちゃん! きーちゃんもじすとなちゃんもれんおねえちゃんもいなくなっちゃったの! おうちにあそびにきてくれるってやくそくしたのにっ」


かと思ったら、急に手を止め話に参加するラウネちゃん。

急に止まれないおれっちは、そのままごろごろとソファから転げ落ちる。


「ええ……だから私は、ここに来たの」


依頼を受けに来たというより、純粋に彼女たちを探すために。

君の長く細い手がおれっちを回収すると、ラウネちゃんの目をしっかと見据え、そう答える。

何か手掛りでもないだろうか、と言う意味合いを込めて。



「あのね、わたし、きーちゃんたちにおしろにおくってもらったの。それでパパとママがきて、そのときにはもうみんないなくなっちゃってて……」

「そうなのです。娘を助けていただいて、是非にお礼をと思ったのですが」


やはりどこかおどおどしたままで、娘の話を捕捉するように、主人が言葉を続ける。となると城に行き、城のものに聞けば何か分かるかもしれない。

ただし、その事は当然彼らも聞いているはずだろう。

その旨を聞き出すようにと一声鳴くが、君は考え事をしているのか伝わらず、背を撫でられるばかりで。


さてどうするかと思っていると。

そこで口を開いたのはベリィちゃんだった。



            (第37話につづく)






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