第23話、友達だなんてつれないことを鳴くのならしまっちゃおう
正しく、タイミングを見計らったかのように。
おれっちと、ご主人さま……君が落ち着いて心の余裕がありそうな時を狙ったかのように、ピカピカ光るヨースの日記帳。
「ギルド……あの娘が話してくれた?」
『あ~、厳密にゃあ妹ちゃんは所属してたわけじゃないらしいけどね。でもまぁ、似たようなものじゃないかな。お金と夢と名声と、生きていくための仕事を得るための場所。こっちの世界でもそう変わらないんじゃない』
おれっちより、こっちの世界に詳しいはずの君とはいえ。
星集めの日記帳に記載されていた冒険者ギルド等のことを知らないのは、仕方のないことなのかもしれない。
今では牢屋暮らしからその日暮しの旅カラスの君だけど。
元々はいいとこのお嬢様……というより、ユーライジアという国の姫の一人と言っても差支えがないのが君なのだから。
聞いてびっくり納得ではあるが。
実の所このお屋敷でさえ君の家のもの……別荘らしく。
ステアさんが、管理していたものだそうで。
この場所だけで考えたって、そもそも生きていくためにギルドで働かなければならない必要性など、本来ならなかったはずなのだ。
まぁ、趣味でギルドのお株を奪うような仕事をしていた妹ちゃんのことを考えれば、いずれは君も同じ道を歩むだろうことは容易に想像できるわけだが。
「ギルド……どこにあるの?」
『そうさねぇ。レヨンの港町だっけ? そこに行けば分かるんじゃない? どっちにしろあの三人娘たちとの約束もあるし……おお、うまくすれば三つとも達成できるかも』
星を獲得するための助言などがない代わりに、制限時間のようなものもないとすると。
じっくり腰を据えてやれば不可能はないと言うか、むつかしいのは二つ目だけだろう。
残りの二つは、言われなくともやっていただろうし。
『あの三人組と別れる前にこの指令出てたらなー。今頃星四つは貯まってただろうに』
レンちゃんとキィエちゃんとジストナちゃん、それからラウネちゃん。
ついさっきまで警戒していたことなどおくびにも出さず、おれっちはそんな事を言う。
事実、あの三人の冒険者少女たちと、君が打ち解け始めていたのは事実だったから。
大丈夫じゃないかな、なんて思っていたんだけど。
「……でも、友達って、どうやってなるの?」
『それは……そういやそうだなぁ。どうやってこの日記、達成不達成の判断してるんだろう?』
多分君は、素で友達を作る方法を聞いているのだろうけど。
それで気付かされたのは、まさしくその言葉通りのことだった。
単純に口頭で友達の許可をもらえばいいのか?
あるいは心でお互いがそう思えばいいのか。
この指令に限っては、成功失敗というよりも、星が加算されていくもののようだから、試してみるのはありかもしれない。
おれっちは、ならばとばかりに君の肩口から飛び降りて、部屋に備え付けられてあったテーブルの上に颯爽と降り立つと、改めて君に向き直る。
『よし、それなら試してみよう。友達になってくれますか……って、おれっちに聞いてみ』
「……やだ」
『はい、分かり……ってはやっ! 否定すんのはやいって! そりゃあ、愛玩動物と友情の約束だなんて馬鹿げてるけぶほぁっ!?』
さっきから随分と俊敏な君。
おれっちがちょっぴりショックを受けながらもそうぼやくよりも早く、両の手でテーブルからかっさらわれ、再び天国と地獄。
さらわれた先はいつもの桃源郷。
死に場所故に息もできない。
……なんてのはうまくないし、冗談にもならないので、必死に谷間から顔だけ出して、おれっちは抗議の鳴き声を上げる。
『い、いきなりどうしたっ。おれっちは基本的に大歓迎なんだけどもっ』
ただ、強いて上げるとすれば、恥らって逃げ出すくらいの方が好みなのだが。
こんな子猫にそんな反応するのは、猫好きだけど触れない妹ちゃんくらいのものである。
人間の姿なら……恥らって花が咲くように赤くなる君の姿が浮かぶんだけど……。
「……」
そんなありえない、益体もないこと考えつつ見上げるも。
君は僅かばかり抱擁の度合いを強めるばかりで、何も語らない。
「……」
「……っ」
それでもじぃっと見つめていると、さっきまで想像していたものが具現化したみたいに、頬を赤く染める君。
おお、貴重な反応だ。
愛玩動物に対してと考えれば行きすぎな気がしなくもないが、心は人間の漢であるおれっちとすれば悪くない気分だった。
ひょっとして、愛玩動物云々じゃなくて、友達だなんてつれないわ! って言いたいのだろうか。
……はは、まさかね。
そんなことあるわけないのに。
「ティカさま、おしゃさま、おはようございます。朝食の用意ができましたので、食堂までお集まりください」
「……っ」
ある意味、そんな夢見心地で油断していた……ってわけでもなかったんだけど。
まるでいきなりドア越しに出現したみたいにに、ステアさんの声がする。
「は、はい。今行きます」
慌てた様子の君に、くすりと犬らしくない笑みをこぼすステアさん。
おれっちは内心の驚きを出さぬようにしつつ、一声鳴いてそれに応えて……。
(第24話につづく)
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