第16話、ここで出会ったのが偶然でなくて運命であるのならば
冒険者三人娘の雰囲気が変わったのは、君が頷いてすぐのことだった。
何か、失敗してしまったのだろうか。
張り詰めた……どことなく怒っているかのような雰囲気に、君がこわばるのがよく分かる。
だが、その怒りのようなものは、君に向けられたものではなかった。
「やっぱり……首謀者がいるってことよね。今回の事件には」
「……?」
頬に手を当て、呟くレンちゃん。
事件。
きっとそれが、彼女たちが魔物を追っていた理由なのだろう。
当然それを知らない君は、僅かばかり眉を寄せ疑問符を浮かべる。
それに気付き、説明してくれたのはキィエちゃんだった。
「港町の子供が行方不明になったんだ。ボクら以外にも、捜索の依頼をギルドから受けてる人はいる。ほとんどの人は『海の魔女』のせいだろうって言っていたけど。依頼主が、この森で見たこともない、魔物を見たって言うから、これは何かあるってボクらはここに来たんだよ」
「……っ」
またしても、抱かれるおれっちにだからこそ分かる、君のびくりとなるその反応。反応したのは、おそらく『海の魔女』の部分。
君の知り合いらしいその海の魔女の、あまりよろしくない印象から来ているのだろう。
だが、今それは二の次だった。
行方不明になった子供がいて、彼女たちはその子供を捜している。
そんな彼女たちの手助けをする。
何と星集めにお誂えむきか。
「私も、捜すの手伝います……」
なんて考えたおれっちの、何たる愚かなことか。
静かに、改めてそう口にする君の言葉には、強い力が篭っていた。
それも、無理はないんだろう。
今でこそ、仮面越しながらも手軽に会話できるようになったとはいえ。
君の伺い知れぬところで、随分と長い間、君からしてみれば妹ちゃんは行方不明だったのだから。
見つけた時には、既に命の奪い合いをしなくてはならないような敵同士。
そんな悲しみを二度と味わいたくない。
そう思っている君にしてみれば。
※
そうして、改めて詳しく話を聞いて。
まず分かったのは、攫われた子供というのは、ラウネ・イアットという名の、ロエンティの貴族のお嬢様であるということだった。
ロエンティ国の管轄である、森(というよりは、小さな山というべきか)の麓にあるレヨンの港町に住む、貴族一家の令嬢。
その貴族は、イレイズ国とロエンティ国に挟まれた運河を運航する商船を持っていたそうなのだが、『海の魔女』による被害せいで、その運航すらままならず。
その対処などに追われ、焦っていた親が目を離した隙に、一人になったところを狙われたそうだ。
逆に言えば子供を攫った犯人、その攫われた子供を除けば、誰一人その姿を見ていない、ということで。
それだけ、犯人は慎重に事を運んでいるのか。
あるいは、他の理由があるのか。
はっきりとした犯人像が浮かばないなか、方向性の定まらない捜査依頼。
彼女たちのように、森で見慣れない魔物を見た、ということで森に入ったものは、少数らしい。
それは、直接事件の解決に繋がるかどうかが曖昧なせいもあっただろうが。
それより何より、『海の魔女』の仕業であると疑っているものが多かったから、だそうで。
「どうして、その、『海の魔女』は疑われているの……?」
あるいは、そこまで疑われていながら、何故野放しにしているのか。
おれっちとしてはそこまで聞きたかったが、信じられない、といった風の君の言葉を聞いていると、どうにも言葉が出ない。
まぁ、もともと喋るわけにもいかないんだけど。
「あら、ティカちゃんってば、そんな事も知らないの?」
字面だけで見ると上から目線の高圧的なものに思えるのに、見た目の幼さとその甘い声のせいか、全くそんな風には聞こえない、ある意味得なジストナちゃんの問いかけ。
そんなわけで君が素直に頷くと、ジストナちゃんは親切にも、一からその事を教えてくれた。
どうやら随分な寂しがりやさん、というかかまってちゃんのようで。
人見知りの激しい君にしてみれば、それはそれで取っつき易かっただろう。
これなら、うまいこといけば彼女たちは君の友達になってくれるかもしれない。
おれっちはその瞬間、そんな風に保護者ぶったことを考えていたが。
そんな彼女たちの話を詳しく聞くに、今おれっちたちのいるジムキーンなる世界は、大まかに分けて四つの大陸からなる世界だそうで。
今いるのは、その中でも一番大きな大陸であるキヨウグ大陸の、ロエンティ王国と呼ばれるところだとか。
ロエンティ王国には先程話題にも上った、他の三つの大陸すべてに繋がる航路があるレヨンの港町があるのだが。
現在レヨンの港町から出る船は、そのほとんどが出航未定の状態らしい。
その理由は……話の流れですぐに予想はついたが、『海の魔女』が船を襲い沈めてしまうから、とのこと。
何でも魔女は屈強な船乗りの男の生き血が好物らしく、船に乗り合わせた男たちを一人残らず海に引きずり込んでしまうのだという。
操るものたちがいなくなった船のそのほとんどは、そのまま海の藻屑になるか、魔物や海賊の餌になり、辛くも港に戻れても残された女性たちはよほど怖い目に遭ったのか、まともに情報を聞き出せる状態ではないとのこと。
それだけを聞くと、別に街中でさらわれた子供の件と関連性があると断定できる材料はないわけだが。
犯人像が掴めないもどかしいこの状況の中、これも『海の魔女』のせいであると、いっしょくたにされてしまうのも、子供を攫われた親にしてみればしょうがないのかもしれない、なんておれっちは思っていたけど。
「……違う。彼女はそんなこと、しない」
「ふーん? それって、『海の魔女』と知り合いみたいな言い草だね」
たぶん、君のその呟きは思わず出てしまったものだったんだろう。
小さな呟きであったが、それに耳ざとく反応したのはキィエちゃんだった。
それは、ジストナちゃんとは真逆といってもいい、警戒を隠しもしない硬い声色だ。
一見すると、物事を深く考えなくても溌剌と生きていける、みたいな雰囲気のある彼女だから、余計にきつく感じてしまう。
おそらく、キィエちゃんは君をいろんな意味で疑ってかかっているんだろう。
何を疑っているのかはともかくとして。
そんな君の潔白さを証明できるのは本人を除けばおれっちだけだから。
君のお友達増殖計画をついさっき発案した身としては。
当然のこと、なんとかしなくては、なんて思っていて……。
(第17話につづく)
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