第5話、大切が戻って来るまでの、お留守番だと思っていたから


一見すると。

真っ新白紙の、これからの日々を綴っていくかの如き日記帳めいたもの。

君と一緒になって、『光(セザール)』の魔力が一体全体どこから漏れ出ているのかすんすん探っていると、それの説明は任せた前とばかりに再び赤仮面赤マントが講釈を垂れる。



「ヨース曰く、それは星集めの本らしい。ティカ、君はこれから異世界に渡り、世界のためになることをしなくてはならない。何をすればいいかは、必要なときのその本が教えてくれるはずだ。その成否に応じて、君に星が与えられる。その星が満足いくほどに溜まれば……後は分かるね?」


つまり、ヨースを見つけることができるとでもいいたいのか。

ややこしいというかしち面倒くさいというか。

そう思うも、見上げた君のその表情はやる気に満ちていて。

これは、なんとしてもおれっちもついていく方向に持っていかなければなるまい。そう思いつつ、おれっちは口を挟むことにする。



『溜めるって、どれだけ溜めればいいんだよ』


成否の判断の仕方は。

一体、世界のためになることと具体的に何か。

こんなものわざわざ使わなくともヨースのいる異世界の場所をさっさと教えてくれればいいんじゃないのか。

聞かなければならぬものから無粋なものまで、色々聞きたいことはあったけど。

まず口をついて出たのはそんなことだった。

すると赤仮面は何故かしたり顔(あくまでもおれっちの想像だけど)で頷いて。



「満足できるまでさ。ティカが、これでヨースと会えると思えるような……ね」


そんなことを言い、笑う。

それは、決して悪いものじゃなくて。



「……にゃぅ」


おれっちは思わず、唸ってしまった。

罪滅ぼしをしたい君にとってみれば。

何の贖罪もせずに許されたと思っている君にとってみれば、これほど意味のあるものはないだろうと。



「……わかった。頑張る」

「その意気だよ。期待している」


拳握る勢いの君に、何度も頷く赤仮面。



「……」


そこで感じたのは、なんともいえぬ不安だった。

頑張るのも期待するのもいいけど、彼女たちは生まれながらにして上に立つものだから。


裏を返せば、致命的なほど世間知らずなのだ。

何より、世界を知っていると思い込んでいるのが性質が悪い。


というより、それ以前の問題だった。

世界のためになることがどんなことか知らないけど。

はたして君はまともに人間と話ができるのかと。

大抵傍にいたおれっちとしてはそう思わずにはいられなくて。



『待て、一つ条件がある』

「なにかね?」

『そのヨースを探す旅に、おれっちも同行させてくれないか?』


叶わなければおれっちが苦手なお前にもふもふ攻撃をお見舞いしてやるぞ、なんて威嚇したおれっちだったが。

一瞬何を言われたのか分からなかったって感じに、硬直する赤仮面と君がいて。


何だその反応はと思うよりも早く、二人は一緒になって笑い出す。

そんなとこで姉妹の仲のよさを見せ付けなくてもいいのになんて、何で笑われているのかも分からずいがいがしていると。

それに答えてくれたのは君だった。


「最初からそのつもりだもん……」


言葉よりも、より一層の腕の力で。

思わず中身が出そうなくらいの、離さない、という意思。


『……そっか。ならよし』


ヨースがいれば、おれっちはお役御免。

君の隣にいてずっとずっと過ごすのはおれっちじゃない。

だから、十中八九危険になるだろうこの旅に、愛玩動物でしかないおれっちは必要ない。

どこかおれっちには、そう決め付けている部分があったから。

思わず泣きそうになってしまったのは、その力のせいだと誤魔化せないだろうか。


しがみつくように隠すように、おれっちは君の胸に顔を埋めていて。



「いいなぁ……」


その時聞こえてきたのは、独り言を呟くように小さな、そんな赤仮面の声だった。


一体どういう意味でそう言ったのか。

彼女でないおれっちにとってみれば、分かりようもなかったが。



             (第6話につづく)






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