Program 00

第51話 何も変わらない

 直人は今、あるゲーム会社に来ていた。

 中途採用で雇ってもらえた会社で今日が初出勤だった。そこまで大手の会社ではないが、ソーシャルゲームでヒット作を出しており、中堅になりつつあるゲーム会社だった。


 案内をしてくれた人に仕事部屋の前で待つように言われた直人。等間隔に並んだ机にデスクトップが敷き詰める。小規模のオフィスなので、チームごとにエリアで分かれているのだろう。イラストレーターもいれば、3Dデザイナー、プログラマーもいる。


 待っている間、何人かは直人方に視線を向ける。視線に耐えられず直人は胸元を触った。そこにはネックレスにした指輪が下がっている。

 勿論、リナに貰ったものではない。こちらに戻ってきてから、似たような指輪をショップで買った。女々しいとは思ったが、身に付けていないと……不安だった。


 大丈夫。きっと、大丈夫だから……。


 そう気持ちを落ち着かせていると、頭に激痛が走る。開いたドアが直人の後頭部を直撃したらしい。痛みに悶える直人を見て、女性の声が飛んでくる。


「わあぁぁぁ!ごめんなさい!ドアの側に人がいるとは思わなくて……」


 彼女は心配して直人の顔を覗き込む。すぐに大丈夫だと返事をしようとしたが、言葉が出てこなかった。


 直人の目の前にはボブカットの可愛らしい女性がいた。










 モニカだった……。


「モニカぁっ!」


「ふぇっ?」


 直人は彼女の肩を掴んで顔を覗き込む。確かに『モニカ』だ。顔形は彼女そのものだったが、黒い髪に茶色い瞳。ピンクではなかった。


「あっ……あれ?」


 直人は困惑する。そっくりだけど、彼女のはずがない。でも、他人の空似とは思えないほど『モニカ』に似ていた。


「ごっ……ごめんなさい!知り合いに似ていたもので!」


「あの?どうして私の『名前』を知っているのですか?」


「えっ?」


 手を離して謝る直人に彼女は首を傾げながら訊ねる。


「私、『ももか』っていいます。明輪あきわ桃花ももかです」


「も、ももか……」


 『モニカ』を『ももか』と聞き間違えたのだろうが、名前まで似ている事があるのか?

 二人の間に微妙な空気が流れていると、急に直人の体を持ち上げられた。


「おわぁぁぁ!」


「なんだ!なんだ!ずいぶんと細っこいヤツが入ってきたなぁ!お前、ちゃんと食べているのか?」


 後ろから誰かに抱えられた。すぐに下ろされ振り向くと、そこには赤髪じゃない『ケイス』がいた。


「ケイスぅっ!」


「けいす……『け』?何故俺の名前を知っているのだ?」


「はっ!ええっと……その」


 もうパニックになりかけていた所にさらに、『彼女』も現れた。


「あなたが新入社員のプログラマー?はじめまして、わたくしはチームリーダーの白石……」


「リナさんっ!」


「…………、そうですけど、どこかで会ったことあるかしら?」


 自分の名前を先に呼ばれたことに訝しむ莉奈。黒く長い髪を弄りながら直人を睨む。


「先程から私達の名前を言い当てているんです」


「おお!もしや『社長』に聞いていたのではないか?」


「いや、私は何も教えてないよ……」


 後ろからいい声の男性が近付いてきた。綺麗な顔立ちに黒濡れのサラサラヘアー。見た目は30代ぐらいだが、どこか若々しい印象があった。


「王様ぁっ!」


「はっはっはっ!おしい!『おおさま』ではなく、『大崎春馬』だ!ニアピン賞だな」


 お茶らけた返事をする大崎。『社長』と呼ばれているのでこの会社の社長なのだろう。面接の時は副社長が担当したので初対面だった。あれ?そういえば、副社長の顔も見覚えがあるな……?


「なるほど!相手の名前を『勘』で当てていたのか!すごいなぁ!」


「そんな、ぴったり当たるものかしら?何か裏があるんじゃなくて?」


「でも、誰も教えていないんですから!すごい直感力ですよ!」


 これは何だ?

 数日前まで当たり前のように顔を合わせていた皆がどうして、『界』にいるのだ?


 あっ……あれ?

 なんだこれ?どうなっているんだ?俺、まだ夢を見てるのか?


 直人は自分の頬をつねって夢じゃないことを確認する。ここは元の世界で間違いないし、ここにいる皆はあの世界の人達じゃない。でも、どうしてか、もう一度皆に出会えてしまった。


「ああ、そうか……、そうなんだ……。


世界が変わっても、何も変わらないって事か……」


 自分が得たものは、築いたものは変わらずここにあった。その喜びに感動し涙を流していると、桃花が声を掛ける。


「どうしたんですか?」


「いや、……なんでもないよ。モニカっ……じゃなくて、ももか……ああ!いや、その……」


 動揺で彼女の名字が思い出せず、焦る直人。これ以上不審がられたくなくて気持ちを落ち着かせていると、桃花が直人の手を握った。


桃花ももかでいいですよ。そう呼んでください」


 その優しい笑みは『はじめて』会った時と同じだった。


「俺は渡会直人。直人でいいよ」


 もう一度挨拶を交わす。

 また、ここから再スタートしていこう。














 新しいメッセージを受け取りました。


To :○○○○○○@gomail.com.jp


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 ありがとう……

 ごめんなさい…………でも、












 また、会えますから……






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