program 09

第41話 竜の巣へ

 竜の巣へ出立する日の朝。大聖堂で『神の加護』を授かる直人達。神の加護と言っても、病気やちょっとした厄から身を護るための幸運スキルだ。治癒や体力向上に比べれば大したものじゃない、なんて言ったら怒られるな。

 新しい大司教に祝詞を唱えて貰い、そのまま隊列を成して大通りを抜けていく。国民から多くの声援を受けて、勇者1名、騎士50名、魔術師1名、秘石師2名が東の最果てに向けて出発した。





 直人達を見送った後、ジュリアスは王立図書館に足を運んだ。机に散乱している本を片しているエリーゼに近付く。


「ナオト達は無事に出発したぞ」


「そうですか。あとは武運を願いましょう」


 黙々と片付けを続けるエリーゼ。本来、書籍を出しっぱなしにするのは規則違反なのだが、ここ数日は直人のために容認していた。


「明日、世界が終わるとしたら、そなたは何がしたい?」


 妻のエリーゼに問いかけるジュリアス。エリーゼは『リターンす』のスキルを唱えて、本を戻しながら答える。


「朝起きて、衣服を整えて、いつも通り図書館ここに来ます……」


「つれないなぁ。余と共にいてくれないのか?」


「私があなたの元へ行かずとも、あなたはここに来るでしょう……」


 王子であった頃から彼が図書館に入り浸っている姿を見ていたエリーゼ。求婚してきたのはジュリアスからだったが、ずっとお互いの事が気になっていた。


「あなたはどうなのです?世界の終わりには何をしますか」


「もちろん、一日中そなたとベッドで過ごす!」


「そう仰ると思いました」


「だが、まあ……それもしばらくお預けであるな。余もやらねばならない事が多くなるからな……」


 天災に向けての対策準備は進めているが、まだ食糧の確保と住民の移動が終わっていなかった。不真面目で気分屋のくせに肝心な所はちゃんとする男なのだ。


「あなたは、世界が終わるとは思っていないのですね」


「当然だ。余はな、ナオトに期待しておるのだからな」


 ジュリアスは窓の側へ歩き、中庭に咲いているスノードロップを眺めた。エリーゼはジュリアスの隣に立ち、同じ景色を眺める。


「そうだ。ナオトが無事に戻ってきたら、彼に異世界の話を聞いてみないか。異なる世界から来たなどと、我らが読んだどんな物語よりファンタジーではないか?」


「そうですね。興味があります」


 彼らの健闘を祈り、世界の命運と帰還を願った。











 草木も生えていない山道を歩いて2日が経った。馬も入れぬような険しい坂道で、周囲の景色も剣山のような山々が続く。東の果ての街から2日進むと、深い森が続いていた。獣道を押し退けて入り、途中で何度か魔獣の群れに出会した。だが、今の聖剣の前では、上級の魔獣も相手にならずに瞬殺される。

 ちょっとチートにし過ぎたかなぁ……と、直人は渋面をする。


 森を抜けると荒野が待っていた。赤銅色しゃくどういろの大地を踏みしめ、途中からは馬を置いて荷物を担いで進んだ。拠点を作りながら東へ歩く。竜の巣の正確な位置は分からなかったが、いくつか骨を見付けていた。飛竜がいるのは間違いなく、その形跡を頼りに進んでいると、空から異音が響く。


 ケイスが高い岩に駆け登ると、揺らめく太陽を背に、竜のシルエットがこちらに向かって来ていた。


「向こうから出迎えてくるとはな……」


 赤竜を視認しケイスは聖剣の柄を握った。直人達はその瞬間が来たことを感じ取り、胴震いする。






 挑むは滅びの赤竜。

 そして、終末の秘石を守る飛竜の軍勢。






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