第38話 会議

 直人は牢から解放された。10日間の拘留を経て外へ出た直人。日の光もそよぐ風も当たり前の事が、心に染みる。これが娑婆しゃばの空気か~。

 建物を出るとモニカ達が出迎えてくれた。モニカが抱きつこうとしてきたが、ずっと体を洗ってなかったから、体の匂いが気になった。まずは水浴びをしたかった。








 自分が生かされたということは、本当に世界を救くわなくてはならなくなった。会議室に集いプランを練っていく。


「『終末』のシナリオコードは竜の巣にあると思われます。誰もそこには近付けず、飛竜に対抗できる魔術や武器はほとんどありません」


「半年前の飛竜もダメージを与え続けてやっと倒せたのだ。一頭に対して騎士が20人がかりだった」


 クロエの報告に騎士達の脳裏にはあの凄惨な戦いが蘇った。狂暴な飛竜が何頭もいる巣に挑むなど無謀である。


「騎士達が使う武器やスキルの強化を行います。秘石のコードを書き換えて、より強力な攻撃を繰り出せるようにします」


「頼んだよ、ナオト」


「それと、残った騎士と魔術師の皆さんで国の防衛に努めてください。終末の章通りなら様々な天変地異が予測されます」


「わかったにゃ~」


「ナオト。そらなら、防壁シールドの強化の他に魔術による加護を取り入れた方がいいですわ」


「分かりました」


 集まった顔触れはほぼ知ってる人達だったが、官吏の者は初対面がほとんどだ。直人の対面に座る王は右側にいる大臣に話しかける。


「大臣、災害が起こる事を予測して、先に対策を練ってもらえるか」


「分かりました。それと、秘石師殿。防壁シールドだけでなく建物の強化もお願いできますか」


「えっ、そういう魔術があるんですか?」


「はい。それは街全体にかけられた魔術で、倒壊を軽減する役割を持っています。防壁シールドは魔獣を防ぐものですが、天災を防ぐ事は出来ません。多忙かと思われますが調整を願います」


「はっ、はい……」


 朗々とした声とどっしりとした佇まいの男性に緊張する直人。金髪に碧目へきがんの彼はリナの父、ウィリアム・ロックウェルであった。


「天変は赤竜が襲来した一月後に起こるとされています」


「なら、そこから逆算して竜の巣へ向かわないとならないですね」


「あらゆる書物を探って竜の巣の場所を特定しましょう」


 司書長エリーゼが眼鏡をたくし上げ、他の者も己の役割を確認する。みんなが『終末』を回避するために動こうとしている姿を見て、直人は目を伏せてしまった。


「どうした、ナオト」


 ケイスが強い視線を送る。直人の不安や迷いを見抜いているようだった。


「いや、ええっと……ケイスやクロエさん達には竜と戦ってもらわないといけないし、いくらプログラムを破壊すればいいとはいえ、決死は避けられない。全て俺の手腕にかかっていると思うと、その……、不安で……」


 赤竜は魔王とは違い、この世界を滅ぼすためにプログラムされた怪物だ。チートでカンスト状態相手の無理ゲーに『生きている人間』を挑ませていいのか苦悩する。

 本来なら『俺に任せておけ』と豪語しなければならないが、自分はそんなキャラじゃない。

 なんでこんなに……、自分はダメな人間なのだろう。


「ナオトよ……」


 イケボが自分の名を呼ぶ。肘掛けに体を預けているジュリアスが熱視線を向ける。


「ここにいる者は全員、そなたに票を入れた者達だ。そなたの心意気に突き動かせれた者達なのだ」


「わかっています。俺がなんとかしなきゃいけない事は……!弱音を言ってすみません」


「弱音の何がいけないのだ?それは、誰よりも真剣に状況を考えているからこそ、抱えるものではないか?」


 王の言葉はいつも的確で、力強く安心する。暗い靄を晴らし、行き先を照らしてくれているようだった。


「重圧も不安もあるだろう。だが、それはそなた一人が背負うものではない。我々も、共に立ち向かおう……」


 重圧プレッシャーと葛藤しながらも、皆の顔付きを見ると勇気が湧いてきた。直人はその期待を噛み締め、強く頷いた。


「……はい」




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