第39話 お風呂 上

 直人は誰かに揺すられて目を覚ます。リナの声がして体を起こすと、目の前に用紙と本の山が見えた。


「大丈夫ですの?」


「ああ、ごめん。平気だよ」


 目を擦りながら体を伸ばす。王立図書館で『終末』のプログラムコードの予測をしている内に眠ってしまった。このところ図書館と騎士団と王宮をぐるぐる回って、秘石の調律をしている。事務所には寝に帰るだけになってしまい、食事もまともに食べてない。


 リナが直人を連れて馬車に乗り、彼女の家に向かった。こんを詰めている直人のためにゆっくりとした寝床を与えると言ってくれたのだ。到着した家は豪邸だったので、マジで彼女がお金持ちだと知る。


「すごっ……リナさんの家ってお金持ちなんですね」


「何を言ってますの?ここは私個人が借りている家ですし、使用人も私が雇っています。両親の家とは別ですわ」


 言われて直人は貴族や名家がいない事を思い出した。こんな家を借りられるって、宮廷魔術師の給料はいくらなんだろう。


「そっか、家柄は関係なくリナさんがバリキャリなだけか……」


「それって異世界用語ですの?」


「え?ああ、そうです。仕事人間って事です」


 リナは首を傾げながら玄関を開けて、出迎えてくれた使用人に指示を出す。本当にこの家の主人はリナなのだ。まだ15歳なのにすごいな。でも、一人暮らしにしてはでかすぎる家だよな。


 使用人に案内されて浴場に連れていかれる直人。鏡や洗面台や椅子が置いてあり、奥に浴室が見えた。

 それも、シャワールームじゃなくて、浴槽にお湯がはっている!

 立ち込める湯気に心踊らせ、服を脱いで石造りの浴場に手を伸ばす。人肌温度のお湯に感激しながら体を滑り込ませる。『お湯に浸かる』なんて何ヵ月ぶりだろう。お湯が五臓六腑に染み渡る。


「ああ、いいな~。気持ちいい~」


 温かいお湯を堪能していると、瞼が重たくなっていき直人はそのまま寝てしまった。


「ナオト……ナオト!」


 呼ばれて直人は目を覚ますと、眼前におっぱいがあった。


「うわぁぁぁっっ!」


 驚きと共に手を滑らしてお湯の中に沈む直人。すぐに体を起こして器官に入ったお湯を吐き出す。


「何をしていますの!大丈夫ですか?」


 リナが心配して近付くが、そのむっちりとした体に視線を向けられない。


「なっ……なんで、リナさんがぁっ?」


「わたくしも入浴しようと思いまして。そうしたらナオトが寝ていたので……」


「そっ、そうですか、なら俺は上がりますね」


 そっぽを向いたまま浴槽から逃げようとしたが、リナに腕を掴まれ引き止められる。


「お待ちなさい!あなた体を洗っていないでしょう。石鹸を使った形跡がありませんよ」


「いえ、いいですよ!お湯で満足したので!」


「ダメですわ!そこの椅子に座りなさい!わたくしが洗って差し上げます」


 今何と仰いました?体を……洗ってくれるですと?


 直人はリナに促されるまま石の長椅子に座った。ここで体を洗ったり、体を乾かしたりするらしい。椅子に座った直人の後ろから、リナが石鹸で泡立てた手を使い直人の髪を洗う。調合された石鹸なのか花の香りが漂う。


 これ何てプレイですか!ソープ?行ったことないから、知らんけど!


 丁寧に髪を洗ってくれるが、身動きする度に胸が肩や背中にあたる。勃つなよ!絶対勃つなよ!フリじゃないからな!


 そのまま肩や腕、背中を洗って貰ったが、さすがに前は自分でやった。桶でお湯を汲んで泡を流してもらう。己の欲情との戦いを終えて、長く息を吐くとリナが隣に座ってきた。自身の体を洗うために髪をほどいていると、直人は立ち上がって出ていこうとする。


「待ちなさい!まだ体が濡れているでしょう。乾くまでここにいなさい」


「いいですよ。タオルで拭きますから!」


「それでは髪が乾きませんわ。もう少しここに……」


「あっ!あの!察してくださいよ!俺だって!男なんですから!」


 背中越しに叫ぶ直人。耳まで真っ赤になって恥じらう直人に、リナも無理強いは出来ずに手を放す。早歩きで浴室を出ていった直人にリナはむくれた顔をした。


「男なら、男らしいところを見せてほしいですわ」




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