第30話 稽古
騎士団本部に来るのは久しぶりだった。王命で聖剣の修復を終えて、秘石師としての基盤も安定したので、騎士団からの依頼を再開した。団長に挨拶してから秘石室の扉を開けた。今の直人は『
騎士の固有スキルの修復に取りかかるために、まずはコードの解読から取り掛かる。『スキル』に関しては騎士固有のものもあれば、一般的なスキルに近いものもある。今までの写しから予測できるコードから直していった。
一時間ほど経ち、少し休憩しようとして外に出た。秘石室を出ると、訓練所で剣を交えている人影を見つける。その中で赤い髪の男が騎士達に鍛練をつけている。
有事がなければ勇者は暇をもて余すので、ケイスはよく騎士団に顔を出すらしい。鍛練に励む彼らを見ていると、ある女性が声をかけてきた。
「あらあら、ナオト!こっちに来ていたのか!」
活発な声で話しかけて来たのは女騎士のクロエ・サリバンだった。銀の髪を一本結びにした褐色肌の美人で、さばさばした性格の女性だ。実は直人のお気に入りの女騎士さんでもある。銀髪色黒美女で凛々しい姿が昔好きだったゲームキャラにそっくりなのだった。
おまけに肩書きは副団長!ますますかっこいい!
いつもは銀の甲冑を身に纏っているが、今日は普段着姿だった。
「こんにちは、クロエさん」
「西へ東へ大忙しの秘石師さんがどうしたんだい?」
「騎士のスキルの修復に。まだ、全部直っていませんでしたから」
「なるなる!律儀だねぇ!」
「いえ、後回しにしてしまってすみません」
「デュランダルを直していたんだ!私達など二の次でいいわよ!」
クロエは直人の隣でケイス達の様子を見ていた。ケイスの周りに人が集まるのはよく見る光景だ。彼は人気者だからだ。町を歩けばみんな彼に声を掛ける。それは彼が勇者であるだけでなく、明るく馴染みやすい性格がそうさせているのだ。
勇者の秘石に『popular person』とは刻まれていないので、全てはケイスの人徳だった。主人公にするなら彼みたいな人物だろう。俺のような陰キャじゃない。
騎士達と楽しそうに訓練するケイスを見ていると、クロエがあることを提案する。
「ナオトもケイスに剣を教えてもらったらどうだね?」
「ええ!そんな俺なんかじゃ剣術なんて出来ませんよ」
「なになに!前に木剣で鍛練していたではないか!なかなか良かったぞ」
「うわぁぁ!見てたんですか!誰にも言わないで下さい!」
黒歴史を掘り起こされて焦る直人。絶対に他言しないでほしい!
「いいじゃないか!筋は良かったし、教えてもらえばいい。おーい、ケイス!」
クロエが強引に直人の手を引き、和の中に入っていき、快諾したケイスと直人で手合わせになった。何この昼休みの男子学生による戯れみたいなノリ?ボッチには縁遠いものなんだが?木剣を構えて固まる直人。
「好きに打ち込んできていいぞ!」
ケイスの言われた通り右側から剣を降り下ろす。それを受け止めて少しの力で押し返した。よろめいた直人が体勢を立て直して、もう一度構える。
「どうした?連続して打ってきていいぞ」
今度は力を込めて振りかぶった。二、三度剣を交えてケイスも攻撃を仕掛けてくる。なんとか受けて後ろに下がる。木剣でも体に当たれば痛いし、本気で振り下ろせば骨を折ることだってできる。だが、ケイスは直人が受けられる力加減で相手をしてくれていた。
「なかなかいいじゃないか!どんどん来てくれ!」
「おお、よし!」
ケイスが騎士達に慕われる理由がよくわかった。素人目から見てもケイスの剣の腕前は卓越している事がわかる。けど、相手に合わせた力量で真剣に取り組んでくれるのだ。
10分くらい鍛練をして仕事に戻った直人。クロエに預かってもらっていたベストを受け取った。
「稽古は楽しかったかな?」
「そうですね。いい運動になるかも……」
「なら、毎週ここに来て鍛練すればいい。私が付き合おう」
「ええ?そんなの悪いですよ」
「なになに!遠慮はいらない!副団長になったはいいが、内務仕事も増えてね。私も稽古相手を探していたのさ!それに体を鍛えればもう少し肉付きが良くなると思うよ」
「みんなに言われますけど、俺ってそんなに細いですかね」
「そうだな。服の上からではよくわからんな。どれ!」
「うひゃっ!」
クロエは直人の腰に手を回した。脇腹を触られて直人は変な声を出してしまう。
「確かに痩せてるな!だが、私は腹が出てたり筋肉が盛り上がっている男より、細身の男のほうが好みだ」
「はぁ、そうなんですか」
腹や
「ついでに、ウブな男もね……」
「……え?」
細めたクロエの瞳はコバルトブルーのように綺麗だった。秘石室の前で別れて、直人は作業に戻った。
「うっふふ、思った通りナオトはかわいい反応をするな。いじり倒したくなる……!」
クロエは恍惚の表情をしながら、舌舐めずりをする。初めて見た時から彼の事が気になっていた。騎士として男と同じ土俵で活躍してきた彼女にとっては、相手に主導権を握られるのは好きじゃなかった。直人のような純情なタイプに嗜虐心が疼く。
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