第27話 相談

 秘石師としての基盤も固まってきて、全職業の秘石の写しを開始し初めていた時に、ナオトは王に呼び出された。王の間ではなく、執務室に通される。部屋の大きさはそほど広くないが、部屋の装飾はきらびやかで緊張してしまう。紅茶を出されたが、テーブルマナーが不安だから口をつけずらい。


「秘石師としての仕事の方はどうなのだ?」


「ええ、教会との折り合いもついて、ようやく業務を始められたところですかね」


「そうか。無理はするなよ。ヒートにかかって倒れたと聞いたぞ」


 どこで聞いたのだろう?

 リナやケイスにはモニカが話したそうだが、そんなに噂になってるのか。首を傾げているナオトにジュリアスはアッサムティーを飲みながら、問いかける。


「秘石師・ナオトに折り入って相談がある。秘石に肉体の強化を加えることは可能なのか?」


「……可能は可能ですね。騎士や大工はそれが必須になってきますし……」


「そうか。では男根を強化することも可能なのか?」


「………………はい?」


 直人はたっぷり間を空けて聞き返す。聞き間違いじゃないよな?


「ええっと?もう一度言ってもらえませんか?」


「勃起時の陰茎の大きさを倍にするスキルをつくることは可能かと聞いている」


「………………」


 え?なにこれ?ギャグ?

 笑えばいいの?

 いやいや、王様の前で大爆笑は不味いよな。


 部屋に漂う空気は妙な緊迫感があった。まるで年末にやっている『笑ってはいけない』バラエティーのようだった。


「なんで、そのようなスキルを作りたいのですか?」


「端的に言ってしまえば、妻との情事に悩んでいるからだ」


 ぶっちゃけたなぁぁ!この人は。恥じらいとかないのかよ。


 国王ジュリアスの左手の平には模様が刻んであった。これはこの世界の婚姻の証らしい。夫婦となった者は同じ模様を魔術で手に刻む。模様の種類は何百通りもあって、離婚する時は消されるらしい。


「余の妻は仕事が好きでな。余と結婚しても王妃には転職せず、今も王立図書館の司書長をしておる」


「え、えっ!司書長って、あの人が王様の奥さんなんですか?」


 直人は王立図書館に行った時に自分達を門前払いにした眼鏡をかけた女性を思い出した。


「規律に厳しいからなエリーゼは。余もよく行動をたしなめられる」


「王様と結婚したのに王妃にならない人もいるんですね」


「特に珍しいことでもない。夫婦で職業が違う事などざらにあることだ」


 すべての人に職業が与えられるこの世界では、当然ながら女性も働いている。結婚して『夫』の職業に転職する女性もいるが、そうじゃない夫妻も多い。


「共働き夫婦ってことですね」


「そなたは時々よく分からん言葉を使うな。まぁ、仕事に誇りを持っている妻が余は好きだが、もう少し『女』の部分を見せてくれると嬉しい限りだ」


 話が艶かしい方に向かってきた。最初の問いかけに戻る流れだろう。


「夜の方も愛想がなくて淡白でな。しつこくすると突っぱねられるから、男としての自信をなくしそうなんだ」


「はぁ……」


「そこで『秘石師』として、男根を立派にする方法がないかと思ってな」


 俺は陰茎専門のカウンセラーか!絶対に相談する相手を間違えているぞ!


「えっーと、そういう薬とか魔術とかってないんですか?」


「すでに魔術師や薬理師には聞いたが、それらしいものはないそうだ」


 聞いたんかいっ!とツッコミそうになるのを堪えた。平静を保て!俺!


「えっー……、肉体の強化というのであれば、そういうプログラムはいくつかありましたね。増強、肥大、硬化とか。それに範囲指定をすれば、作れなくはないかと?」


「やはり!そなたなら可能であるか!では、作ってくれるか!」


「いやいやいや!なんかそれはズルいというか、卑怯というか?男は『大きさ』だけではないと思いますが?」


 直人はそれ以上のアドバイスを言うことができない。だって『経験』がないのだから……。


「これは余の個人的な悩みという事ではなくてな。巷でもそういう事で悩んでおる男性国民もおるらしいのだ」


 世論調査でもしたのか?

 まぁ、普遍的な男の悩みなのかもしれないが……。


「だから、王の役目として『男根肥大化スキル』を実現させ、矮小で悩む全ての国民を救ってやりたいと夢抱いてきたのだ」


「ぶっ…………っっ!」


 直人は吹いた。

 少し前から笑いを堪えていたが、耐えられなかった。ジュリアスが真っ直ぐな目で『デカチン宣言』しているのに我慢の限界だった。


 くっそぉ!真面目な顔でなんっつー事言ってんだ?この人。てか、なんで後ろの人は笑わないんだよ!訓練でも受けてんのか!


 部屋の中で直人から漏れた笑い声だけが木霊する。


「吹くほど馬鹿馬鹿しいか?」


「いっ……いえっ!すみません!……斜め上の発想で!驚いてしまって!」


 なんとか笑いを押さえ込む直人。深呼吸をして真摯に返事をする。


「ん~、ちょっと、考えさせてください」


「そうか、前向きに考えておいてくれ。さて、無駄話はここまでにして本題に入ろう」


 今の本題じゃなかったのか!っと!また、ツッコミそうになった。


「そなたは大聖堂に赴き、『神託』の秘石も見てきたそうだな」


 直人は今、ありとあらゆる秘石を写している。今の正常な状態の秘石を記録しておけば、今後何かあってもすぐに対処できるからだ。最初は大司教含めた聖職者達は猛反対したが、『神託』や『祈祷』を失うリスクを恐れたのか、しぶしぶ直人を秘石室へ通した。


「神託を読み解いたそなたに聞きたいことがある。神託に『新たな神託』を加えることは可能なのか?」


 ジュリアスは真剣な顔付きで直人を見つめる。いや、今までも結構マジ顔だったのだが……。


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