第20話 突破

 オークを払い退けつつ、ケイス達と合流するリナと直人。直人をモニカに任せ、リナは二人に指示を出す。


「モニカ!オークを牽制しつつ、ナオトを護って!」


「はい!」


「ケイス!わたくしが呪文を唱えている間、ミノタウロスを引き付けて下さい!魔術を発動させる前にこちらに下がって!」


「任せろ!」


 ケイスは腕の力を振り絞りミノタウロスと対峙する。リナは杖を掲げて呪文を唱える。


「風は怒りも慈愛も包み込む……形はないが流れはある……我れが導く方へ向かえ!

強風ゲイル!」


 リナが魔術を発動させると、ケイスはミノタウロスの大斧を弾いて、後ろへ下がる。すると、風が自分達の周りを覆い始めた。それは風力を増して壁のように聳えていく。自分達を中心に竜巻が生まれて、魔獣達は強風に曝される。オークの何体かは突風に飛ばされたが、ミノタウロスは留まっていた。


噴火イラップシェン!」


 リナはさらに魔術を重ねる。炎の魔術を風に乗せて、一気に外側へ向けて押し出す。ミノタウロスの吹き飛ばされ、巨軀きょくがよろめいた。


「今のうちです!門の向こうへ!」


 火に被われたミノタウロスが起き上がる前に直人達は走り出す。この周辺にいた魔獣達をすべて引き付けていたらしく、他に魔獣の影はなかった。城の中まで駆け抜け、振り返ってリナが『不可視インビジブル』の魔術をかける。

 城内は光源が少なく先が見えない。リナが『灯火ランプ』の魔術を使い、先の景観を照らす。広いホールには上へ向かう階段があるが、自分達が目指すのは秘石室のある地下だ。


「さて、ここからどうするか?地下に向かわないとな……」


「伝記によれば勇者達はこの階段を上へ登り、魔王の元へ向かったそうですわ」


「今の俺達に必要なのは魔王との謁見じゃねぇ。秘石は地下にあるのが定石なら、下へ向かう階段なりがあるはずだ」


 手分けして広間を隅々まで探索してみる。下へ通じる通路や階段、もしくは隠し通路があるかもしれない。壁などを叩いて探っていると、ケイスが呼び掛ける。


「皆、こっちへ来てくれぬか」


 螺旋状の階段の下にいるケイスの元に向かうと、彼は足元の床を二階蹴ってみた。


「ここのタイル、音が違っている。下が空洞なのではないか?」


「下がってください。『解錠レリース』!」


 秘石室への解錠はその使用者しか出来ないが、この城の主はすでに不在のため、その主権が宙ぶらりんなのだろう。床のタイルがその模様にそって花のように開いていく。下へ続く階段があった。直人はランプに火をつけて一歩ずつ下りていく。


 階段を下りた先は真っ暗な通路だった。この先に秘石室があると思い、暗い中を歩いていたが足で何かを踏んだ。それに気付いたケイスが先頭を歩く直人の襟首を掴み引き寄せる。

 次の瞬間、上から鉄の槍が降ってくる。トラップとかベタな!スイッチ踏んで串刺しとか、落とし穴とか、ギャグアニメみたいだな!

 などとツッコミを入れるがマジな話、ケイスが勘づいてくれなければ『ユーアーデッド』であった。


「仕掛けが残っているなんて……」


「どうやって進みましょう」


「俺が先に進もう。罠を先に見付けて回避すればいい」


「それじゃ、俺みたいに引っ掛かって終わりだぞ!」


。もしそれでダメでもナオトは無事だ。俺が必ずお前を秘石室へ案内しよう」


 それって獣の危機察知能力ってこと?んな第六感頼みだなんて、大丈夫なのか?直人はリナとモニカを振り返るが、二人も代替案はないらしい。


「リナ、『灯火ランプ』で先を照らしてくれるか?3メートル感覚でいい」


「分かりましたわ」


 照らされた廊下が続き、ケイスは一歩ずつ進んでいく。石造りの廊下で、どこに何が仕掛けてあるかなんてわからない。でも、ケイスは石の形や削れ具合、そんな些細な変化に反応して止まる。そこを確認すると見事に当たっていた。


 そうやって、本当に全部のトラップを看破した。なんてスキルですか?それ。


 無事に突き当たりまでやってこれた。石の扉が開き、奥には広い空間が見えた。『灯火ランプ』の魔術で壁に掛けられている松明が全て灯ると、壁一面にプログラムコードが書かれている部屋が広がる。

 この城の全てのシナリオコードが記されているのだろう。チラ見をしながら、一番奥の壁に辿り着いて秘石を照らした。


『character:"demon king"』


「これが魔王の秘石か……」






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