第19話 挫折(リナ)

「誰よりも博学多才な宮廷魔術師になりますわ」


 両親にそう宣言する。官吏のお父様は自分と同じ『職業ジョブ』に就いて欲しかったみたいですが、わたくしの志を認めてくれました。

 宮廷魔術師になる者は王宮の魔術学校で教育を受ける。その中でも一番の成績・実績を積み、最年少で第一博士号を取得しましたわ。同期や先輩からは妬まれ、風当たりは強かったけれど、わたくしは誰よりも知識の修得と魔術の研究をしていただけですわ。


「リナ・ロックウェル。余はそなたを責めていない。『秘石』に魔術をかけた件に関しては教会へは糾弾しないように取り計らった。余が命じたのだから、そなたに責はない」


 王の温情に何も言えなくなった。

 聖剣の秘石の崩壊。その事態に宮廷は騒然となった。王と教会と官吏達が連日協議を行い、秘石の修復する方法を探した。宮廷魔術師でも何か方法がないか協議し、わたくしは魔術による秘石の修理を提案した。

 誰もが渋い顔をした。秘石には誰も何も干渉してはならない。けれど、この前代未聞の事態に対して月並みな事をやっていてはダメですわ。魔術師長が首を縦に振らなかったので、王に直談判した。


 王は全てをわたくしに一任してくれ、崩壊した秘石の破片を完璧に元通りにした。

 でも、……ダメでした。


『失敗したらしいぜ。あれだけ自信満々に言ってたのによ』

『所詮は小娘。秘石に魔術をかけるなんて罰当たりな』

『そのまま博士号も剥奪されればいいのに……』

『元々、上と寝てもぎ取ったんだろ?あの体でさ…』

『ははっ、言えてる!』


 皆、わたくしの事を陰で笑ってる。後ろ指を指される事には慣れてます。だから、泣いたりしません。悔し涙なんて、一番惨めです。







 秘石を直せるという人物が現れた。王に再び秘石の修復を任命される。汚名返上の機会を下さったのでしょう。重い足取りで秘石室を下りると、話し声が聞こえてきた。


「秘石に魔術をかけるなんて禁忌のはずですのに、それを実行した方がいらっしゃるとは……」


 心臓が締め付けられる。

 誰もがわたくしを『愚かで傲慢な魔術師』と言った。何ヵ月も耐えてきたのに、もう心が持ちそうになかった。涙が溢れそうになった時、男の言葉がそれを止めた。


「そうだな。これを直そうとした魔術師は定石に囚われず、的確な判断ができる人なんだな」


「そうなのですか?」


「壊れた物を直そうとするのは当たり前の事だし、それで直らなくとも、別の要因を導き出せるだろ。そうやって、『可能性』を見つけようとした人が『ここ』にはいたって事だ」


 目の前にいる男性はそう言った。名は『ナオト』といったかしら。誰もそんな事言ってくれなかったのに、彼だけはわたくしの行動を肯定してくれた。


 彼の事を知りたい。

 話をしたい。

 私を見てほしい。







 リナは直人の手を取った。

 彼の手を引いてケイスとモニカの元へ走り出す。


「行きますわよ!ナオト!」


「ああ!」


 リナと直人は駆け出した。魔獣達の蔓延る門を突破するために……。




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