第7話 防壁(シールド)

 コードの組み立てを読み解く直人だったが、思っていた以上に重層な構築に頭を悩ませた。おまけに、これは最初から抜けやミスがあるものだ。元通りに出来るかは自信がなかった。


「なあ、防壁シールドの秘石ってこの村にしかないのか?」

「いいえ、各村に防壁シールドは存在します」

「なんだ!それなら他の村のコードを参考に出来るじゃん!ラッキー!」


 直人はモニカに別の防壁シールドの秘石を書き写して貰うことにした。ざっくり、スペルや記号の注意点を話して、書き損じがないように言い含める。その間、直人はコードを用紙に書き写す。





 その日は、プログラムを書き写しただけで家に戻った。モニカが書き写したコードを見比べながら、防壁シールドの構造を理解していく。場所と強度と守る対象物と弾く対象物の指定。この辺りは容易に埋めることが出来る。

 一番重要なのは範囲と座標だ。何平方根の場所を守らねばならないのかは、当然ながら他の村とは記述が違ってくる。中心から何メートルなのかを求めなくてはならないが、幸いな事にこの世界はメートル法を使っている。これで独自の度量衡を使われていたら、詰むところだった。

 次は座標の指定だ。完成形としては、ドーム型の防壁シールドを作りたい。シールドというタイルを上空に1枚1枚張り付けていくイメージだ。そのために、秘石からどこに何を置くかの指定が必要になる。

 別の秘石を見てる限り、3つの数字が鍵になっている。恐らく、関数でそれを表しているのだろう。

 例えば、秘石がある中心点から縦軸をX、横軸をY、上空をZと置き換えたとして、X軸が1、Y軸が1、Z軸が10、X軸が1、Y軸が2、Z軸が9のように、一つ一つの位置を指定していくのだ。一つのブロックが9平方メートルだとして、わり算していくと……。


 って、これっ!プログラミングじゃなくて、高一の数学じゃねーか!


 襲われた村の防壁シールドはこの座標指定が消しとんでいた。原理は分からないが、飛竜が攻めてきた時に壊された部分の数字が吹き飛んでしまったのだろう。地形や距離が違うから別の秘石を丸パクリもできない。

 直人は頭の中に3Dの模型を想定し、それを図で書きながら、数字を埋めていく。


 次の日、解読できた部分をモニカに刻み込ませる。だが、一回では上手くいかない。何かしら間違っているのだ。せめて、途中経過の段階でも、シールドが表示できたら間違いが分かりやすいのに、全てを正しく埋めないと復元できなかった。


 頭を悩ますこと2日後。

 ようやく、防壁シールドのプログラムが完成した。モニカに数式を書き込んでもらうと、秘石の文字が全て光った。確信はないが、上手くいった証拠だろう。

 何が間違っていたかというと、シールドの角度と向きの指定をしていなかったのだ。わかるか!くそボケ!テキストを寄越せ!


 防壁シールドの復元の有無を確かめるために、梯子を登って地上に出る直人とモニカ。秘石室から出ると、円柱の東屋から上空に向けて光が放たれている。それをすり抜けて空を見上げると、七色の光が波紋のように広がっていく。その輝きが地上に降り注ぎ、地面に終着する。再び、防壁シールドが村に張られたのだ。


「おお!すげぇ!これが防壁シールドなのか~」


 直人は目の前の神秘的な光景にただ感動しただけだったが、モニカは目に涙を浮かべて感激していた。この村に再び防壁シールドが戻った事に、言葉にならない感情が溢れてきた。


「うっ……ううっ、わあぁぁぁ!ああぁぁぁ!」


 大声を出して泣き崩れるモニカに直人はなんて言葉をかけていいのか分からなかった。何も言わなかったが、この村の防壁シールドの修復は彼女の悲願だったのだろう。

 傾いていく日が空と防壁シールドを茜色にそれていく。モニカが泣き止むまで直人は移り行く空の色を見ていた。



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