program 02
第6話 過重労働(オーバーワーク)
直人は硬いベッドに寝転びながら思考する。この世界と秘石についての事だ。
この世界は一体何なんだ?何故俺は、ここに送り込まれた。
仮説を立てるとすらならば、二つある。ここがゲームの中の世界である可能性だ。ゲームのように全てがプログラムされた世界。スキル、魔術、神託も全てその一環であるものだ。
だが、ゲームだとするとここで生きている全ての人がNPC【ノンプレイキャラクター】ってことになる。モニカの受け答えや反応を見る限り、パターンを喋っているようには見えない。住民全てに高度な知能と感情表現を与えているとなると、とてつもなく進化したAIが必要になる。
もう一つは、プログラムされた機能が現実になる世界とするものだ。住民は普通の人であり、神託と職業によって様々なスキルや魔術が使えるようになっている。実際に、魔術師の秘石には『job:"town wizard", user:"monica"』と書かれていた。『職業:街の魔術師 使用者:モニカ』。彼女は『神託』により『魔術師』となのではなく、あの秘石に『名前』が刻まれているから、魔術が使えるのだ。
そう考えると辻褄が合う。使えなくなった魔術と秘石の欠陥が直結していたように、秘石の存在が全ての鍵だ。
そして、それが自分が理解できるプログラムであることも、とてつもない意味を持っているのかもしれない。
*
次の日、直人が自分の役目を認識する前に、モニカの方が先に行動していた。朝早くに教会に行き『ある物』を持って、朝食を食べている直人の元へ戻ってきた。
「えーと、なにこれ?」
「全て『祈祷書』になります!」
「祈祷書って何?」
もう忘れた振りとかはなしにナチュラルに問い掛ける。モニカも疑問は抱かず真っ直ぐに答える。
「使用できなくなったスキルなどを教会に申告する書面です。私のように異常があって困っている人がたくさんいるんです!」
つまり、これまでも秘石の異常はあった訳だ。けど、教会に申し立てをすれば直っていたのか。ということは、聖職者達は秘石の構造を知っているのか?いや、それなら急に修復できなくなった理由がわからない。
「ナオトなら!秘石を直してくれるんですよね!お願いします!」
モニカにそう懇願されたが、彼女が持ってきた紙の束が50はあったので直人は声を荒げた。
「それは、そうだが!これを全部か!俺にオーバーワークさせる気かっ!」
「ふぇっ?お……おーばーわーく?」
「過重労働!働き過ぎってことだ!悪いが俺は残業や連勤はしないからな!」
前のブラック企業に勤めていた時は、残業や休日出勤は当たり前だった。最高20連勤した時は本当に体を壊してしまった。
「俺は最低限食っていけるだけの仕事しかしないし、期待されても困るんだ」
「あっ……あの!お金とかは交渉してみますし、一日で全部直してくれなくていいです!でも、みんなスキルや魔術が使えなくて、困っているんです!」
「けどなぁ!そもそもコードを直せるか分からないんだぞ!安請け合いはできない!」
「でも、地下の秘石は直してくれましたよね?」
「それは、ここに来る前からあの秘石のプログラムコードを俺が直していたからだ。だから、異常点をすぐに発見できたし、スペルも覚えてた。
けど、他のはうろ覚えだし、言語データがないんじゃ分からない!」
「あの……ナオトが何を言っているのか、分からないです」
「無理だって言ってるんだ」
直人の言葉の意味も飲み下せず、要求を突っぱねられたモニカは失望の顔を見せる。それでも、諦めきれず帽子をとって直人の元へ跪く。
「お願いです!見てくれるだけでもいいです!ダメならダメでいいです!でも、もしも直せそうなら!直して欲しいんです!」
モニカは目に涙を浮かべながら、直人の膝に擦りつく。
「お願いします!おねがいします!」
モニカの必死な姿に直人は困惑する。身に詰まされる気持ちになって、彼女につき動かされた。
「分かった。見るだけでもしてみよう。でも、優先順位を決めてくれ。俺じゃわからない……」
直人の言葉にモニカはすぐさま一枚の紙を直人の前に差し出す。
「……これを……!」
文字が英語なので何となく内容を確認する。たぶん、何処かの村の防壁を直して欲しいというものだ。
*
モニカに連れられ馬車で街を出た直人。しばらく馬車に揺られているとマルク村に辿り着いた。荷台を降りるとそこには荒れ果てた村が広がる。建物はいくつも倒壊しており、地形が抉られている箇所も見えた。人っこ一人いないので廃村なのかと思ったが、無人になってからまだ日数が経っていないように見えた。
「何があったんだ?この村……」
「……飛竜に襲われたんです。
ほんの2ヶ月前の事らしい。真っ昼間に黒い飛竜が出現し、上空の
説明をしているモニカの声は震えていた。帽子で顔は見えなかったが、どことなく悲痛な感情が伝わってくる。黙ってモニカに後をついていくと円柱状の建造物が見えてきた。屋根とベンチがあるから東屋だろう。その真ん中に模様が描かれたマンホールのような物がある。モニカが呪文を唱えるとそれが上へと開放された。備え付けられた梯子を下りて、筒状の空間に下り立つと、そこがそのまま秘石室になっていた。モニカが魔術で灯をつけると秘石にコードが書き込まれていた。
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