ACT.2
11 トバ組:Guild Toba
時は少し遡り、流星落下の翌日、早朝。
マキシから逃げおおせた
八区は隣の
それもあってか、
“ストレンジレット”は、そんなトバ組が用心棒をやっている店だった。
早朝で一般の客は居らず、流行を外れたパワーメタルが流れる店内には、あちこちで酔い潰れた
「また、
空のグラスを下げ、新しいウイスキーのグラスが置かれる。
定規で測ったように切りそろえた長い黒髪のストレンジレットの
「トバの看板では受けてねえよ姐さん。それに相手がバケモンだったンだ」
そう言って
「それは災難。でも……このニュートウキョウは元から、化け物に怪物、魔物に悪魔が闊歩している街じゃない? お友達にも
「違いねぇ。そういえばあいつも正真正銘のバケモンだったな」
カウチのクッションに深く体を預けて、
金髪をかき上げ、サングラスを掛けなおす。
このところ、請け負う
スピンドルから来た
それに予想に反して、耳を揃えて報酬の金が支払われたことも引っ掛かる。
相手の
そして渡されていた怪しげな【
――大体、デーモンAIとかいう、あの実体化したヘラジカの骸骨はなんだ。
「
「いや、すまン」
思案に耽っていると、
「
「昨日、スピンドルから墜ちたって流星、知ってるか?」
「小一時間ほどでセンサ・ネットから消されたアレだろ。アングラ・サロンにゃ残ってないが、タルタロスまで行けば、まだ映像は掘れるはずだけど?」
「どうもアレを見てから、妙な胸騒ぎが止まなくてな。ずっと鉄火場に座ってるような気分だ」
「
残ったウイスキーを飲み干して
グラスを置いて隣を見ると、
「追い返しな」
そして店の入り口の方から、扉が吹き飛ぶ音。
何だったら、その吹き飛ばされた扉の残骸と
「おいおい。今日はもう帰って、ニ、三日寝るつもりだったンだがね……」
「
「冗談キツいンだが?」
まだそんな軽口を叩く
「まさか、だろ」
裏通りには不似合いな、白い猫耳アンプの付いたパーカー。
陶磁のような肌のサイバーフェイスには
その派手な姿の乱入者は、スピンドルの
「ようやく見つけた」
「お前とやり合った
聞くと、マキシは
【
「【
「実体化する
「センサ・ネットでは情報を発信していないモノの方が珍しい。きっちり
「まったく、こんなカビの生えた古典的な手口を見抜けないとはな。俺もヤキが回ってきてンな」
――バキンッ。
そんな、ネットのデータには似つかわしくない金属質な音がした。
「それはそうと……ここはトバ組のシマだ、カチコミにでも来たンか? あんた」
――ザアッ!
一斉に銃を抜く音がして、店のそこかしこから、無数の銃口がマキシに向けられた。
酔っぱらいで飲んだくれていた組員の首に付いた、ろ過プラント・クロームが、血中のアルコールを一斉に吐き出し、酒臭い霧が漂う。
「
「この数で滅多打ちにされりゃ、さすがの装甲はともかく、中身が参るんじゃないか? アンタに生身がどれほど残ってるかは知らンが」
「なるほど……まあ、じゃあ、その前に全員殺そう」
マキシは郊外のコンビニで見せた、剣呑な気配を放って見せる。
そこらのチーマーやストリートキッズなら、それでビビッてズッコケて終いだろうが、さすがにトバ組の
これは
全員で睨み合い。微動だにしない。
弱腰を見せて一歩でも引いたら負け。かと言って粋がって安い引き金を引けば、辺り一面血の海だ。
このマキシという女――
一体多数の喧嘩を売ってくるような頭のイカレた奴の相手は、大抵こうなる。
たかが鉄砲玉相手に、
挙句、このマキシという女の場合、この状況からでも生きて帰る自信を持っているし、その能力もあるだろう。
こうなってしまうと、手下がビビッたり、キレて暴れ出す前にどうにかしないといけない意味では、
横で
「まったく……イキがいい
慎重に
いつの間にか、流れていた音楽も止まっている。
――こいつの返答次第では、しばらく肉は食えねえな。
そう内心肝を冷やしながら待っていると、マキシはあっさりと両手を上げる。
よく考えれば、こいつはまだ銃を抜いていない。
「実は、
「てめえ! ふざけてんじゃ――」
相手が引いたのを見て、即座にマキシの額に銃口を押し付け、胸倉を取りに行った
「それで、何の用だ? ウチの店の扉吹き飛ばすほどの要件なンだろうな?」
どうにも
そんなことを考えながら、
「
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