第6話 僕の異能


 僕が初めて自分のコードを認識したのは、5歳の時だった。


 そもそも藤堂家の縁者はピーキーな異能者が生まれることが多く、僕もそれなりに覚悟はしていたが、僕のコードはあまりにも扱いづらいものだった。


 通称『未来予知ビジョンアイ


 文字のごとく、2,3秒先の未来を認識する異能だ。非異能力者ノーマルがこれだけ聞くと、それなりに強いじゃないかと思われるがとんでもない。


 コードというのは、いわば公式のようなものだ。それに具体的な数字を入れて演算するのは使用者の脳で行わなくてはならない。


 未来を予知するなんていう、物理法則で証明もできない複雑怪奇な現象を引き起こすコードを演算なんてしてみろ。炎を出すとか真空を作り出すとかの異能とは難易度が桁違いに高いから、下手すると過負荷で脳がイカれる。


 幼稚園児が大学レベルの数学を無理やり解かされるようなものだ。


 絶望的な異能だが、自分なりに四苦八苦して何とか解決策のようなものを見つけようと足掻いた。


 幸い、学校には通わせて貰えなかったので時間はたっぷりあった。多分、四大正家の縁者が雑魚能力者だと思われたくなかったのだろう。兄は普通に通ってたし。


 足掻いていく中で、四大正家を敵視している警察の関係者に頭を下げるようなこともした。まあ、そのおかげで今就職できているわけなのだが。


 家族からは落伍者の烙印を押され、白い目で見られながらではあったが、2年程である程度自分のコードについて理解できた。


 未来予知のコードは半分が周囲の状況認識を行い、残り半分でその情報を元に未来予知をするらしい。らしいというのは、結局自分でもコードのことは複雑すぎてよくわかっていない。


 特に未来予知そのものを行う部分はさっぱりわからなかった。


 それはともかく、これ以上は分析しようがないくらいまで調べ終わったのでこの複雑なコードを使いこなすにはどうすればいいのかを考え始めた。


 2年でようやくスタートラインに立てた感じだ。


 言葉にするのは簡単だ。演算をする時の負荷を減らせばいい。


 そして負荷を減らすには演算量を減らすか、演算に時間をかけるしかない。


 演算の総量は変えられない。時間も戦闘中では長くできない。なら、


 要は、常に周りの状況認識を意識して演算しておくことによって、戦闘中の負担を減らせばいいということだ。


 状況認識だけなら何とかできるだろうし、慣れていけば時間も短縮できるはずだ。


 例えるなら、九九を覚えるような感じだ。


 中学生あたりになれば、誰も


「6×8は?」


「えっと、6が8個あるから・・・」


 なんてことはしない。何度も何度も計算していくうちに答えを覚えてしまうし、よしんば答えを忘れたとしても一瞬で計算できるだろう。


 それをコードの状況認識部分でできるようになれば、異能を使用した戦闘も夢ではない。


 だが、ここでまたやっかいな問題にぶち当たった。ほとんどの異能者がコードの半分だけに気を送り込んで演算するなんてことは出来なかったのだ。


 そもそもそんな面倒なことは誰にとっても意味が無いので、当たり前といえば当たり前だった。


 そんなわけで、僕は独学で異常な程に細密な気の操作を覚えなくてはならなかった。


 少しずつ少しずつ気を活性化させ、コードの半分にだけに流し込む。地味なくせに酷く集中力を使う作業だった。


 それにこれができたところで、異能が有効活用できるようになるとは限らない。


 なので、操作訓練と並行して警察で体術の訓練に参加し始めた。頼んだら案外あっさりとOKしてくれたのは驚いたが、四大正家と関わりをもっておけば何かに使えるとでも思われていたのかもしれない。


 それからはひたすらに反復練習の日々だった。演算練習でも体術訓練でも気絶しまくっていたのでこの頃の記憶は曖昧だ。


 我ながらよく必死に頑張れたものだと思う。


 別になにか崇高な信念的なものとかがあったわけじゃない。ただ、見返したかっただけだ。


 藤守家内でも、四大正家らしく異能だけが人間の価値基準だ。今からしたらバカバカしいと鼻で笑えるが、そんな家で幼少期を過ごしたのだから、家族を見返すためだけに頑張って来れたのだと思う。


 結局まともに異能が使えるようになったのは、6年後、14歳のときだった。その頃には気を細かく操作することによって糸レベルに細い刃をブレーダーで作ることもできるようになっていた。


 そして、この頃から僕は警察の特殊部隊で働き始めた。特殊部隊といっても非公式で非合法。何しろ、構成員が異能者の孤児だけだった上に平均年齢は16歳。


 現在でもほとんどの構成員が未成年だ。


 その名も異能対策課特殊実働部隊。警察内部では第二次新撰組とか言われたりもしている。僕は別に孤児ではないが、当時は既に家にほとんど帰っていなかったので生活費目的で参加していた。


 今も所属しているには、単純に給料がいいからだ。


 そんな部隊の任務中に藤堂悠子に目をつけられ、何故か気に入られて現在に至るというわけである。





 ※次回更新予定 6月12日 22:00

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る