第28話 観光

「ねー、お母さんー。暇だよー」


 おや。

 長いこと黙っていたブレサルは、退屈そうだ。

 たしかに、楽しい話はしてなかったからね。


「ブレサル? 今大事なお話をしてるから、もう少し……」


「シャロールさん、せっかくここに来たのですから観光でもしてきてはどうです?」


「え、あ……。でも、まだ話の途中ですし……」


「お話はニャンタロウさんと佐藤さんだけでもできるわよ。ブレサルくんとシャロールさんは、私と一緒に通りを見て回りましょ?」


 よかったね、ブレサル。

 こちらを気遣って、素敵な提案をしてくれた。


「いいかな、佐藤?」


 シャロールは佐藤に尋ねた。

 当然彼の答えは。


「もちろん。楽しんでおいで!」


「おみやげにマタタビ酒も忘れんなよ!」


 ニャンタロウは、ごきげんにお使いを頼んでくる。

 マタタビ酒って、なんだろうか。


「あなた、昨日も飲みすぎてたじゃない。だめよ」


「ちぇー」


 こうして、男どもを残して外に出ることになった。


――――――――――


「あれはなんです?」


 通りを歩いていると、いろんなお店が目に入ってくる。

 どれも初めて見るもので、シャロールとブレサルはきょきょろしている。

 そんな二人を、ほほえましく思いながら解説を続ける花子さん。


「あれはジュエリーショップといったかしら。珍しい宝石がたくさん売ってあるのよ」


「あのかっこいいのなんだー!?」


 ブレサルが目を輝かせているのは、おもちゃ屋さんかな?

 店先に赤いマスクをかぶった猫のヒーローの看板が置かれている。


「あれは今子供たちに流行っているお話『正義のヒーロー・ニャンバイザー』のおもちゃね。ブレサルくん、ほしいの?」


「うん!」


「あ、ブレサルだめじゃない! おもちゃはこの前買ったばかりでしょ!」


「いいのよ。今回はここに来てくれたお礼でもあるしね」


 止めようとしたシャロールも、そう言われると引き下がるしかない。


「花子さんが……そう言うなら」

「よかったね、ブレサル」


「おばあちゃん、ありがとう!」


 ブレサルはたくさんあるおもちゃの中から、変身ベルトを選んだ。

 さっそくウキウキで身に着ける。

 腰に輝くベルトが似合ってるぞ、ブレサル!


「あれ、あそこはなんですか? みんななにか食べてますけど」


「あれはね、茶屋よ。せっかくだから寄って行きましょう」


「あ、はい。行くよ、ブレサル」


「うん」


 三人はこじんまりとした和風の建物に入る。

 中にはいくつかの長椅子があった。

 みんなそこに座って、食べながら楽しそうにおしゃべりしている。


「私のオススメはお団子だけど……それでいいかしら?」


「はい!」


 注文をしてしばらくすると、奥から着物の女性がお団子三本とお茶を持ってきた。


「わー、おいしそう!」


 串に刺さった三色のお団子だ。

 きれいな丸で柔らかそうな見た目をしている。


「一つ忘れてたわ……ここのお茶、ちょっと苦いから気を付けてね」


「はい。では、いただきます」


「いただきまーす!」


 パクリと口に入れる。

 すると、もちもちとした食感が伝わってくる。

 そして、甘味。

 これまで味わったことのないお菓子に、母子ともに感動している。


「お茶も……ホントだ、苦い」


 さきほど家で出されたお茶よりもはるかに苦く、濃厚。

 しかし、お団子と合う。

 これがこの茶屋がここまで人気な理由なんだとシャロールは思った。


「お母さん、飲めない……」


 あらら、やっぱりブレサルにはまだ早かったみたい。


「はい、お水よ」


 花子さんはすでに準備していたお水をブレサルに差し出した。


「おばあちゃん、ありがとう!」


「ふふ、どういたしまして」

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