第27話 お茶の時間

「これ、この国で採れたお茶です。どうぞ」


「ありがとうございます」


 佐藤とシャロールの前に、湯呑に入った緑茶が出された。

 夫婦は揃って出されたお茶を飲んで一息ついた。

 ブレサルは……苦かったようで顔をしかめる。


「まあ、お坊ちゃんにはジュースでも持ってきますね」


「あ、いえ、そんな……」


「もう、遠慮なさらないで。大切なお客様なんだから」


 彼女が去って、沈黙が流れる。

 それを破ったのは、シャロール。


「あの……おじいちゃん」


「なんじゃ?」


「危篤じゃ……なかったの?」


 そう、それだ。

 ここに来た一番の目的はそれだったはず。


「ああ、危篤じゃ。孫がもうこんなに大きくなったというのに、バカ息子は会わせてくれんもんじゃから、胸が苦しくて苦しくて……」


「「「……」」」


 一同がコメントに困っていると、オレンジジュースを注いだコップを持って彼女が戻って来た。


「うちの主人が無理言ってすみません、本当に」


「なに!? 花子、謝ることなどないぞ!?」


「ヒュイもなにか考えがあって、この子をここから遠ざけてたんでしょうし。なのに、あんたったら……」


「うるさい! あいつの話などするな!」


 落ち着いたものいいの女性に対して、黒猫の……ニャンタロウだったかな?

 彼はますます興奮している。


「ま、まあまあ、落ち着いて……」


 見かねた佐藤くんが仲裁に入る。

 しかし、怒りの矛先がこちらに向いてしまった。


「それに、お前!」


「え」


「こんな偽物の耳など付けおって!」


「あぁ!」


 ぴょんと跳ねたかと思えば、佐藤の猫耳を猫パンチで叩き落してしまった。


「人間が猫族と結ばれるなど……」


「それはあなたもでしょ」


「なっ!」


「あたしに一目惚れして、その日のうちにここに連れてくるんだもの。『花子、好きだ!』ってね」


「くっ……」


 おや。

 どうやらこの一言は効いたようだ。

 口を閉じてしまった。


「硬いこと言わないで、認めてあげなさいな」


「……」


「シャロールさん、あなたも好きなのでしょう? 彼のことを」


 黒髪の女性……おそらく黒猫の奥さんがシャロールと佐藤を交互に見つめた。

 いきなり話を振られて、それに質問が質問なだけにシャロールの顔はみるみる赤くなっていく。


「あ……は……、はい」


「もちろんっ、僕も彼女を愛しています!」


 蚊の鳴くように返事をしたシャロールと。

 食い気味に身を乗り出しながら叫ぶ佐藤。


「ふふふ、それならいいわ」


 納得するように頷いてくれた。

 おかげで、この場が少し和やかになる。


「そうだ。せっかくだからあなたも久しぶりに人間の姿になってみたらどう?」


「は!?」


 ぱあっと顔を輝かせて自分を見つめてくる奥さんに、黒猫ニャンタロウは見るからに動揺した。


「私、あの姿好きよ。今風の言い方で……イケメンじゃない」


「そっ、そこまで言うなら……!」


 こいつ、案外チョロいな……?

 夫婦仲がよろしいこった。


 黒猫が目をつぶった。

 真剣な顔でなにか呪文のようなものをブツブツと唱えだす。


「うわぁ!」


「なにこれ!」


「けむい!」


 辺り一帯が煙に包まれる。

 心なしかいい匂いだ。

 やがてそれが晴れると。


「あー、やっぱ慣れねーな、これ」


 現れたのは黒髪短髪の美青年だ。

 これがさっきの黒猫?

 黒い猫耳としっぽは同じだが、やはり人間になると雰囲気が違う。

 それに、言葉遣いも変わってしまっている、


「俺さぁ、この姿でいんの疲れんだよなぁ」


「でも、似合ってるわよ」


「ふんっ、当たり前だろ。俺の術は完璧だからな」


 この姿になると、本当にいろいろ変わるようだ。

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