第9話 お悩み

「魔王ちゃん〜!」


「どこに行ったの〜!」


 あれからみんなで捜索しているが、一向に見つからない。


「ワオー!」


 ワイルドウルフも協力してくれているが、どうも見つからない。


――――――――――――――――――――


 一方その頃ブレサルは。


「ここらへんでかわいい角が生えた女の子見なかった?」


「ワン!」


 たぶん「知らん」と言われた。


「ここらで超絶かわいくて、赤髪の女の子見なかったか?」


「ワン!」


「ダメか……」


 諦めるな、ブレサル!


「誰か赤髪で金色の目、それに角が生えためちゃくちゃかわいい女の子を知りませんかー!!!」


 大声で叫ぶブレサル。


「バカ!」


 すると何者かに頭を叩かれた。


「イテテ……」


「そんなに大声で……その……かわいいって……」


 どこからか動揺している魔王の声がする。


「魔王ちゃん、どこにいるのー!?」


「とりあえず、お前にもかけてあげるのじゃ」


「かける? なにを?」


「隠蔽魔法じゃ!」


「いんぺーまほー?」


 そんな魔法があるの……?


「誰にも見つからなくなる魔法じゃ」


「うわー! すごい!」


「へへん、そうじゃろそうじゃろ?」


 だから、誰にも見つけられなかったのか。


「それで、なんでこんなことしてるの?」


 ブレサルが尋ねると、魔王は先ほどまでの得意げな顔を曇らせた。


「……いやだったからじゃ」


「いや?」


「なにもかも、投げ出したくなったのじゃ」


「どうして?」


「私はダメなやつなのじゃ〜!」


 魔王はいきなり泣き出した。


「わっ! 魔王ちゃん、泣かないで!」


――――――――――――――――――――


「私はな……魔王だけどな……」


 ブレサルの慰めで、落ち着いてきた魔王がゆっくりと話し始める。


「うんうん」


「ただみんなからそう呼ばれてるだけで、本当に魔王なのかわからないのじゃ……」


 そもそも魔王じゃない……かも?


「ずっとあのお城に一人ぼっちで、自分が何をしていいのかもわからない……」


「ずっと……一人で……」


「そんなダメな私だから、さっきもシャロールを危険な目に遭わせてしまったのじゃ……」


「……」


 魔王ちゃん、つらそう……。


「私なんて……」


「魔王ちゃん!」


 おっと!?

 ブレサルが魔王の肩をがっちり掴んだ!


「そんなこと気にしなくていいよ!」


「ブレサル……」


「魔王ちゃんは俺の大切な友達だ!」


「だが、私はなんの役にも立たないぞ……?」


「そんなこと聞いてない!」

「今のままの君でいいんだよ!」


 おおー。

 いいこと言うね〜。


「ブレサル、ありがとうなのじゃ〜!」


――――――――――――――――――――


「あ、ブレサル!」


「魔王ちゃんも!」


「どこ行ってたんだよ!」


 佐藤とシャロールが心配そうに駆け寄る。


「えへへ、ちょっと隠れてただけだよ」


「そうなのか、よかった」


「どこもケガしてない?」


 シャロールが魔王を心配そうに見る。


「大丈夫なのじゃ」


「ほら、みんなも魔王ちゃんのこと大切に思ってるよ」


 そうだな。

 佐藤とシャロールも魔王のことを気にかけていたんだ。


「それじゃあ、そろそろ帰るぞ」


「みんなもありがとね~!」


 ワイルドウルフにお礼を言って、洞窟を出た。


――――――――――――――――――――


「お父さん、お母さん」


「「ん?」」


 家に帰ると、ブレサルは両親にこう告げる。


「魔王ちゃんは、寂しいんだって」


「ん!? 私はそんなこと……」


 魔王は否定しようとするが。


「そうだったのか」


「それならそうと言ってくれればいいのに〜!」


 二人が魔王の頭をなでる。


「ちょっ、止めるのじゃ〜」


 そう言う割に、魔王の顔は満更でもなさそうだ。


「よかったね!」


「……うむ」

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