第8話 親友

「んで、魔王ちゃんのスキルはどうだったんだ?」


 翌朝、佐藤が興味津々に尋ねる。

 昨晩は、ブレサルが口をきいてくれなかったからだ。


「なんかね〜、スライムを従わせたらしいよ」


「なるほど、魔王だからモンスターを支配できるのか」


 そんなスキル……なのかな?


「すごいよね〜」


「いや、お前もすごいだろ」

「話せるんだぞ?」


 言われてみれば。


「あ、そうだった。ありがと、佐藤」

「それでね?」


「ん? どうしたシャロール?」


「今日はね、ブレサルに会わせたいモンスターがいるの」


 会わせたい……?

 モンスターを?


「なんだ?」


「イチローよ、ワイルドウルフの」


「あ〜、あいつか」


 シャロールを女神だと言ってた彼ね。


「最後に会ったのはいつだっけ?」


「も〜、忘れたの?」

「確か佐藤がギルド代表でワイルドウルフと友好条約を結んだとき!」


 え、佐藤君そんなことしてるの?

 すごい。


「となると、もう数年は経ってるな」


「久しぶりに会いに行きましょ」


「ああ、もちろんいいよ」


「それじゃあ、二人を起こしてくるね!」


 今日の予定はイチローとの再会……ついでにピクニック。


――――――――――――――――――――


「ワオーン!!!」


 シャロールは、森の中で遠吠えを上げる。


「お母さん、なにやってるの?」


 ブレサルは……魔王も首を傾げている。


「そうか、お前達は知らないのか」


「「うん」」


 なかなかスキル使わないもんね。

 モンスターなんか町にいないし。


「それじゃあ、教えてあげよう」

「お母さんは、ワイルドウルフと話せるんだぞ」


「「ええ!?」」


 口を大きく開いて、驚愕する二人。


「というか、大体のモンスターとは話せる」


「す、すごい……」


「シャロールこそ、魔王になってほしいのじゃ……」


 魔王シャロールか。

 かわいいだろうな。


「ハハハ! だってよ、シャロール!」


「ワン!」


 シャロールがこちらを向いて吠えた。


「え、なんて?」


「お母さん、なんで喋らないの?」


「ま、間違えたの!」

「今はワイルドウルフの言葉に集中してるから、話しかけないで!」


 なるほど、混ざるのか。

 それにしても、赤面シャロールは……。


「ワウ!」


 そのとき、茂みからワイルドウルフの群れが現れた。


「ワオワオ!」


 シャロールは彼らとしばらく話す。

 すると、群れがどこかへ歩き出した。


「ガウ!」


 再びシャロールが家族に吠える。


「またオオカミになってんぞ〜」


「ふふふ、シャロールは面白いやつじゃ」


「も〜! 間違えちゃう〜!」


――――――――――――――――――――


「あ! イチロー!!」


 以前も訪れたワイルドウルフが住む洞窟。そこでの久しぶりの再開にお互い嬉しそうに抱き合う。


「元気にしてたー?」


「ワオウ!」


 イチローとは、人間の言葉でも通じている気がする。


「今日はね、私の息子を連れてきたの〜」

「ブレサル〜!」


「え、うん!」


 ブレサル、そんなに緊張しなくても。


「ほら、怖がらないで〜」


 シャロールもこう言ってるし……。


「ガルルルル」


「うわ!」


 唸るイチローに怯み、ブレサルは後ずさった。


「どうしたの、イチロー?」


 ブレサルはなにもしてないけど?


「この目はアレだな」


「アレ?」


 佐藤はなにか知ってるのか?


「きっと鍛えてやるって言ってんだよ」


「そうなの?」


「ワン!」


 イチローは、佐藤をじっと見据える。

 その目は、正解だと言っているようだ。


「あれ、佐藤も話せるの?」


「い〜や、付き合いが長いだけだ」


――――――――――――――――――――


「僕はブレサルの訓練を見てるから、シャロールと魔王ちゃんは他のワイルドウルフ達と遊んできたらどうだ?」


「う〜ん、そうだね」


「私、戦い見るのつまんないのじゃ〜」


「それじゃあ、他のワイルドウルフさんと遊ぼっか!」


 退屈そうな魔王ちゃんを連れて行くシャロール。


――――――――――――――――――――


「ガオ!」


 二人が洞窟を歩いていると、なにやら人相の悪いオオカミに声をかけられた。

 いや、オオカミの人相は知らんけど。

 このオオカミは片目に傷があり、なんだか怖い。


「ガルル! グオウ!」


 興奮している。


「ちょっと! 落ち着いて!」


「なんて言っておるのじゃ?」


「人間がワイルドウルフと……」


 シャロールが魔王に通訳するために後ろを向いたそのときだ。


「ウワゥ!」


「キャッ!」


 興奮したワイルドウルフがシャロールに飛びかかった。床に押し倒されたシャロールは身動きがとれないでいる。その首に、鋭い牙が添えられる。


「ウ〜!」


 今にもシャロールを亡き者にしようとしているのは、誰の目にも明らかだった。

 シャロールもあまりの迫力に声が出ず、ただ口をパクパクさせている。


「ガウ!!!」


 鋭い雄叫びを上げて、牙がシャロールの首に食い込む……前に。


めんか!」


 魔王の叫びが洞窟にこだまする。


「人も魔物も十人十色!」

「わかり合うのは難しい」


「ウ〜……」


「されど目指すは以心伝心!」

「歩み寄るのが大切じゃ」


「……そう、だよ」


 シャロールもなんとか声を振り絞る。


「ワオ!」


 そこまで聞くと、ワイルドウルフは捨て台詞を残してどこかへ去って行った。 


「シャロール、大丈夫か?」


 魔王が手を差し伸べる。


「う、うん」


「すまぬな……私が無力なばかりに」


 落ちこんでいる魔王。


「そんなことないよ!」

「ブレサルや私を助けてくれたじゃない!」


 シャロールはいつもの調子で励ましてくれる。

 佐藤もこの優しさに救われた。

 しかし、今回は……。


「元はと言えば、私が彼らを完全に支配下に置いてないことが原因じゃ……」


「……」


「私は……ダメな魔王なのじゃ……」


「あぁっ! 魔王ちゃん!」


 魔王は暗闇に消えていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る