第10話 お引越し

「シャロール」


 妙に真剣な顔の佐藤。

 朝ごはんを食べてるときにこんな顔をするなんて珍しい。


「な〜に?」


 シャロールはいつものように答える。

 なぜか微笑しながら。


「今まで黙ってたんだが……」


「うん」


 浮気でもしてたか……?


「僕、転勤することになってさ」


「ええ!?」


 驚くシャロール。


「しかも、明日なんだよね」


「えええ!?」


 さらに驚くシャロール。


「いつか言おうと思ってたんだが、なかなか言い出せなくて……」


「どうして!」


 シャロールが少しだけ目を釣り上げた。


「なんか……楽しそうなシャロールやブレサル、魔王ちゃんを見てると……」


「も〜! 早く言ってくれればよかったのに!」


 いつもの顔に戻る。


「ごめん……」


「それじゃあ、早く準備しなきゃ!」


「ああ、今日は休みを取ってるからなんとか終わらせよう」


「うん!」


「とは言っても、僕一人の荷物だからすぐに終わるよね」


 うんう……。


「なに言ってるの!」


「え?」


 え?


「みんなで行くんでしょ!」


「……来てくれるのか?」


「当たり前じゃん!」


「危ないかもしれないぞ?」


「佐藤がいれば、大丈夫だよ」


 シャロールは微笑んだ。

 昔から、シャロールはよくそのセリフを言う。


「ありがとう、シャロール」


「どういたし……」


「ひあ!!」


 寝室から魔王の叫びが聞こえた。


「……なんだろ」


「……気になるね」


――――――――――――――――――――


「んへへへへ〜」


「ああ! ブレサル!」


 うわ〜……。

 これは寝ぼけてるな。


「おい! ブレサル!!」


「おーきーて!」


 佐藤とシャロールがブレサルと魔王を引き離す。


「むにゃ? 俺のバナナ……」


「違う、あれは角だ。食うな」


「ゾワゾワしたのじゃ……」


「よしよし、怖かったね」


 シャロールが魔王の頭を優しくなでる。

 怖かったのか?


「もう起きたんなら、手伝ってもらうかな」


 佐藤は二人に向かって、告げる。


「手伝う?」


「なにをじゃ?」


「引っ越し準備」


――――――――――――――――――――


「どこ行くのー?」


 自分のお洋服を畳んで、リュックに詰めるブレサル。


「ボルカノンだな」


「ボルカノンって、あの……」


「超暑いとこだな」


 なにせ火山があるからな。


「暑い?」


「こことは比べ物にならないから、覚悟しとけよ〜」


 佐藤が脅すように言う。

 すると、魔王が衝撃発言。


「地獄より熱いのじゃ?」


「「じ、地獄?」」


 夫婦が顔を見合わせる。


「昔一度だけ行ったことがあるのじゃ」

「魔王城より、ちょっとだけ暑かったのじゃ」


「そ、そうか」


「すごいね〜」


 おい、ふたりとも顔が引きつってるぞ。


「え〜! 俺も行ってみたい!」


 ブレサルは目をキラキラ輝かせている。


「無理なのじゃ」


 きっぱり否定される。


「なんで〜!」


「地獄はブレサルみたいな善人が行くところじゃないのじゃ」


「まあ、そうだな」


「ちぇ〜」


――――――――――――――――――――


「よし、あとは挨拶だ!」


 荷物を一通りまとめ終わった佐藤が叫んだ。


「お母さんにお別れしにいこうね」


 キャイアさんともしばらく会えなくなりそうだしね。


――――――――――――――――――――

「ふ〜ん、そうなのね」


 案外反応が薄いキャイアさん。


「それじゃあ……」


 佐藤は気まずいからか、席を立つ。


「待ちなさい」


「え?」


「あんた達、家は決まってるの?」


 そういえば、そうだ。


「あ〜……」


「決まってない……」


 決まってないんかい!

 この天然夫婦、恐ろしい……!


「よくそれで行こうとしたわね」


「あはは……」


「昔みたいに、兄さんの所に頼んでみるかい?」


 あの熱い人ね。


「う〜ん、そうしよっかな〜」


 なんとなく決めようとしているシャロール。

 その横で、佐藤の顔がこわばっている。


「あ、あの人は……」


「えー! お兄さんいるのー!?」


「お泊りしたいのじゃ!」


 子どもたちも乗り気だ。


「よし、わかったわ」


「お母さん、ありがとうー!」


 シャロールが笑顔で告げる。


「お義母さん、ありがとう……」


 佐藤も苦い笑顔で告げる。

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