Meet the person (あの人に会う)

第5話 洞窟の奥

「ひーとーりーでーでーきーるー!!!」


 床に転がって、駄々をこねるブレサル。


「ダメよ、ブレサル」


「危ないから、ダメだ」


 しかし、二人は口を揃えて反対する。

 決して意地悪をしているのではない。

 心配してるんだよ?


「ヤダヤダヤダー!」


 それでも泣き止まない。


「わかったよ、一人で行っていい」


 佐藤は仕方なく認めた。


「え!?」


 シャロールはまさか佐藤がそう言うとは思わなかったので驚く。


「ただし、今日はお父さんと一緒に行こう。次からは、一人で行っていいから」


 そこまで言うと、シャロールも納得したようだ。


「ブレサル、わかった?」


「むぅ〜」


 ブレサルはしぶしぶうなずく。

 最初さえ我慢すればいいからね。

 なんだかんだで、こういう判断をとっさにできるのは賢い証拠だぞ、ブレサル。


「それじゃあ、まずはギルドに行こうね!」


 シャロールが早起きして作ったお弁当を持って、家を出る。


「あ! お母さん!」


「待って! シャロール!」


――――――――――――――――――――


「この洞窟はな」


「怖〜い魔王の手下が住んでたんだよ〜!」


 シャロールがブレサルを脅かそうと、怖い顔をがんばって作っている。


「ふっ、今はいないけどな」


 それを見て、佐藤は笑いをこらえながら答えた。


「お父さんが倒したんだよ!」


 そうだね。


「ええ〜!? すごい!!!」


 ブレサルが驚くのもわかる。

 こんな頼りなさそうなお父さんが倒したなんて信じられないよね。


「うん……」


「それで、今は……」


 佐藤は突然言いよどんだ。

 今はどうしたんだ?


「佐藤?」


「お父さん?」


 二人が不安げに尋ねた。


「立入禁止になってんだよね」


「「え!!!」」


 あっさりと告げられた衝撃の事実に驚いて、二人共ネコミミをピョコピョコさせている。

 カワイイ。


「まあ、前からそうだったでしょ?」


 そういえば、佐藤が以前忍び込んだときもそうだったね。

 見張りがいた。


「え、それじゃあ……」


「大丈夫、大丈夫」

「僕がついてるから」


「お父さんで……大丈夫……?」


 お父さんを信用してあげなさい。


「なんだとー!?」


 佐藤は怒ったようにブレサルを軽く叩くフリをした。


――――――――――――――――――――


「この洞窟、どこまで続いてんだろ?」


「あ、ここで終わりみたいだね」


 行き止まりになっている。

 もう先には行けない。


「お父さんー、帰ろうよー」


 ブレサルは今にも泣きそうだ。

 なんだ、ブレサルビビってるのか?


「そんなことない!」


「佐藤、早く……」


 おや、シャロールも帰りたそうだ。


「いや、まだやってみたいことがある」


 やってみたいこと?

 シャロールとブレサルは首をかしげている。私もね。


「この扉が開かない」


 あ~、なるほど。

 他の魔王幹部の洞窟にも隠し扉があったもんね。

 ここも……。


「ほら、開いた」


 大きな音を立てて、壁が割れる。

 まだまだ道が続いているようだ。


「奥には何があるか……」


 佐藤が一歩踏み出したときだった。


「あれ?」


「お父さん?」


 一瞬にして、姿が消えた。


「佐藤ー?」

「どこに……」


 奥に進んだシャロールも消える。


「お母さん?」


 ブレサルは立て続けに消えた両親を探すようにキョロキョロとあたりを見渡す。


 う〜ん、どうやらブレサル、お前も行くしかないようだぞ。

 ……このままじゃ、話が進まないし。


「ええ!?」


 それとも、この暗い洞窟に一人で取り残されるか?


「うう~」


 嫌だろ?

 さあ、行った行った!


「うわー!」


 こうしてブレサルも洞窟から消え去った。

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