第4話 リンゴ狩り

「え?」


 一体誰だと思い、ブレサルが振り向くと、そこには見覚えのある兄弟が。


「ノーブ兄ちゃん!」


「お金、貸してやるよ」


 ノーブがニッコリ笑う。


「おごりじゃないの?」


 ホープがジト目で見つめる。


「わかったよ! こんなお子様一人分くらい奢ってやるよ!」


「ヤッター!」


 こうしてブレサルはただでリンゴ狩りをすることになった。

 ちゃんとお礼言うんだよ。


「うん!」

「ありがとう、お兄ちゃんにお姉ちゃん!」


「「どういたしまして」」


――――――――――――――――――――


「んしょんしょ」


 ノーブは借りてきた脚立に乗って、高い樹になっているリンゴを採る。


「ねぇ、お父さんとお母さんはここでなにかあったの?」


 あ、私に話してる?


「うん」


 どうしてそんなことを訊くんだい?


「前、ここが思い出の場所って言ってたから」


 思い出の場所……。

 確かにそうだね。


「気になるー! 教えてー!」


 えーとね。

 お父さんはここでお母さんに愛の告白をしたんだよ。


「なにそれ?」


 結婚しよう、シャロール。

 って言ってた。


「ええ!?」

「あのお父さんが!?」


 あのお父さんが……だ。


「それでそれで!?」


 お母さんはね……。


「うわ!?」


 ブレサルは身を乗り出して続きを聞こうとしたので、バランスを崩して脚立から落下した。


 これ、私の責任?


「おおっとぉ!」


 よかった。

 私のせいで物語が終わるところだった。


「ノーブお兄ちゃん!」


 頼れる兄貴だねぇ……。

 そのままノーブを地面に下ろす。


「お前、冒険者になるのやめといた方がいいんじゃないか?」


「うん、危ないよ」


 至って真面目に注意される。

 しかし、ブレサルはそんな心配を突っぱねる。


「いーやーだー!!」

「一人でできるー!!!」


 こういう無鉄砲なところがお母さん譲りだよなぁ。


「ホント、お母さんに似てるよな、お前」


「似てるね」


「なんでみんなそんなこと言うんだよー!」


――――――――――――――――――――


「お母さん、ただいまー!」


 ブレサルが、リンゴ一杯のかごを持って帰ってきた。


「おかえり、ブレサル」

「……って、ノーブとホープも一緒なの?」


 シャロールは驚いている。

 監視をお願いしたのに、一緒に帰ってきたからだろう。

 これじゃあ、一人で行ったことにはならないのでは?


「だってよ〜、コイツ一人じゃ危ないぜ?」


「危ない」


「違うってー!」


 やはり、ブレサルは猛反発する。


「あらあら、なにがあったの?」


 シャロールはそんなやり取りを見て、不安げだ。


「ただいまー!」


 そんな中、佐藤が帰ってくる。


「おっ! ノーブとホープじゃないか」


 佐藤は久しぶりに見る懐かしい顔に少し嬉しそうだ。


「あ、佐藤!」


「お父さん!」


「「おかえり!」」


 いつもどおり、笑顔でお父さんを迎える二人。


「今日は一緒に飯でも食うか?」


「いいのか!?」


「ヤッター!」


 思わぬお誘いに喜ぶ兄弟。


「それなら、お母さんも!」


 シャロールが提案する。

 シャロールのお母さんは普段ノーブとホープの面倒を見ているので、せっかくならと思ったのだろう。


「そうだな、昔みたいにみんなで食べよう」


「俺が呼んでくるー!」


 ブレサルはさっそうと家を出ていった。

 今度こそ……大丈夫かな?


――――――――――――――――――――


「ブレサルは一人で行ったのね、偉いわね〜」


 キャイア……シャロールのお母さんがブレサルを褒める。


「うん!」


「それなのに、シャロールは……」


 なんともいえない表情でシャロールを見つめるキャイア。


「えへへ、忘れてた」


 ペロっと舌を出すシャロール。

 かわいい。


「かわいいな〜、シャロールは〜」


 佐藤は笑顔でシャロールの頭をなでる。

 未だこの夫婦は新婚気分が抜けていないようだ。

 佐藤はシャロールにデレデレである。


「佐藤さん?」


 シャロールを甘やかす佐藤にキャイアの鋭い眼光が刺さる。


「あ! そうですね!」

「ダメだぞ! シャロール!」


 むりやり怒り顔を作る佐藤にシャロールは笑いながら謝った。


「は〜い! ごめんなさい〜!」


「ブレサルも大変ね、こんなお父さんとお母さんで」


「「うんうん」」


 ノーブとホープもうなずく。


「そんなことないぞ!」

「とっても楽しい!」


 満面の笑顔で答えるブレサルに佐藤とシャロールの目が潤む。


「「ブレサル〜!」」


 ブレサルをきつく抱きしめる。


「そういえば、お父さん」


 腕の中でブレサルがなにかを思い出したようだ。


「なんだ?」


「あそこで結婚しようって言ったの?」


「「ブー!!!」」


 二人仲良く吹き出す。


「だ、だだ、誰がそんなことを!?」


「そうそう!!」


 隠し事がまったくできていないほど焦りまくる二人。


「頭の中の声が言ってた」


「なるほど……」


「なんの話だい?」


 そうだ、キャイアは知らないんだよね。

 考え込む佐藤の代わりにシャロールが答える。


「あ、お母さんには言ってなかったね」

「ブレサルのスキルは……」


――――――――――――――――――――


「今日はがんばったわね、ブレサル」


「さすが僕の息子だ」


 ベッドの中で二人に挟まれるブレサル。


「えへへ」


「ブレサルにはいっぱい冒険してほしいけど」


「無理はしないでね」


「うん!」


「「おやすみ、ブレサル」」


 家族の暖かい夜が過ぎていく。

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