28.あなたの処女作について

 高校の頃からショートショートやTRPGのリプレイは書いてはいましたが、まとまった文章量の短編という意味では、大学で文芸部に入部した直後に書いた『こんにゃく刑事』が処女作になるかと思います。


 何せ二〇年以上前の話で、印刷したものも原本もまったく手元にありません。

 なので、遙か昔の記憶だけを頼りに少し語りたいと思います。

 その短編は、文芸部に入部した新入生向けの課題でした。

 当時、文芸部には僕を含めて四人の新入部員がいました。

 その四人に部長が課題を与えました。

 小説を書いたことのある奴もない奴も、とりあえず何か書いてきなさい。テーマは「こんにゃく」です、と。

 他の三人が何を書いてきたのかはまったく覚えていません。

 ただ、小説という意味では僕の書いた『こんにゃく刑事』は、我田引水ではありますがそれなりに形になっていたように記憶しています。


 以下、あらすじです。

 当直明けで帰宅する若手刑事。その帰り道で「だれか飼ってあげてださい」と書かれた段ボール箱に捨てられている"捨てこんにゃく"を見つけます。独身で話し相手もいない刑事は、そのこんにゃくを拾って帰ることにします。

 こんにゃくはコニャリータと名付けられ、刑事と生活をともにすることになります。刑事はコニャリータをいつも胸ポケットに入れて可愛がります。

 あるとき、強盗人質立てこもり事件が起こります。現場に駆けつけた刑事は犯人の説得を試みますが失敗。犯人の撃った銃弾が刑事の左胸に命中します。

 でもそこには胸ポケットがありコニャリータがいます。コニャリータは刑事を救うため、己の持てる力を総動員して弾丸に抗います。結果、コニャリータは奇跡的に弾丸を食い止めることができ、刑事は助かります。その代償にコニャリータはバラバラに砕け散り、誹謗の死を遂げます。

 事件解決後、コニャリータを失った悲しみに暮れながら帰路に着く刑事の前に、見覚えのある段ボール箱が現れます。「だれか飼ってあげて下さい」と書かれた箱の中には"捨てがんもどき"が捨てられていましたとさ。


 んーくだらない。

 実にくだらない。

 当時は火浦功がお気に入りだったようで、その影響が多分に出ていますね。このしょーもないプロットに、今では赤面もののくだらないギャグやジョークを交えながら一人でニヤニヤしつつ書いていたことは何となく覚えています。今はもうこんな話を書くことはないでしょうし、書けないでしょうねきっと。若さのなせるなんとやらです。


「処女作にはその作家のすべてがあると言われている」みたいな話は僕も聞いたことはあるのですが……んー、どうなんでしょうねえ。ギャグとかユーモアとかはショートショート以外では近年書いた覚えはないなあ。まあでも「巨大な竜を手術する」ってアイデアも、これってコントの設定だよねと言われれば否定できないような気もしますし、本質的には何ら変わっていないのかもしれません。

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