第28話 過去(ぼく)に捧げる戯言

 僕の好きなモノは恥なんだとそう信じ込ませた。


 皆が見たがるモノを真実だと言い聞かせてきた。


 時が戻ったのなら……過去ぼくに出会えるのなら……


 僕は彼に何を伝えられるのだろう……



 これまでの人生きおくが夢ならどんなに幸せだっただろうか……


 そんな風にさえ思えてしまう。



 過去ぼくを殺してぼくを演じる事で……


 僕はこれ以上に傷つくことは無いとそう思っていたんだ。



 何気なく映像に映し出される過去の僕。


 忘れ物を取りに行くように僕はその映像に見入る。



 あの日の苦しみもあの日の悲しみさえも今の僕には一つの希望に見える。


 あの日受け止められなかった事さえ……必死に必死にかき集めたくて……


 でも、それは……幻のように消えてしまう。



 今更愛することは許さないと……今更帰ることなど許さないと……


 ぼくはもう……ぼくを生きるだけ……


 せめて過去ぼくに今を生きないために……


 僕はそんな映像の彼に懸命に言い聞かせる。



 戻らない……取り戻せない……そんな希望がそこにはあるんだ。


 こんな世界線よりずっと幸せな世界があるんだよ。



 何をしていた……?


 そんな過去の映像……僕の横顔は何処を見ている?


 もし……今の過去きみ未来ぼくを見ているのなら……


 見えているのなら……


 聞けよ……伝われよ……



 もし……僕の声が届くのなら……


 どうか……未来いまの僕を忘れてください。


 どうか……僕を否定してください。



 僕をここからして下さい。


 


 

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