第26話 未来からの戯言

 人は過去を美しく語りたがる。


 真夜中に目的もなく外に出た。


 黄昏る少年でもなければ……

 別にそれから起こる何かに胸を躍らせる訳でもない。


 なんとなく……昔見た夜空の景色が綺麗だった気がした。

 その程度の理由。


 空を眺める。

 夜空に浮かぶ星とか月とか……

 まぁ……ごく当たり前のいつもの景色。


 多分、僕がきれいだったなと思った数年前の僕も、

 きっと今の僕と同じことを思っていたのだろう。


 そして、僕は数年後……この平凡な夜空を、

 今日、見た夜空は綺麗だったと思うのだろう。



 子供の頃に見た夢の続きが見たくて……

 身体ばかり大人になった僕は、

 そんな夢を周囲から恥じるように捨てたのに……


 今、僕と同じ空の下、星を眺める数年前の僕は、

 瞳を輝かせゆめを見てるのだろうか。


 人は……過去を美化したがる。

 果たして、僕が何かに一生懸命になった事があっただろうか?


 僕が真夜中の外に探しに来たそれは見つかるのだろうか。


 愚かだと思いながらも……

 夢見ていたかこはそれを恥じていたのに。

 人ごみを歩くことに疲れたいまは……それが綺麗に見える。


 水鏡に映った幼い自分が笑って僕の背中を押された気がした。


 流れる雲を……ゆっくり追いかけて……

 見失わないように……追いかけて……

 その雲の晴れた先には何があるのか……気になって……


 そして、僕は帰り道を忘れて……



 もし、数年後の僕がその場所に無事に帰られているのなら……


 この夜空を見ている僕は……今と変わらぬ僕ですか?


 さて、未来の僕は、どう答えるのだろう……


 今が再び過去ざれごとになるのか……

 未来ゆめの続きを見るのか……


 その先の言葉は僕はとっくに知っているはずなのに……

 でも、それは未来の僕が語る戯言だ。

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