第17話 音痴の戯言

 うたを唄うのはのは嫌いだ。


 この世界での僕の声が酷くずれている事は知っているから。



 うたを聴くのは好きだ。


 この世界で正確に調律されている誰かの歌声は酷く綺麗に聞こえた。



 自覚している。


 ひどい声も。


 みにくい歌詞も。



 うたいたくなんかないのに……


 聴かせなくなんかないのに……



 そんな名曲も……素敵な歌詞も言葉も……


 全てを汚す僕の声は……



 笑われたくなくて……


 反応されることに臆病で……



 だから、僕は声が出せなくて……


 だから、僕はそんな戯言も言葉にできない。



 言葉を声に出せない僕は……


 紙にペンを走らせる。



 そこに綴られる戯言が……せめてもの僕のこの世界の抵抗だと……


 言いたいのかはわからない。



 独りになりたくて……


 息を止め、口を塞ぎ。


 全ての音を閉ざしたくて、耳を塞いで……



 それでも、独りは怖くて寂しくて……


 傾けた耳で、君の声を探す……



 集う輪から外れ……懸命に君の歌声を聞いて……


 この世界で……正しい音程を探す。


 

 もう、笑われたくなくて……


 何処かの輪に紛れ込みたくて……


 受け入れられたくて……



 聞こえた、君の声を懸命に真似てみる。


 懸命に練習し……僕は君の歌う唄を真似うた



 君と重なる僕のうたは……不器用に響き渡る。


 

 それを笑う唇も……中傷する言葉にも……


 僕には聞こえない……ふりをする。



 それに何の意味がある……頭の悪い僕にはわからないけど……



 天を仰ぎ、流れる涙を隠し僕は歌う。


 響く音痴な歌声に。



 僕は聞こえる歌声を不器用に真似ていく。



 声がガラガラになっても……僕は繰り返す。



 ……それが、僕がこの世界で誰かと生きるということなんだと。



 そう……理解する。



 そうして、今日も音痴の戯言は、この世界に響き渡る。

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