第三話

 3:

 以前来た、大型スーパー。

「ねぇーお兄ちゃん」


 兄を呼ぶ。


 正直なところ、兄をどう呼ぶかで困っていた。


「なんだ?」

「入れるの手伝ってよ。ほんとにもう……」


 兄、兄貴、お兄ちゃん、お兄さん――


「入れるの俺下手やねん、お前も変に入れちょったら、怒るやろ?」

「ちゃんと破れないように入れてよ。トートバック欲しいなぁ……あれ?」


 兄の視線が目の前の食材から離れて、別方向を向いていた。


「ちょっとどこ行くの? お兄ちゃん」


 兄が気になった方向へ歩き出し、それを追いかけていくと。

 急に兄がしゃがんで問いかけた。


「おまえら、迷子か?」

「?」


 兄越しに奥を見ると、小さな姉弟がいた。


 まだ小さい男の子のほうは、指を咥えてしきりにあたりをきょろきょろ。女の子のほうは不安そうな顔をしてこちらを見ていた。


「うん」


 お姐さんの女の子が頷きと一緒に返事をする。


「おかーちゃんいないんか?」

「……うん」


 母親がいないことに不安になったのか、女の子の方が泣きそうな顔になる。


「泣くな泣くなや。弟の前やで?」

「うん……」


 泣きそうになったのを必死にこらえる女の子。


「泣いてたら、下のモンにシメシがつかんで」

「おいこら」


 兄にツッコむ。


「言い方違うでしょうに」

「そうかぁ? ……まぁそんな気がしちょったけど、他にどー言えばええねん?」

「普通に下の子が不安がるって言えばいいんじゃん」

「ああー」


 兄がなるほどと気づく。


「馬鹿だ……」


 つい肩を落としてしまう。

 まぁ、分かってはいるんだけどさ……。


「お前ら名前はなんてゆーんや?」


 兄が、小さい姉弟の二人に聞く。


「あけみ」

「たかーきー」


 弟のほうは、まだ喋りがつたなかった。

 おそらく「タカアキ」か「タカユキ」なのだろう。


「じゃあ、一緒にお母さん探してあげるから、ちょっと待っててね」


 急いで食材を買い物袋へ入れようと、きびすを返した時――



「あけみとたかーきのお母さん、どこにいますかあああああああああああっ!」



 兄が突然、とんでもない大声を周囲へ放った。

 あまりの大声に、本当にびくっとしてしまう。


「ちょっとおにい!」


 周囲もあまりの大声にびっくりして視線が集まってくる。

 足元にいる小さい姉弟も、目を丸くしてびっくり。


「こっちのほうが手っ取り早ええよ」

「だからって……」

「ほら、お前らもじゃ」


 兄が姉弟に促す。


「きっとおかーちゃん、びっくらこいて飛んでくるで」


 シシシ、と悪戯めいた兄の笑い。すると、姉弟の二人も――



「「おかーさーん」」



 二人揃ってもまだ体が小さい分、声も小さかった。


「おかーさんはどこですかあああああああ」


 今度はちゃんと耳を塞いで、兄の大声を防いだ。


「あたたたた、頭の傷に響いた……」


「もう、本当に馬鹿なんだから」


 と――


「明美! 隆之!」


 ぱたぱたと、姉弟の名前を呼んで母親が慌てて走ってきた。


「ほらな」


 兄のしてやったり顔。


「無茶苦茶な……」


 呆れ返るしかなかった。

 ともあれ、迷子の子供姉弟は、あっという間に解決してしまった――

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