21話 男に縋る女

 ねぇ、来週プール行こうよ」


 そう唐突に祐希から言われて、僕と莉奈はプールにやってきた。

 容姿には自信がある2人の現役キャバ嬢の水着を見るのも悪くないと思い、即答で行くと言った具合だ。


 インドアな僕は水着なんて持ってる訳もなく、わざわざ買いに行ったのだが、男性の割に華奢な僕はさぞ水着が似合わない男性なのだろうか。


 そして、なによりも2人の際どい水着を着た美女の横にいる僕は、周りからどう見られているのだろうか。

 まぁ、大方「なにアイツ。不釣り合い過ぎだろ」こんな感じに思われているのだろう。


 ただ生憎、スラっとして胸を盛っている莉奈は僕の彼女なのだ。

 もし、『この子は僕の彼女です』というステッカーがあったら背中にでも張り付けたいくらいだ。


 自分の人生の中でもこんなプールには来た事はなかった。それくらい大きなレジャー施設だった。

 関東の中でも1位2位を争う大きさと聞いているが、それも納得である。


 そんな、大きなプール施設は興味深い場所だと思った。

 親子連れから、高校生であろう男友達で来ている客、若いカップル、そしてナンパでも狙っているのであろうヤンキー風の若者。

 こんな普段交わる事がない人達が、一挙に集まる場所というのもなかなか珍しいのではないだろうか。


 そんな事を考えて、プールサイドで立ち尽くしていると、背後から祐希の大きい声が聞こえた。


「ちょっと、なに他の女見てるのよ! 私だけを見て!」


 僕は白けた顔で祐希を見つめて、無視した。


「無視かよ!」


 そんなツッコミをしている今日も絶好調の祐希だったが、僕は大きな浮き輪を持っている真顔の莉奈に話しかける。


「莉奈プール入ろう。なんか波出るらしいよ」


「うん」


 なぜだろうか。

 その容姿と水着には到底似合わない大きな浮き輪を持つ莉奈が、いつも以上に可愛く見えた。

 まぁ、これがもしかしたらギャップ萌えというやつなのかもしれない。


 大きな波の出るプール。

 祐希ははしゃぎ、僕は莉奈の浮き輪を掴む。浮き輪の莉奈は真顔でただ波に揺られていた。


「莉奈も楽しそうじゃん」


 そう祐希が言っていた。


「えっ、これ楽しんでんの?」


「そんなのもわからないの? めっちゃ楽しそうじゃん」


 波のプールにプカーと浮かぶ真顔の莉奈。多分僕が手を離すと、流れてしまいそうな感じだ。

 ただこの顔は楽しんでいるかといわれれば、楽しんではいない様にも思える。

 だって、プールのど真ん中で真顔を決め込んでいるのだから。


「り、莉奈、楽しんでる?」


「うん。楽しいよ。気持ちいいし」


「ほら、私の言った通りじゃん」


 得意げな祐希の顔に多少の苛立ちは覚えたものの、楽しんでいるなら大丈夫だろう。


「ただ、あそこの人達凄い見てくる」


 そう言って莉奈は男の集団を指さす。

 そこには3人くらいの男共が、莉奈を卑猥な目で見ていた。

 高校生くらいだろうか。とりあえず僕は不快に感じた。


「莉奈止めなよ、向こう見てるから無視しなよ。ほら、こっち行こ」


 祐希は莉奈の浮き輪を引っ張り移動する。


「ちょっと、しんー。早く行くよー。なに立ち止まってんの」


「いや、祐希少し待って。アイツらいっぺんしばくわ。少しここを血の海にしよう」


 僕は殺意に満ちた感じで言い放つ。


「おい、やめろよ」


 祐希は呆れていた。

 そして、莉奈はその様子を見て、少し嬉しそうに自分の大好きな愛用キャラと僕を照らし合わせた。


「殺意の波動に目覚めた信だ」


 それを聞いて祐希は「もう、なんなんの、このバカップルは」そう呟いたのだった。

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