第7話


 翌日、隠密[極]の力を確かめる為に俺が考えた[私はこっちだゴッコ]で遊びながら冒険者ギルドに向かう


 隠密はスキルのオン・オフの切り替えスイッチを体の一部か特定の行動に当てて使用するようでかなり悩んだ。

 やり直しは効かないようで、うっかりチンチンを触るとオン・オフにならないようにドキドキと考えた。


 『そう思ったら、そうなる』のがスキル発動のトリガーだってさ、だってー鑑定さんがー。


 

 簡単で、素早くとなるとアッサリした方がいいなと、左手の親指と人差し指を2回擦り合わせるとスイッチになるように設定した。


 ここでも鑑定スキルさん有能さを発揮。隠密をオンにした時は左手に透過度70%ぐらいで[隠密オン]と文字表示してくれるんだよ。



 ちなみに夜に紛れて隠密の練習とかは今のところ考えていない。ファンタジー世界だから実際にいるだろう幽霊が怖いんじゃない絶対に。ホントだぜ?

 地球でも受験中に体を壊したら意味がないという講師の教えを守って夜は寝れる時はしっかり寝るのが習慣になっている人間なのだよ、でもホントは幽霊が怖いんですすみません。


 

 隠密を使っている時、なんと表現すればいいか闇に溶けるというような感覚がある。それで幽霊とドッキリ☆ドッキングとか怖すぎる。


 さて[私はこっちだゴッコ]だけども、なんて事はない町を歩いている時や立ち食いをする時に人の目線から離れた瞬間に[隠密]を発動して、相手の後ろに回り込み[隠密]をオフにする。


 「おっちゃん小さい茹で卵の串焼き一本おくれ」

 「ほいよ、銅貨1枚だよ!?あれっ‼︎?」

 「私はこっちだ」

 「おごっっ! 俺が後ろを…… 」


 屋台のおっちゃんが茹で卵の串焼きを取る時に目線を下げる、そこで[隠密]ON‼︎ 後ろに回り込み[隠密]OFF!それだけです。


 これの遊びを何回も色々な人にしながら歩いている。こんなに昼前で明るいのに俺の事を見失うようだ。


 「オレは…… 怪我して引退するまで、そこそこ有名な冒険者だったのに…… 俺の後ろを簡単に取りやがった…… 」

 青い顔でぶつぶつと茹で卵串焼き屋台のおっちゃんが青い顔をしているな。声は聞こえないけど余程に驚いたようだ。


 これなら…… いけるか…… !?


 俺は…… 歌う。町中でとにかくキモい歌を…… どうせ試すなら一番酷い歌を……


 「え…… ♪A〜B〜C〜D〜E〜F〜G〜」

 アルファベットの歌を…… ここからだ……

 「HエッチI私はJK女子高生〜♪」


 営業の薗田さんがポツリと作業中に歌って大顰蹙(だいひんしゅく)を買った歌詞だ……

 バッバッ! とレベルアップした事で上がった体幹で周りを見回す。

 「こりゃすげぇわ。誰も俺に気付いていない…… いや歌は聴こえたっぽい熟練の見た目の冒険者がいるけど誰が歌っているか分からないみたいだ」


 歌は聴こえた、と自分の言葉にダメージを受ける。俺は…… なんでこの歌を歌ってしまったんだ…… ?

 【影隠しのマント】が着られる年齢まで町中での熱唱はやめて…… おこう…… うぅぅ……

 


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 「…… おはよ」

 「おう…… どうしたヒロキ、テンションが低いな」

 「いや、大丈夫です。今日は何か仕事ありますか? 」


 冒険者ギルドにテンション下がったまま到着。

 仕事したくないなぁー、今日は帰ろう金あるしとクルリと回れ右をする。

 「…… 何しに来たんだオマエは…… あ、まてまてヒロキ」

 「?ん?なんっすか? 」


 呆れた口調のまま呼び止められる。

 どうやらギルドの立ち飲み酒場にて俺に会いたい冒険者がいるようだ。


 リンドーンの町のギルドも町の外にあるが、ここは安酒でもかまわないなら…… という体裁でカウンターバーがある。寒い暑いも酒を飲んで乗り切るとはますます江戸時代っぽい。


 バーテン1人がコップに置き酒をして並べていて、その酒を買って壁際の壁に据え付けの机にての立ち飲みをする…… 新橋で見た事あるなぁ。


 立ち飲み&安酒だから回転率が早いから客も少ない。

 

 長時間も居座っているのは地面で胡座(あぐら)をかき股間を弄りながら、店で残った酒を足したような格安の混ぜ酒を飲んでるオヤジ冒険者なんかがいる…… 彼?


 オヤジ冒険者に指を指すとギルド職員は首をヨコに振り若い3人組の冒険者を指差した——— あれ?あの人達って……


 「お! 」

 「あ! 」


 目があった! 俺が隠密を覚えるキッカケになった冒険者じゃーん! 恥っず! やっべ!


 町の近くの川辺で魔物を煮て悪臭を撒き散らした冒険者とビジュアル系の歌を大声で歌うのを見られた冒険者の対峙である。


 なんでカラオケなら恥ずかしさはそん・・なに・・なのにアカペラで熱唱しているのを見られたら恥ずかしいんだろうか? そんな事を考えてから入り口までダッシュしてギルドから逃走しようとする。


 しかし、まだ俺は低レベル。

 いくらアイテムを世界一持っていても(自己暫定)低レベル。


 「ちょっと待っておくれよ! 」

 「キャ————— ッ!」

 即座に回り込まれて女冒険者(美人)にガッチリ両手を掴まれグイッと顔を寄せられる。歌を歌っていたのを見られたのもだし、あまりにも恥ずかしくて顔真っ赤で叫んでしまったよ。なんでこんな辱めを!?



 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 

 「えっと、なんで俺に会いたかったんですか? 」

 「ああ、あれだ…… まず謝る。すまない」

 終(つい)ぞ出した事がない悲鳴をあげてしまい、また恥を上塗りした俺!


 ギルド内での冒険者たちの目に冷静になり、場所を変えようとなりました。


 「しかし、こんな場所には入った事ないなぁ」

 「うんうん…… 」

 「すごい」


 喋った順番は斥候スタンク女魔法使いリーサ戦士ダダの順だ鑑定さんアザス。


 今、居るのはリンドーンの町の中心部つまり防御壁外にいる魔物との接敵が一番遠い金持ちが生活している区域だ。

 「金は出します」

 その俺の言葉にホイホイと着いて来た3人の冒険者と共に個室(広い)がある茶館(さかん)に来ている。茶と点心っぽい物を食べられる場所で何度か利用しているのだ。


 ホラ、あれだよ恥をかいたその後カッコつけたいじゃない?オッサンなめるなよポッキリ折れたプライドは金で何とかしたいのだよ浅はかだけど!


 「もむもむ」

 「あぐあぐ」

 「バグバク」


 …… 何しに来たんだこの人達は…… ずっと真剣に点心を食べとるなぁ…… えっと、たかりかな?


 まぁいいや、俺も点心を食べよう。


 そこから無言の時間が続いた…… 餃子っぽいのや焼売っぽいの。美味いんだけどなんか違う。中華料理また食べたいなぁ……


 馬拉糕(マーラーカオ)みたいなしっかりと蒸した甘味のパンを食べてから、やっと3人の冒険者はこちらを見た。

 「すまない」

 「えっと、どの謝罪でしょうか? 」


 斥候スタンクの奢(おご)られたというニュアンスの謝罪にイジワルを言ってみた! 俺も広義には他人の金(惑星単位)でのダダ飯なので怒ってはいないのだよふふふん。


 「…… か、金がないので」

 「ご飯を切り詰めてお金を貯めていたの…… 」

 コクコク


 まぁ、理由は察しているんだよね。鑑定さんがあるから。一生懸命にご飯を食べる女魔法使いリーサの胸をこれ幸いにジッと見ると鑑定さんが発動したんだよねぇ。

 女魔法使いリーサの胸のサイズとその胸元にあるブローチがついでに目に入ったんだよ。


 [死病の幼馴染からの贈り物のブローチ]


 死病とか明らかに金を使うからなぁ。癌で入院した親父は抗がん剤治療やら何やらは高額療養費制度で乗り越えたんだけど+αで生活がカツカツになった記憶がある。


 この星のような文化・医療能力ではかなりの金を使うだろう。


 「金がないならもっと食べるかい?(俺の金ではない)」

 「い…… いいの? デザートも? 」

 「ああ、酒だっていいよ」

 だから女魔法使いリーサさん、もっと前屈みで食いつくように、そう、そう!

 ああ、胸チラごちそうさまです。


 俺の紙石鹸なみに薄くて脆いプライドも、この惑星の金をジャブジャブ使った事と綺麗な女の人にいいカッコしたから持ち直し、フフンという気持ちに。

 俺がフフンフフンとしていたら、そろそろ話をする雰囲気になりだした。



 「ヒロキさん、金を…… 貸してくださいませんか?」

 「え?いいよー」

 目を閉じて頭を下げる斥候スタンクに軽くOKをだす。だってもともとはこの惑星の人々あなた達の金だしね。


 女魔法使いリーサは手に口を当てて驚き、戦士ダダは低く唸って目を剥いた。というか戦士ダダさん喋らないな。ソバの町のギルド受付といい強そうな人は口下手な習慣がこの大陸にあるのだろうか?


 斥候スタンクはまず考えていた言葉を消費し切ってからと思い込んでいたのか、言葉を続ける。


 「…… ウチの村長の娘エレが、鶏舎に紛れ込んでいた子供のコカトリスの毒にやらて…… まだ小さなコカトリスだったから毒のブレスも少なくて即死はしなかったんだが…… 」

 ふんふん、え? 女魔法使いリーサさんコカトリスって何すか?ニワトリと蛇の魔物で毒がある。コエー…… え? たまにニワトリの鶏舎に托卵(たくらん)するのもいる?マジ?コエー……ってか斥候スタンク泣き出しちゃったよ。


 「村長は…… 恩人なんだ。周辺の村や林にいる孤児を引き取り育ててくれるような…… でもコカトリスの毒を治癒するにはコカトリスのくちばし、最高級品の薬草、水ハイポーションがいる…… 」

 トントントンとストレージから斥候スタンクが言った素材を取り出して並べてみる。


 「うぇぁ!? 」

 「うぐぅ…… 」

 女魔法使いリーサは現物の登場に顔を引き攣らせ、戦士ダダは汗を流して椅子に深く座り直した。


 「それを全て調合してもらう錬金術師にも金がいる…… でもそこで出来上がる[コカトリス毒の治癒薬]がどうしても必要なんだ…… 俺は、エレが好きなんだ……」

 「はい」


 トン


 ストレージがら取り出した[コカトリス毒の治癒薬]を机に置くと女魔法使いリーサ戦士ダダは乾いた笑いを出した。


 「おいリーサ失礼…… だ…… ぞ?なんだこれは?」

 「はい、コカトリスのくちばし、最高級品の薬草、水ハイポーションにコカトリス毒の治癒薬です、どうぞ」

 「はい?」

 「いや、必要なんでしょ? 」

 「はい———————— !!?」


 スタンク驚きながらは叫んだとさ。

 いや、今回出したアイテムの残り数ってば例えばコカトリスと人間が全面戦争してやっと捌ける量なんで、どうぞ、どうぞ。



——————  翌日、早速になるけど斥候スタンク戦士ダダの2人は田舎に[コカトリス毒の治癒薬]を届けに帰る事になった。



 「じゃあ…… ありがとうヒロキ! 」

 「いえいえ、こちらこそありがとうございます」


 薬をあげた後、ぜひぜひと短期的だけど寝ずに食わずに必死に冒険者をして貯めた金を薬の代金として全て渡そうとしてきたけど…… うーんストレージの残金パラメータが僅かに増える程度だったから固辞した。


 そのかわり、田舎まで帰る馬車などの旅費を除いた残金で冒険者ギルドに薬草の採取の指名依頼を出してもらい、その場で依頼完了の手続きをしてもらいギルドからの名誉と信頼をいただいた。


 それは金では買えないものだしね。


 「…… えっと帰らなくていいの? 」

 「うーん、帰っても村長の娘エレと男3人の三角関係を見させられるのも嫌だしね」

 「え!?そんなにエレさん美人…… 」

 1人の女性を2人で取り合うとか?


 「違う違う、スタンクはエレが好き、エレはダダが好き…… で、ダダはスタンクが好きなのよ」

 「…… おおふぅ…… 深いっすね」

 なにが?と自分で心の中でツッコミをいれた。

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