第6話


 「えいっ」

 ズンッッッ!!!


 魔力を地面に伝えて、土魔法で地面を円錐(えんすい)に尖らせ遠隔な距離にいるゴブリンを貫く。

 高さ5メートルにもなる円錐が高速で地面から飛び出してくるんだからもちろんゴブリンは四肢胴体などなどがバラバラになりながら空中に放り出される。



 ベトベトボトボトドバドバー。



 そんな擬音が聞こえてきそうな惨劇を200メートル以上離れた場所から顔を青褪(あおざ)めながら眺める。


 「マジ魔法で攻撃ができてよかったよ気持ち悪いわぁ…… 」


 冒険者ギルドで受けた討伐依頼をこなす為にリンドーン近くの林に来ているんだけど…… ゴブリン多くない?


 いや、ファンタジー系のゲームやっていたら敵遭遇(エンカウント)するのは分かる。でも地に足がついた現実で人ならざるものがウロウロと生活圏の近くにいて、よく平気だな異世界住人。ゴブリンってアイドルの名前っぽくない?ごーぶリーン!



 「とりあえず、ゴブリンを倒したから討伐した印(しるし)を…… っと」

 もちろん俺が殺したゴブリンのバラバラ死体には近づかない。

 悪夢見そうだし。遠くの肉塊になったゴブリンの死体にごめんなさいしてからストレージから『ゴブリンの耳』を取り出す。



 おそらく誰かが…… 俺が取り込んだストレージ内の惑星のルーキーだろうかな?が討伐したゴブリンの素材も、もちろん持ち物の中にある。


 俺はぶっちゃけ金は要らない、、、討伐の云々うんぬんとか数を稼ぐ必要はない、なんなら金を稼ぐだけなら抜け落ちたかした竜のウロコとかも持ってる・・・・



 ギルドで仕事をするのはレベルアップと、仕事としてだけでも誰かと繋がっていたいからなんだよね。


 引きこもってもヒマだぞ── 異世界。テレビパソコンゲームなし、新聞や本は文化がイマイチだから面白くない。宿泊するホテルは値段が高い部屋だからルームサービスでかなり美味しい食事もとれるが…… 寂しいでしょ?スクロール消化マシーンにはなりたくないよ。


 

 「───── 鑑定…… よし500メートル東にゴブリンがまたいるな」


 鑑定さんは熟練度[極]に進化?強化?したからなのか暴走しておられる。目を凝らして知りたいことを思うと物の鑑定だけではなく、敵の場所を策定できたりもする。サーベイランス業者とかしたらやべぇ…… 東京でならガッポリいける商売がいくつか思い浮かぶぜ!


 歩きながら、まだ地球での仕事に能力(アビリティ)を活かせそうか考えているんだと気付き苦笑する。


 

 雑貨&輸入品やらの営業だったけどMOSやら簿記の下の方やら色々、なんなら飛び込みの店舗で話のネタにレタリング検定とかも受けた…… ああ、そうか一度は地球で得た経験則や資格がこっちで一瞬でパァになったからスクロール習得にやる気が出ないの…… かな?


 死んで世界が変わった事での資格取得燃え尽き症候群か。そうなのか!?何となく納得する自分がいる。


 などなどウンタラカンタラ悩みながらゴブリンを狩っていく。



 『レベルアップしました』

 「おお、レベルアップだわ鑑定さんポップアップありがとう」

 ARで腕の辺りにスキルの鑑定さんがレベルアップの文字を貼り付けてくれる。便利だ、視界を塞がないし。テンション上がるし。

 

 …… 鑑定スキル持ってない人って、どうやって戦闘のモチベーションを上げてるんだろう?レベルアップが現場で分からないだろうし……

 剣技とかスクロールで取得したけど、接近して戦いたくないなぁ…… もしもの時には必要だろうけど。

 


 ストレージからゴブリンの耳を取り出した時にまだ鮮度が新しいのなんか時々あるんだ…… 血生臭いしゴブリン、雑食だからかベトベトと纏わりつくようなネバネバ緑色の血にオェッとなる。金か?金の為に頑張っとるんか!?


 あぁ、なんて異世界なんだ…… もうちょい年齢を高く受肉してもらえたら異世界の性風俗にのめり込んだかもしれない。ストレージ漁って知ってるんだ…… 【性病の快癒ポーション】があるの…… ふふふ



 俺はスクロール習得がきちんと出来ているか何度も確認しながらレベルが5になるまでゴブリンを殺し続けた後、夕刻前に90年代後半のビジュアル系バンドの曲を歌いながらリンドーンの町に戻った。


 街道側に流れる川の水面に映るイケメン受肉体とビジュアル系の曲は似合うわ!こう!こう!キメポーズをしてクネクネバッ!バッ!ってしていたら他の冒険者に見られて辛かったけどな!


 臭っ!何で魔物を煮てるんだこの人達!?とりあえずかなり恥ずかしいから町までダッシュで逃げよう!


  

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 「おい、見たか? 」

 「…… うん、かっこいい歌にポーズだった」

 「ちげぇよ! 」


 川辺で火を焚き、芋虫の魔物であるデスキャタピラーの皮を茹で煮ている時に若い冒険者が聴いた事もない歌を歌いながら現れた。


 ちなみにデスキャタピラは臭い。町の近くで処理すと苦情が来るし、そのままギルドに提出すると処理代金として1割も報酬が天引きされるクソクソ魔物だ。


 「あいつの装備を見たか? 」


 俺たち3人組パーティーの内、戦士は大いびきをかいて寝ている。臭いデスキャタピラの体液が装備についたまま良く寝れるなコイツ。

 俺の問いに考えこむ女魔法使いリーサの言葉を待つ。


 「わかんない、私はアナタみたいに目利きじゃないから」

 「そうか…… 全てがおそらく高レアな装備だったぞ」

 「…… え?マジで??」


 そう、ヒロキはストレージの中から低レベル自分の筋肉や体力でも装備出来る中でも最高級高レアリティな物を鑑定スキルと相談しながら身につけている。


 風の魔法が付与エンチャントされた靴と上下のインナー、ミスリル鉱石と魔物の糸で編まれたローブ、魔力を超増幅させる刃先の辺りがキラキラ光る片刃のナイフ…… これら装備は王都で活動する数人しかいない超絶に有名(・・)な冒険者と同じ領域にある。


 まぁ、もっと良いものもあるけど持てないし身長が足りないし重いしでヒロキは納得していた。



 「金持ちなのか、実力があるのか…… 」

 「金持ちなら、ちょい融資を頼んでみるつもり? 」


 女魔法使いリーサの問いにギラギラとした目で頷く。


 この20代の3人の冒険者は同じ村の出身であり、ある目的を果たす為に町から街へと冒険者をしながら旅をしている。

 


 「ぐがっ! 」

 バシコーン!と戦士の頭を叩き起すと、煮立ちの為の火に足蹴りに土をかけて消してまだ熱々の素材をカバンにねじ込むとヒロキを追うように彼らは町へと走った。


 そして、この出会いがヒロキがこの世界で過ごす指針になるのだ(おおげさ)。



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


 俺は冒険者ギルドでストレージから薬草とゴブリンの耳を討伐の印として提出し依頼を完遂する。

 よしよし、仕事のあがりは酒を…… え?未成年はダメ?さいですか……


 酒場に飲酒を断られた悔しさからパンパンと自分の太ももを叩き、トボトボとホテルに戻った。


 「はー、疲れた」

 風呂に入り血の臭いや汚れを落としてからルームサービスでステーキとサラダに白パンを食べてベッドに倒れ込む。


 あの時の…… 思いが…… よみがえる。

 悔しくて、情けなくて……


 「何で歌う前に周りを確認しなかったんだろう。何でクネクネと踊ったんだろうー」

 そう、実はビジュアル系の曲を大声で歌っているのを見られてずっと恥ずかしかったのだ。酒場でて太ももパンパンも嫌な思い出が関係していたのだ。



 顔面真っ赤である。枕に顔を埋めてバタバタ足をするである。


 「冒険者の火を焚いていた兄ちゃんは凝視してるし、お姉ちゃんはポカンとしてるし」

 しかもお姉ちゃん美人だったのが記憶の中で追い討ちをかけてくる。美人に呆気にとられる事がこれ程…… これ程にぃぃぃぃ……


 「キャーーー!」

 思わず叫んでしまう。やってられない感。


 「ぐぬぅ…… 俺は知っている。俺は、絶対にまたこんな失敗をしてしまうだろう…… 何とかせねば」


 [ワールの日記]を荒々しく床に出してページをめくっていくと…… しばらくしてヒロキの指が止まる。


 「隠密(おんみつ)の…… スキル…… ゴクリ…… 」

 ワールの日記にはこうある。


 『隠密のスキルはユルド大陸にある王朝を失墜させたアサシンが習得していたという。5人の王族の暗殺と機密文書の漏洩を1人の人間がしたという《中略》またそのアサシンの同僚の後々になるが告発によると装備品にアサシンが自作したという[影隠しのマント]を愛用したらしく、隠密のスキル能力(アビリティ)を底上げしたと伝えられている。』


 ワールの日記を読んだ後にヒロキは震えた。


 「…… ある…… 両方ともある…… 」


 次にヒロキはストレージを確認しながら大笑いした。


 【隠密のスクロール 460枚】

 【影隠しのマント 1着】


 あるがー!あるがー! しっかりあるが!聞き齧りの郡上の方言で喜んだが、しかし羽織ってみたマントは身長が足らずに装備出来ないと気付き落ち込んだ。


 もちろん、その夜のうちに隠密を[極]まで習得したのは言うまでもない。


 

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