第29話 意外な二人 〜レンドール&ミオン〜

 竜の首コロシアム『グランドマスターズ』本選開始がやってきた。

 今、彼らは試合飯を食べつつこの日に行われるダブルスデビューの組み合わせについて話し合いをしている。

 ダブルスクラスは文字通り二人で組んで、出場するモンスターを討伐すれば試合終了となる。戦うモンスターの数はシングルクラスと同じ3体。

 武器自由、防具自由、装飾品アクセサリー装備は可能、とシングルデビューとルールの大差はない。シングルクラスでは一人だけだったのが、今回はダブルスで挑む闘いなのだ。

 

「ダブルスを組むということでまずは基本的な方法は回復魔法を使える人間と攻撃が得意な人間と分けるのが安全といえば安全だな」

「そうなると、レムとアネットは別行動かしら?」

「そうね。そうなるわ」

「テオ君は誰と組みたい?」

「僕は誰でも大丈夫ですよ。ミオンさんとはキールカーディナルで何回も組んでいるし、アネットさんとも組めると思いますよ」

「レムは誰と組みたいの?」

「俺か?そう言えば、ミオン君とは一度も組んでないな。テオ君とは何回か経験はしているけど。アネットとは既に阿吽の呼吸だよ」

「ミオンちゃんは?」

「あたし?そうねー、レムとは確かに組んだことないね。この際だから組まない?あたしと?」


 活気に満ちた褐色の瞳がレンドールに挑戦するように見つめた。

 レンドールは試合飯を食べながらその視線を受け流す。でも当人はまんざらでもない様子で答えた。


「そうだね。君がいてくれるなら絶対に勝てる自信はあるな」

「結局のところ、ミオンちゃんと組むの?」

「ああ。今回の戦いは俺はミオン君と組む。アネットはテオ君と組んでくれ」

「わかったわ。テオ君なら安心できるし」

「決定ですね。それにしても試合飯も増えましたね」


 試合がかなり進行したことにより作られる試合飯もバリエーションが増えた。ロックラック産の野菜は不思議な効果の試合飯が多い。

 例えば、ロックラッククルミとロックラッカセイと試合飯”ロックラック名物ナッツ炒め”は運を上げる効果だ。ちなみにこの”運”を上げる効果だが、運勢も上げるのではという噂もある。

 ロックラッククルミとトルーユ貝で作る試合飯”トルーユ貝のクルミ揚げ”はMP《マジックパワー》アップが期待できる。

 ロックラックコーンとロックラッカセイで作る試合飯”ロックコーンスロー”は食べると身軽になれる素早さアップという効果。

 そうしてダブルスで組む二人の相棒を決めたインビジブルナイツは、竜の首コロシアムへ向かった。

 本選が行われる闘技場コロシアムは第2コロシアム。アストリアには4つの闘技場があり、今まで彼らが戦っていたのは第3コロシアムだった。

 これから先は第2コロシアムへ舞台を変える。

 竜の首コロシアム第2コロシアムではオッズを見に来ている観客でごった返している。

 そこにはディープスカイのウエイトレスのエリナも来ている。熱心にオッズを見て、ディープスカイの常連客の彼らのオッズを確認していた。

 彼らは絶対的な本命とはいかないまでも安心できる本命というのが観客から見たインビジブルナイツの評価だ。

 

「ダブルスが開始されるのは今から30分後。彼らの出番は4番目と5番目ね」


 エリナは彼らにコインを100枚賭けて、賭け札を受け付けから貰った後、闘技場コロシアムの観客席へと向かった。


 その頃、彼らは運営から今回のダブルスのルールを聞いている。

 試合は3試合。一つのモンスターにつき1試合とカウントをして、それを3回勝ち抜けば次のダブルスクラスビショップバトルへいける。

 モンスターが倒された時点で相棒が力尽きていても突破とみなされる。

 相棒が倒された時に次の試合が始まったとしても、蘇生は試合中のみにすること。

 全滅したら失格、闘技場コロシアムからの逃走も失格。

 出場モンスターは、ここからは火竜かりゅうレッドワイバーン、雌火竜めすかりゅうグリーンレイア、紫毒鳥しどくちょうパープルクロウが出場することになっている。

 それぞれ共通しているのは猛毒と火の使い手だ。今回は基本中の基本、毒への対処能力が試される。

 説明を聞き終えた選手たちは選手控室へと戻っていく。今回、ダブルスクラスに出場するのは12組、24名である。

 インビジブルナイツは4番目と5番目が出番となっている。


「ついに来ましたね。火竜レッドワイバーン、雌火竜グリーンレイア、紫毒鳥パープルクロウの飛竜族の御三家ですよ」

「弱点は共通しているな。氷か水だよ。意外と雷も効く」

「ねえ?あの景品が役に立つんじゃない?」

「ロゼッタの指輪か。あれは確かに役に立つな」

「トルマリンの指輪も役に立ちそうね」

「ミオン君はトルマリンの指輪を装備した方がいい。猛毒さえ回避してしまえば攻撃のチャンスは増える」

「レムは?」

「ロゼッタの指輪にするよ」


 4番目に出場するレムとミオンはそれぞれ、弱点をカバーする装飾品アクセサリーにした。

 トルマリンの指輪は猛毒回避の効果、ロゼッタの指輪は火属性ダメージ吸収という効果だ。

 そうこうしているうちに彼らの出番が巡ってくる。係員が彼らを呼びにきた。


「レンドール選手、ミオン選手、闘技場入り口までお越しください」

「じゃあ、かるーくぶっ飛ばしてこようか?レム?」

「じゃあ、行ってくるよ」


 闘技場コロシアムへ続く廊下で彼らはそれぞれアイテムポーチの確認や軽いストレッチをしている。ミオンは武器は引き続きシルフィードを装備している。メタルフィストよりも単純に攻撃力は高いからだ。

 レンドールも引き続きブラッディクロスを装備している。銃はデザートストーム。彼は手持ちの魔法弾も確認していた。

 

「よし。こちらは準備完了だ。ミオン君は?」

「大丈夫、行けるわ」


 彼らは互いの拳を合わせた。そして光の先の闘技場へと歩いていく。

 彼らが登場するとにわかに観客がざわめきだした。今回のダブルスデビューでの注目のカードと呼ばれる二人だからだ。

 闘技場の乾いた砂の風を感じる二人。太陽が一番高い位置へ昇る頃に、レフェリーの鬨の声と共に試合が始まった。


「試合開始!」


 係員が檻から火竜レッドワイバーンを解き放った。火竜レッドワイバーンはポピュラーな飛竜だ。真っ赤な鱗に、大きな翼、天空の王者の異名で知られるキールカーディナルでも有名な飛竜。

 

「ミオン君!先制攻撃だ!援護は任せろ!」

「OK!行くわよ!」


 ミオンが雄々しい叫びを上げて、一気に間合いを詰めた。そして初っ端から豪快なアッパー攻撃を食らわせる。


「スマッシュアッパー!」

「出た!武闘家ミオンの必殺アッパー攻撃!あれを食らってフラフラになる飛竜がいっぱいいたんだよな」

「コキュートス!」

「旦那は魔法で攻撃か。役割がはっきりしているな、このダブルスは」


 火竜レッドワイバーンが3連ブレスを吐く。炎の弾がミオンに襲い掛かる。


「マジックバリア!」


 魔法障壁マジックバリアがミオンに張られる。レンドールが叫んだ。


「ミオン君!そのまま間合いを詰めて飛燕を叩き込め!炎の弾に当たってもダメージはないはずだ!」

「やってやるわよ!」

「マジか!?自分から炎の弾に当たりに行った!」

「何を考えているんだ!?」


 だが、ミオンは炎のブレスをあっさりと突破してレッドワイバーンの頭に飛燕を叩き込み始める。シルフィード装備なので飛燕もナイフのような切れ味を持っているのだ。

 火竜レッドワイバーンが一気に気絶させられた。

 ミオンの背後で猛吹雪を呼び出すレンドール。そして一気に勝負に出る。


「ミオン君!離れろ!魔笛散弾射まてきさんだんしゃ!」

「うおっ。凄い猛吹雪だぜ!こっちまで凍えてしまう」

「レム!あたしにいい考えがあるんだけど」

「何だい?」

「3段キックをとどめに使うから、それに何か魔法を合わせて!」

「連携技か。氷の魔法を合わせるぞ、いいな?」

「とどめ!いくわよ!」


 火竜レッドワイバーンが猛吹雪からもがいていると彼らがそれぞれの動きに合わせて何かをするように見えた観客。

 何をするつもりなんだろう?観客の視線が火竜レッドワイバーンに集まる。

 すると武闘家ミオンが高く跳躍して、蹴りを叩き込むと同時に、レンドールから氷の呪文が放たれた。

 ミオンの脚の部分に氷のエネルギーが集中して火竜レッドワイバーンの背中に3段キックを浴びせられた。

 火竜レッドワイバーンがバッタリと倒れて即死してしまった。


「あれは何だ?一体?!」

「見たことがないぜ。あの技」

「あえて言えば”連携技”じゃないかな」

「ダブルスならではの技か」


 火竜レッドワイバーンが息絶えてすぐさま雌火竜グリーンレイアが檻から放たれた。

 このグリーンレイアはレッドワイバーンのつがいの飛竜として知られており、陸の女王と異名がついている。尻尾には猛毒が潜んでおり、火竜レッドワイバーンよりも陸戦の頻度は高い。

 グリーンレイアも3連ブレスを吐いた。標的はレンドールだ。


「危ない!旦那!」


 だが、ここでレンドールが背後の剣に手をかけて、加速装置イクシードを発動させた。

 機械的な間合いの詰め方で炎の3連ブレスをいなしながら、一瞬の居合抜きを放つ。


桜花気刃斬おうかきじんざん!」


 ミオンも同時にフリッカージャブでレンドールに合わせる。同時に強靭な脚力でフリッカーをナイフのようにしてまるでお互いが線を交差させるように駆け抜ける。

 十字が交差する場所にグリーンレイアがいる。まるでエックスの文字を書くように放たれたこの技はエックス斬りの愛称で呼ばれるものだ。

 グリーンレイアが交差した場所から血を噴き出す。

 

(うまいぞ!ミオン君!もう一発だ!)


 レンドールがミオンの褐色の目を見て頷いた。


「もう一発ね!」


 彼らがまた身体の向きを変えてもう一度、エックス斬りを叩き込もうと、お互いに先ほどの技を繰り出す。

 エックスの文字を刻む時にお互いにぶつからないように瞬間的に踏切を調整するミオン。レンドールは加速装置イクシードを使っている分、少し速くなっているので、彼女はそのまま脚力で踏み切った。

 観客の皆はまるで一対の舞踏家が踊りを披露するかのように剣と拳の舞を披露する彼らに見惚れる。

 またエックスの文字をグリーンレイアに刻みこむ。その度に緑色の飛竜の身体から血が噴き出す。

 彼らのエックス斬りが5回程炸裂する頃にはグリーンレイアは血まみれになり力尽きてしまった。


「うわ~。あの陸の女王があの二人の前では微塵斬りかよ」

「なんだかんだ言って、最後だぞ」


 グリーンレイアが微塵斬りにされて死体の確認もするまでもないと判断した係員が紫毒鳥パープルクロウを檻から放つ。

 すると紫毒鳥パープルクロウが独特の鳴き声を上げた。余りに大きい咆哮は耳をつんざく勢いで思わず耳を塞ぐ両者。

 そのままパープルクロウがミオンに突っ込んできた。

 虚を突かれたミオンが壁に叩きつけられた。壁に押し込んだパープルクロウがムーンサルト攻撃で尻尾を器用に操りミオンを嬲る。


「ミオン!」


 レンドールが怒り、恐ろしい水の洗礼を授けた。

 水の最強魔法を唱えてその紫毒鳥パープルクロウの動きを止める。


「ディバインフラッド!」


 何もない上空から恐ろしい水の洪水が紫毒鳥パープルクロウに襲い掛かる。パープルクロウが今度は虚を突かれた。恐ろしい水の圧力がまるで滝のように降り注ぐ。

 ミオンが口から血を吐いた。腹部も血が滲んでいる。

 たまらずミオンはレンドールのところまで逃げてきた。

 レンドールがディバインフラッドで足止めをしている間にミオンは態勢を立て直す。


「ミオン!今すぐ回復魔法をかける」

「気を付けて…あいつの…サマーソルトは猛毒があるみたい…!トルマリンの指輪をつけて正解ね…ゴホッ」

「近づくのは危険だな…」

「もう…大丈夫だから。手持ちの回復薬で治療するからあいつを倒して!」

「無理はするなよ」


「おい、武闘家の姉ちゃん、大丈夫かよ…」

「さっきまであれほど優勢だったのに形勢が逆転したぞ」

「旦那はあの紫毒鳥パープルクロウをどうやって倒す気なんだ?」


(ディバインフラッドを連発するだけで倒せるなら苦労はないがあいつは異様にスピードがある。こっちもそれに対応しなければ…!)


「ヘイスト!」


 レンドールが時間魔法を唱えた。疑似的に身体能力の反射神経の速度を上げて魔法から武器の使用から全ての扱う時間を速める魔法である。

 そのままレンドールが相手の鎧のような甲殻を一時的に紙のような薄さにする魔法を唱えた。デプロテと呼ばれる魔法でこれは相手の防御力を著しく減少化させる呪文である。

 ミオンが戦線に戻ると同時にレンドールは指示を出した。


「ミオン!イナズマキックだ!」

「わかったわ!いくわよ!」


 ミオンは壁際にいたので壁を反動に使って身体のばねを利かせて、稲妻のような速さで蹴りを出した。


「イナズマキック!」


 そこにレンドールの思わぬ力も加えられていた。雷系で最強の魔法ギガボルトである。


「ギガボルト!」


 青白い雷光の力が加えられ、一気にパープルクロウの顔面を潰す勢いで、そのキックはクリーンヒットした。

 インパクトの瞬間に雷光エネルギーが一気に解放されて紫毒鳥パープルクロウの全身に数万ボルトの電流が流れる。


「何だ!?今のキックは~!?」

「すげえ。まるで雷のキックだ」

「イナズマキックと叫んでいたよな。あれはさしずめ”スーパーイナズマキック”だな」


 紫毒鳥パープルクロウが全身をけいれんさせてバッタリと倒れて即死してしまった。パープルクロウの身体からは稲妻が落ちたかのように真っ黒に炭になっている部分も見える。

 焦げ臭いにおいに係員が顔をしかめて確認する。即死していた。レフェリーにも首を横に振って生きてないことを告げる。


「勝者!レンドール&ミオン選手!ダブルスデビュー突破!ダブルスクラス、ビショップバトルへの出場決定とする!」


 レフェリーの高らかな宣言と同時に闘技場コロシアムは一気に歓声に包まれた。


「やったーっ!ダブルスデビュー突破したぞ!」

「ミオン!ミオン!」

「レンドール!レンドール!」


 闘技場コロシアムはしばらくの間、彼らの名前を連呼する観客の歓声が遠雷のようにこだましていた。

 初めてのダブルスを組んだレンドールとミオンは、互いに健闘をたたえて、握りこぶしをして、そしてまた合わせた。

 二人して笑顔になり観客の声援に手を振り答える彼らがいた……。

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インビジブルナイツ 〜竜の首コロシアムへようこそ!〜 翔田美琴 @mikoto0079

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