青藍の章

第27話 本選出場決定の夜にて

 とうとう竜の首コロシアム『グランドマスターズ』本選出場決定を果たしたインビジブルナイツ。ここからはダブルスやパーティーバトルも絡めた本格的な闘技場になる。

 明後日からはダブルスデビューバトルが始まり、その次からはパーティークラスデビューバトルも始まる。

 まずはこれからの戦いへ向けて鋭気を養うことが重要なので彼らは酒場”ディープスカイ”へと向かう。今日という日は西の空に沈み空を茜色に染めている。そして三日月がその姿を現すようになる。

 今回の3次予選を突破を果たして、彼らに声をかける商人もだいぶ増えてきた。大概の話は彼らへ”食材”を提供したいという話だ。本選出場決定はそれだけ大きな大会の看板競技でもある。

 今回の戦いで手に入った”食材”は、アストリアの商人からは、タケノコの仲間のツチタケノコと、完熟シモフリトマトの2種類の野菜。それからトルーユ独立国からはトルーユ蟹という魚介。ロックラックからはロックラックコーンというトウモロコシが入荷した。

 またもや食材が増えてシェフのリヴァスはさぞ大変だろうなと思いながら、彼らは快く受け取った。食材が増えるということは試合飯もバリエーションが増える。効果の高い試合飯も発案されるかも知れない。

 そうしてディープスカイへと入店するインビジブルナイツ。いつものようにウエイトレスのエリナが出迎えるかと思ったが、今夜は女性バーテンダー、ジルが出迎えた。


「いらっしゃいませ、ディープスカイへようこそ!インビジブルナイツの皆さん」

「やあ、こんばんは。ジル」

「あれ?エリナさんはどうしたの?」


 いつもエリナが出迎えてくれるのに珍しいなあと思ったミオンは気軽に聞いた。

 ジルは呆れた様子で答える。


「エリナさんは多分、今頃、闘技場コロシアムですね。インビジブルナイツの皆さんが快勝してくれましたから、調子に乗って全部の試合に参加していると思いますよ」

「ギャンブル好きなんだね」

「あまり調子に乗ると痛い目に遭うのにエリナさん夢中になると見境が無くなるんですよ」

「あの子らしいね」

「インビジブルナイツの皆さんはもういつもの指定席で決まってますから」


 そうして指定席に座ると本日のお品書きを読む。この瞬間が楽しみでもある。

 本日のお勧めメニューは、シモフリトマト添えのハンバーグ・キングトリュフソースだ。もう一品はリノリノスのサーロインステーキ・アンチョビソース仕立てらしい。


「このリノリノスって何だい?」

「草食竜のリノリノスって知っています?あれの食用肉ですよ。牛のサーロインステーキ並みに美味しいんですって。値段はこちらが断然お得なんです。それをアンチョビソースでいただくのがお勧めなんですって」

「僕はこのリノリノスのサーロインステーキでいいかな。美味しそうだ。ライス付きで」

「あたしはそれじゃあ、ハンバーグでいいや。パンもつけて頂戴」

「面白そうね。私もリノリノスのサーロインステーキでいいわ。ライス付きで」

「へえ、俺も食べてみるか。リノリノスのサーロインステーキ。俺はパンでいい」

「お酒はどうしますか?」

「せっかくだしカクテルでも頼むかな。ブレイジングマーズで」

「私はマーキュリーブラストでいいわ」

「ノンアルコールでお勧めのあります?」

「アネットさんの頼んだマーキュリーブラストもノンアルに出来ますよ?」

「じゃあ、僕もマーキュリーブラストで」

「あたしもブレイジングマーズを頼むわ」

「ご注文を確認しますね。シモフリトマト添えのハンバーグ・キングトリュフソースをパン付きはお一つ。リノリノスのサーロインステーキ・アンチョビソース仕立てが三つ。おひとりさまがパン付き。お二人様がライス付きでよろしいでしょうか?」

「後で追加の注文できるよね?」

「はい」

「所で今夜のディナーショーは誰?」

「今夜は歌姫シェリルちゃんですね。だから今夜は混みますよ?」


 今の時間はそれでも夕方の5時。ディナーショーは6時から。だが、確かに店内は混雑していた。皆が皆、客席確保に余念がないのだ。

 するとシェフ兼店長のリヴァスが珍しく厨房から出て来て彼らの顔を見に来てくれた。グランドマスターズ本選出場決定と聞いてリヴァスも驚いていたのだ。


「よう!インビジブルナイツ。凄いなあ。グランドマスターズ本選出場決定だって?おめでとう!」

「これもリヴァスさんとか皆さんのおかげですよ」

「実力もないとあそこの本選出場は出来ないぜ。大したもんだ。これから先、辛くなるだろうけど試合飯も改良して提供するから安心しろ?」


 店内は丁度、歌姫シェリルが周りのバンドに確認を取っている様子がうかがえる。背後のバンドの構成は、ドラムス、ベース、エレキギター、キーボード、トランペット、サックス、ピアノなどのジャズバンドの構成だった。

 ジルは4人分のカクテルを手慣れた調子で作る。ブレイジングマーズは真っ赤なカクテルで少しピリッとした感じのカクテル。マーキュリーブラストは透き通るように青い色のすっきりとした甘めなカクテルだ。

 店内は徐々に静けさが支配していく。そして彼らが食事に舌鼓を打つ頃、歌姫シェリルのディナーショーが始まった。


「こんばんは-!シェリルでーす!皆さん、今日も調子はいかがでしょうか?」

「絶好調だぜ~!シェリルちゃ~ん」

「闘技場の方は、いよいよ明後日からグランドマスターズ本選ですね。私も楽しみにしているんですよ。もちろん皆さんと過ごすこのディナーショーも楽しみです。それでは早速、1曲歌います。今夜は少ししっとりとしたバラードをお楽しみください。曲名は「Live to Tell(リヴ・トゥ・テル」」です」



ひとつ 話したいことがあるのよ

時々 隠しているのがつらくなるの

突然 こんなふうにつまづくなんて思いもよらなかった

目がくらんで 壁の文字に気付かなかったのね


男の人が千回も嘘を付けることが身に染みてわかったわ

知ってしまった秘密を 

いつか話せる時が来るまで生きていたい

それまではきっと 私の中で燃え続けるでしょう


綺麗なあの女性ひとの居場所なら知っているのよ 

一度だけ見たことあるもの

思いやりのある女性ひとなんでしょう 

でもあなたには見えなかっただけ

私の中でも輝いているあの光を  

今更あなたに奪えはしないわ


男の人が千回も嘘を付けることが身に染みてわかったわ

知ってしまった秘密を 

いつか話せる時が来るまで生きていたい

それまではきっと 私の中で燃え続けるでしょう


真実はすくにはばれてしまうものだけど 

あなたは上手く隠し通してきたのね

あの時知ってしまった秘密を 

いつか話せる時まで生きていられれば

私にももう一度チャンスが訪れるかしら? 

逃げだした所で

そんなにも遠くへ行く力もない私 

この波打つ心臓の音を

どうしたら聞いてもらえるのかしら? 

心に隠しているあの秘密も

やがて冷えるのかしら 

私もいずれ年老いていくわ

どうしたら聞いてもらえるのかしら

いつになったらわかってもらえるのかしら

どうしたらわかってもらえるのかしら


男の人が千回も嘘を付けることが身に染みてわかったわ

知ってしまった秘密を 

いつか話せる時が来るまで生きていたい

それまではきっと 私の中で燃え続けるでしょう


真実はすくにはばれてしまうものだけど 

あなたは上手く隠し通してきたのね

あの時知ってしまった秘密を 

いつか話せる時まで生きていられれば

私にももう一度チャンスが訪れるかしら? 

逃げだした所で

そんなにも遠くへ行く力もない私 

この波打つ心臓の音を

どうしたら聞いてもらえるのかしら? 

心に隠しているあの秘密も

やがて冷えるのかしら 

私もいずれ年老いていくわ

どうしたら聞いてもらえるのかしら

いつになったらわかってもらえるのかしら

どうしたらわかってもらえるのかしら



 この曲は歌姫シェリルの中でもクールなバラードで人気がある。時折入るエレキギターの伴奏がカッコイイと評判で、歌姫シェリルにしてはかなりクールな雰囲気のバラードだった。

 歌姫シェリルはかなり恋愛遍歴がある人物でもあり、当の本人も美女である故に、すれ違う男女の恋も知っている。

 彼女が歌うとそれがリアリティがあり説得力がある。なので結構、このような歌でも人気がある。

 一曲目のクールなバラードが終わると、歌姫シェリルの本領である明るいハッピーな曲になった。

 その曲に合わせて、ある者は手拍子を合わせて、ある者は踊り出す。徐々に酒場内は無礼講の様相に呈してきた。

 そんな頃に、ウエイトレスのエリナがドアをそっと開けて、忍び込んでくる。どうやら闘技場でしこたま儲けてしまって出られなくなっていたのだろう。

 しかし勘が鋭いリヴァスはエリナの気配にも気付いて、店長らしく振る舞う。厨房からリヴァスの声が響く。


「エリナ!闘技場コロシアムに夢中になるのもいいが、仕事の時間を忘れるな。制服に着替えて食器やグラスを下げてくれ」

「よう、エリナ」

「インビジブルナイツの皆さん!今日の闘技場の戦い、しびれましたよ!」

「エリナもがっぽり儲けたようだね」

「とりあえず制服に着替えます。また後で」


 ジルは彼らが座るカウンター席の前でカクテルを作っている。

 茶髪と金髪を混ぜたような色合いのロングヘアーの女性で、制服はバーテンダーらしく女性用ワイシャツに首にはネクタイ。黒いベストに下半身は細身のズボンだ。靴はヒールがあるパンプスだった。

 ジルも興味深そうに彼らの戦いを観ている様子だ。この間の3次予選に観戦に来ていたと話す。


「私もシングルデビューは皆さんの戦いを観戦させていただきました。本当に強いですよね。皆さん」

「明後日からはダブルスデビューとパーティーデビューが始まるんだよな」

「ダブルスだから組み合わせを決めないとね」

「まあ、おいおいそれは決めよう」


 エリナがゴシックロリータのウエイトレスの服に着替えて、客が食べ終わった食器やグラスを片づけ始めた。

 ディープスカイのステージでは歌姫シェリルの歌声が綺麗に響きわたる。

 そうして、宵も更けて22時。

 歌姫シェリルのステージも終わり、店も閉店時刻になり、彼らも食後の満足感を覚えたまま酒場から出た。

 アストリアは宵が更けても、賑やかな街だった。

 メインストリートではサーカスのパレードがされている。

 まるでひと時の夢のような時間を過ごすことが出来る不夜城。

 

「たまには一晩中、遊んでいかない?」

「僕は構いませんよ」

「俺は宿へ帰るよ。何だか疲れたし」

「私も帰ろうかしら。テオ君とミオンちゃんで遊びにいってらっしゃい」


 テオとミオンが真夜中のサーカスのカーニバルを観に行く。

 レンドールとアネットはそのまま夜道を歩いて、宿へと向かった。

 不意にアネットは聞いた。アネットなりにずっと気になっていた、レンドール・ボーフォードの出生についてだ。


「ねえ、レム。貴方の生い立ちについて、気になることがあるんだけど」

「いきなり、何だい?」


 脚を止める両者。レンドールは澄んだ青い目をアネットに向けた。


「遠い噂で聞いたんだけど……貴方は、あの伝説の剣豪、ハロルドの血を継ぐ……遠い子孫なの?」


 レンドール・ボーフォードはその言葉を聞いて、全身を硬直させてしまった。

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